Clap Log
■ お相手は白哉さん


『・・・あぁ、美味いな。あの朽木家が選んだだけのことはある。私好みの辛口だ。』
盃を片手に、彼女は満足そうな顔をする。
月に照らされたその横顔は、この世のものではないほどに美しい。


「・・・毎度のことながら、よく呑む。」
彼女の後ろに置かれた酒樽は、すでに三つが空になっている。
常人ならば確実に潰れているであろうその量を口にして尚、彼女は平然としているのだった。


「まるで酒呑童子だな。」
呆れたように言って、白哉は自分の盃に残った酒を飲み干す。
その盃に次なる酒を注がれる前に、立ち上がった。
突然やって来た彼女に付き合って一刻程。
これ以上付き合えば、明日の仕事に支障が出る。


『なんだ?もう終わりか?』
「お前に付き合っていては、こちらの身が持たぬ。」
『つれないねぇ。そんなに柔じゃないくせに。』
「私に付き合ってもらいたいのならば、もう少し早く来い。」


『なんだ。眠いのか。じゃ、そろそろ帰るかな。』
立ち上がった彼女は、徐にこちらに近寄ってきて、私の手を取る。
『・・・お休み、白哉。良い夢を。』
彼女はそう言って、私の掌に口付けを落とす。


・・・前言撤回だ。
この女、かなり酔っている。
平然としているだけで、今宵は酒が回っているらしい。
掌に口付けを落とすのは酔った彼女の癖なのだ。


「此処へ来る前に、どれだけ呑んだのだ。」
『えぇと・・・春水さんと昼から呑んで、乱菊も混ざって、そのあと夜一さんと呑んだから・・・十樽くらい?』
「・・・。」


呆れて物も言えぬとは、このことだ。
やはり彼女は酒呑童子だ。
ふらりとやって来ては酒を呑み、ふらりと去っていく。
掴みどころのない雲のような女。


「・・・今日は泊まれ。布団を用意させる。」
『白哉の布団でいい。使用人はもう眠っているころだろう。』
何を言い出すのだ、この女は。
危機感が無さすぎるだろう・・・。


「・・・好きにしろ。」
内心でぼやきながらも、白哉は彼女の言葉を聞き入れる。
この状態で帰らせて、どこぞの男の腕の中で眠られるよりは、自分の腕の中に居てもらった方が安心なのだ。


「酒呑童子の足を止めるのは酒のみ、か・・・。」
『うん?何か言ったか?』
「何でもない。・・・部屋に行くぞ。私は明日も仕事だからな。」
『はぁい。』


彼女の手を引いて、部屋へと向かう。
次はどんな酒を用意しておこうかと、思考を巡らせながら。
いつか、彼女が、自分の元に留まるようになるまで、こんな夜を繰り返すのだ。
そんな時間すらも愛しいと思ってしまっている自分に、白哉は苦笑を漏らすのだった。



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