Clap Log
■ 6.特別講義

「皆さんこんにちは。六番隊所属の朽木蒼純です。僭越ながら、今日は皆さんの講師を務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。」
そういってニコリと微笑んだ年齢的には同世代であろう青年に、浮竹と京楽は一瞬視線を向けられた気がした。


がた、ん。
静かな教室に、そんな音が響く。
『何故、蒼純様が、こちらに・・・。』
唖然とした様子の彼女は、慌てたように蒼純に駆け寄った。
彼女に表情らしい表情があることに、浮竹と京楽は目を丸くして顔を合わせる。


「驚かせようと思って。驚いた?」
『そ、れは、驚き、ましたが・・・。おっしゃってくだされば、お迎えに上がりましたのに。』
「お迎えなんていらないよ。私を幼子だとでも思っているのかな、君は。」
『違います。ですが、そのくらいのことしか、私には、できません。それなのに・・・。』


「困った子だね。そう拗ねないでおくれ。そうだなぁ・・・では、こうしよう。」
拗ねた様子の彼女(といっても、はた目から見れば彼女は無表情であるが)に困ったように笑って、蒼純は口を開く。
「私の手伝いをしてくれるかな。護廷隊の変遷について話すつもりだけど、板書があった方が解りやすい。・・・それでいいかい?」


『それだけですか?』
「・・・それじゃあ、帰りの見送りも。」
『見送りだけですか?』
「・・・・・・帰り道、私の話し相手になってくれるかな。」
『はい、蒼純様。』


その後、進められていく授業は、時折雑談を交えながらも要点は押さえられていてとても分かりやすかった。
同年代であるだろうに、これほど知識が深いとは流石朽木家だ、と思いながら、浮竹と京楽は耳を傾ける。
しかし、ちらりと向けられる蒼純からの視線に、二人は今一つ集中できない。


「・・・では、これで終わります。皆さん、お疲れ様でした。」
あっという間に時間が過ぎて、講義が終わる。
黙々と板書をしていた彼女は、淡々と資料を片付けて、出て行く蒼純の背中を追いかける。
扉に手を掛けたところで、蒼純が立ち止り、彼女に耳打ちをした。
何事かを言われた彼女は首を傾げながら、浮竹たちの方へとやってきた。


『・・・蒼純様がお呼びだ。二人ともついて来い。』
それだけ言って彼女は踵を返す。
どことなく不満げな様子に首を傾げて、浮竹と京楽は顔を見合わせる。
ちらりと蒼純の方を見やれば、ニコリと微笑まれた。
本人に呼ばれているのでは仕方がないと二人は席を立つ。


「初めまして、ではないけれど、ちゃんと挨拶をするのは初めてですね、十四郎殿に春水殿。この前は、この子がお世話になったようで。」
霊術院を出たあたりで、蒼純はそういって後ろを歩いている彼らを振り向いた。
「いや、僕らは、別に・・・。」


「そう緊張する必要はありません。年も変わらないでしょう。私はこの子の叔父だけれど、この子の母親とは年が離れているから。」
言われて彼が彼女の叔父であることを思い出す。
彼女と彼を見比べれば、浮かべる表情は違えど、顔のつくりはよく似ている。


「・・・並ぶと似ているのが良くわかりますね。」
浮竹が呟くように言えば、苦笑を返される。
「兄妹に間違えられるくらいでして。・・・本当に、兄妹じゃないのが残念です。兄妹だったら、この子は朽木家にずっといられたのに。」


目を伏せた蒼純の袖を、彼女が静かに掴む。
『蒼純様・・・。』
「余計なことを言ったかな。」
『そういう訳では。私もそうだったらと、何度も思います。』
「そうか。・・・でも、この子に何かあったら、朽木家に連絡を入れて欲しい。それだけ、お願いしてもいいですか、十四郎殿に春水殿。」


「理由は、聞かない方が?」
京楽が伺うように問えば、蒼純は何度目かの苦笑を見せた。
「今は。今、私から話せることはありません。ですが、いずれ。百年後、二百年後も、貴方方がこの子の傍に居るのならば、理由を知ることもありましょう。」


では、また。
そう言い残して去って行った二人の背中を見送って、浮竹と京楽はちらりと視線を交わす。
「どう思う、京楽。」
「何か、深い理由があるんだろうね。彼女は、自分の家についてほとんど話さない。彼女が生まれてすぐに、彼女の父親である鏡夜殿が亡くなったという。母君は体調を崩して、表には出てこない。」


「・・・そうか。蒼純殿は、何故俺たちにあのような言葉を聞かせたのだろうな。つい言葉にしてしまった風を装っていたが。」
「僕は、彼女の傍に居ろと、言われた気がしたけど。」
「俺もそう感じた。」


「彼女のあの雰囲気と関係があるんじゃないかな。家庭の事情のない家なんてないけれど、彼女の家は特殊だからね。」
「そうだな。ま、俺たちが彼女の傍に居ても邪険にされることはないようだ。気長にいこうじゃないか。」
朗らかに言った浮竹に、京楽は笑う。


この友人は、すでに決めているのだ。
彼女の傍に居ることを。
同情や憐憫といった負の感情ではなく、純粋に彼女の力になりたいと思っているのだ。
・・・全く、真っ直ぐな男だねぇ、浮竹は。


「そうだね。百年や二百年待てば聞けるなら、彼女に付き合うのも悪くない。」
「あぁ。」
二人は頷き合って、彼女たちが行った方向を見つめる。
そして霊術院の中へと踵を返したのだった。

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