Clap Log
■ お相手は冬獅郎さん


「・・・ったく、また此処かよ。」
場所は瀞霊廷を見渡すことの出来る高い塔。
二人で座るのがやっとの狭い屋根の上。
すでに呑んでいる先客に呆れながら、冬獅郎も隣に座り込む。


『君と此処で会うのは何だか久しぶりだな。』
「滅却師の件の後始末が山積みだからな。何もかもが足らねぇ。」
瀞霊廷を見渡せば、未だに戦いの傷跡が残る。
あの瓦礫の下で死んでいったであろう己の部下を思うと、遣る瀬無い。


『だが、少しずつ復興に向かっているのは事実だ。私も君も、こうして酒を呑む時間があるのだから。』
「まぁな。四十六室の判断が珍しく的確だ。お陰で流魂街からの物資の到着が数段早くなった。」


『この酒も、この甘納豆も、流魂街のものだ。・・・食べるか?』
差し出された甘納豆を一粒つまみ上げて、口に放り込む。
馴染み深いその味に、流魂街の店が無事だったのだと安堵する。
続いて差し出された酒を口に含めば、やはり馴染み深い味がした。


「お前の家の酒蔵も無事だったか。」
『まぁね。被害のほとんどは、瀞霊廷の中だ。流魂街への被害はほぼないようだよ。君の育ての親も無事だ。』
「そうか。」


『・・・ねぇ、冬獅郎。』
「何だ。」
『今回の戦い、我々は勝者か?それとも敗者か?』
月を見上げた彼女の表情は読めない。


「・・・どっちでもねぇな。強いて言うなら、相討ちってとこだろ。」
『君もそう思うか。そうだよな・・・あの総隊長が、居なくなるとは。張り合いがなくなるだろう、あの糞爺・・・。』
湧き上がる感情を呑み込むように、彼女は酒を煽る。


『雀部副隊長に、浮竹隊長まで、居なくなってしまった・・・。』
つ、と彼女の頬を涙が伝う。
『あの師匠と、兄弟子が、こうもあっさり居なくなるなんて。』
「俺たちは死神だからな。いつ、誰が命を落とすかなんて解らねぇ。」


『冬獅郎は、死ぬなよ。』
「お前、俺の話聞いてたか?」
『聞いている。だが、それでも、冬獅郎は、死ぬな。私より先に死ぬなんて許さない。』
涙に濡れた瞳が、真っ直ぐにこちらを射抜いた。


「俺は、そんな約束が出来るほど、無責任じゃない。」
約束してやりたいし、その約束が欲しい気持ちはよく解る。
だが、だからこそ、そんな無責任な約束は出来ない。
俺もお前も、死神だから。


『・・・手厳しいな。そこは甘やかすところだろう。』
「お前に嘘は吐きたくないし、お前を甘やかすには俺の力が足りない。」
『やっぱり、君は手厳しい。』
苦笑した彼女の瞳から、涙が零れ落ちた。


「・・・そろそろ帰るぞ。お前、結構呑んでるだろ。」
『まだ一升しか呑んでいないぞ、私は。』
「一升も、だろ。お前にしては呑みすぎだ。」
酒に手を伸ばそうとした彼女から酒を奪い取って、残りの酒を流し込む。


『私の酒だぞ、冬獅郎。』
抗議の声が上がるが、相手にせずに酒を飲み干した。
「・・・やっぱこの酒、強ぇな。」
一気飲みするには向かない酒だ、と内心で呟きつつ彼女を抱き上げる。


「隊舎まで送る。大人しくしておけ。」
『あぁ・・・。そうだな・・・。だが、出来るだけ、ゆっくり、帰ってくれ・・・。』
言い終わるや否や、彼女は微睡みに引きずり込まれていく。
閉じられた瞳から、また、涙が零れ落ちた。


「放っておき過ぎたか。・・・仕方ねぇ。暫くは毎日付き合ってやるよ。」
自分にも、彼女にも傷を与えた戦い。
いずれ教本に載るであろう、歴史的ともいえる戦い。
その傷跡が癒えるには、程遠い。


「早く、強くなりてぇな。お前を甘やかすことが出来るくらいに。お前と約束が出来るくらいに。」
いつか必ず、そうなってみせる。
冬獅郎は内心で呟いて、ゆっくりと塔の下へと下ってゆくのだった。



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