Clap Log
■ 7.初めて呼ぶ名

「・・・また来ておるのか。」
隊舎に入るなり、銀嶺は呆れた声を出す。
視線の先には孫娘。
すやすやと眠っているようだった。


困った子だと、いつも思う。
だが、彼女の身の上を考えれば、仕方のないことでもあった。
だからといってこのままというわけにもいくまい、と眠る孫娘に毛布を掛けてやりながら思考を巡らせる。
・・・多少の荒療治は必要かもしれぬ。
銀嶺はそう考えて、あることを決めた。


「・・・あ、居たいた。」
「おーい。話があるんだ。降りてきてくれ。」
いい加減慣れてきた声と気配が近づいて来て、目が覚める。
屋根の上で眠っていたらしい。
起きあがって下を見れば、軒下に立つ二人の男。


『何の用だ。』
そのまま問えば、白い男が苦笑しつつ一枚の書類をひらひらとさせる。
「まぁ、これを見ろ。」
仕方がないので下に降りてその書類を受け取った。


『・・・こ、れは・・・。』
渡された書類は演武大会選手名簿。
演武大会は護挺十三隊、鬼道衆、隠密機動及び死神統学院の代表が斬拳走鬼を披露するもの。
その中に己の名があることに、愕然とする。


「僕ら、三人とも選ばれているようだよ。僕が斬術で浮竹が鬼道。」
「で、お前は特別枠。演武大会の前座のようだな。」
『前座・・・。』
「毎回、前座では舞が舞われる。いつもは隊士の中から舞の上手が選ばれるのだけれど、今回は君が選ばれたみたいだよ。君って、舞の上手だったんだね。」


こんなの、聞いていない・・・。
一体、誰が選んだのだ・・・。
そう思って下の方にある選出人の名簿に目をやる。
『山本元柳斎重國、卯ノ花烈、朽木銀嶺・・・そういうことか・・・。』
挙がっている名前を見て、何故私が選ばれたのか理解する。


この面子が選出人では、逃げることすらできない・・・。
逃げれば彼らの顔に泥を塗ることになるのだ。
それは、出来ない。
朽木家のためにも・・・忌々しい己の家のためにも。
そして何より、蒼純様にも迷惑がかかるのだ。


『・・・・・・そうか。行かねばならないな。』
呟けば、目の前の男たちは目を丸くした。
「偉くすんなりと受け入れるんだねぇ。」
「お前のことだから、にべもなく断ると思った。」
『心の底から断りたいが、それが出来るほどの理由を持ち合わせていない。』


「なるほど。お前でも断れないのか。」
「君もさすがにこの三人には敬意を払うわけだ。」
『・・・一週間後か。』
二人の言葉には答えずに、逡巡する。
気は乗らないが、この二人に頼むしかないか・・・。


『・・・・・・浮竹十四郎、京楽春水。』
彼らの名を呼べば、これ以上ないほどに目を見開かれた。
「君、僕らの名前覚えていたの・・・?」
「初めて呼ばれたな・・・。呼ばないのは覚えていないからだと思っていた・・・。」
好き勝手言いやがって・・・。
そう思いながら二人を睨みつければ、何故だか彼らは笑った。


「ふふん。まぁいいさ。・・・で?僕らに相談事でも?」
やはりこちらの男は面倒だ。
無駄に鋭い。
『・・・そうだな。』
「まぁ、この面子だからな。何かあるんだろ?」


『・・・私を表に引きずり出そうとしている。まるで拷問だ。私を衆人の前に晒せと言うのだから。』
忌々しげに吐き捨てれば、首を傾げられた。
「えーと、一応聞くけど、舞は出来るんだよね?」
『当たり前だ。舞が舞えなければ巫女は務まらない。』


「それじゃあ、他に理由が?」
そう問われると同時に耳が草を踏む音を捉えた。
『・・・人が来た。話は後だ。場所を変える。付いて来い。』
それだけ言って瞬歩を使えば彼らは慌てて付いて来るのだった。

[ prev / next ]
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -