第8話 それでも君に、


 まさか、そんな…。


「これが、私の過去です。」


 僕が…、彼女の…。


「幻滅、したでしょう?不二先輩には何も関係ないのに勝手に恨んで…。すみません。もう、先輩には近づきません。どうか、忘れてく…、」

 僕は莉奈ちゃんを抱きしめた。きつく、けれども優しく抱きしめた。


「せん、ぱい…?」

「…、めん。」

「え?」

「ごめん、僕の、せいで…。君に近づいていけないのは僕の方だ。」

「先輩?」

「僕は、君の笑顔の本当の意味を知らなかった。謝らなくちゃいけないのは僕の方だ。ごめん。きっといくら謝っても君の傷が癒えることはないかもしれない。謝るのもただの自己満足でしかない。でも…、ごめん。本当に、ごめん。」


「…、先輩。」


 僕は怒鳴られることも、頬を叩かれる覚悟も出来ている。だから、ただ…、


 そばに、いて欲しいんだ。


「私、先輩に会えてよかったって思ってます。」

「え?」

「だって、あの時、あの場所で、先輩とお話していなかったら今も、先輩のことを恨んでいると思います。だから、」


 ああ、この子は…、


「そんな」


 とても


「悲しいことを」


 優しすぎるんだ…。


「言わないでください。」



「僕は…、そんな風に思われることをしたかもしれないんだよ?だったら…、」


「かも、でしょう?憶測だけの話です。それに、私は先輩のことを恨んでいました。だから、お相子です。」


 莉奈ちゃんは本当のきれいな笑顔で微笑んだ。


 僕は、この笑顔が


「好きなんだ。」

「え?せん、ぱい?」

「僕は、君のことが好きなんだ。君の、莉奈ちゃんの笑顔が好きなんだ。」

 僕は、思わず思っていたことを口に出していた。


「せん、ぱい?え?あの…、え?」

「僕は、君が好きなんだ。断ったっていい。でも、僕の気持ちは知ってほしいんだ。」


 もう、この恋も終わりだな…。


「先輩。私も、好きです。」


「え?」

「どうして好きになったのかわかりません。…、私は先輩のそばにいたいんです。ただ、そう思うんです。」


「莉奈ちゃん!」


 僕は莉奈ちゃんを力強く抱きしめた。

「なんですか?」

「ありがとう。好きだよ。」

「私も、大好きです。」


 二人で向かい合って微笑みあった。




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