Clap Log
■ お相手は吉良くん

『・・・・・・吉良副隊長。質問があります。』
「なんだい?」
『何故三番隊の隊長はどれもこれも仕事を放棄する人ばかりなのですか?毎日残業、残業、残業で、仕事が一つも終わらないのですが。もう死神辞めたい。』
「それは困るけど・・・君、大丈夫?」


イヅルが見つめた先に居るのは、三番隊の平隊士である女。
その女は常に胃薬を常備しているイヅルに負けず劣らず顔色が悪い。
目元の隈は日が経つにつれて濃くなってきており、薄くなる気配はない。
それはイヅルもまた同じような状況ではあるのだが。


『・・・大丈夫なわけがありません!!隊長は一体どこに行ったのですか!!今度会ったらあの鬱陶しい癖っ毛の長い髪、切り刻んでやる!!!』
皆が思っていても口に出来ないことを・・・。
同じく疲れた顔をしている三番隊の隊士たちは、内心で同意しながらも遠い目をする。


「・・・うん。解った。君、限界なんだね。副官室を貸してあげるから、眠ってくるといいよ。」
遠い目をする隊士たちとは裏腹に、イヅルは慣れた様子で彼女を宥める。
普段頼りない副隊長ではあるが、彼女の扱いに関しては彼に任せるのが一番なのだ。
その点において、イヅルは隊士たちからの尊敬を集めているのだが、本人にその自覚があるかは定かではない。


『今眠ったら三日ぐらい眠り続けますよ?』
「せめて半日で手を打ってくれないかな?」
『それに頷くのは簡単ですけど、半日で起きる保証はありませんよ?』
「それもそれで困るね・・・。」


『もういっそ、皆で寝ます?』
「そうしたいのは山々なんだけどね。それを実行したら、僕はクビになるかな。」
『じゃあ私、死神辞めます。』
「それは僕が許しません。」


『じゃあどうしろっていうんですか?』
「とりあえず半日眠っておいで。」
『起きなかったら?』
「僕が叩き起こしてあげるから安心していいよ。」


『・・・もしかして、吉良副隊長の方が重症ですか?笑顔が怖いです。』
「そうかな?爽やかな笑顔だと言われたことなんかないから、いつもの笑顔だと思うよ?」
そんな自虐的な言葉に、笑うことが出来る隊士は一人もおらず、突っ込みを入れることが出来る隊士ももちろんいない。


『・・・他の隊に協力を仰いで、鳳橋隊長を三番隊に連れて来てもらいます。なので、副隊長。先に半日休んでください。』
「でも・・・。」
『良いから休んでください!上司が休んでくれないと、部下は休めないんです!』


ずるずると引きずられていくイヅルは、抵抗する力もないらしい。
そんな己の副隊長の不憫さを思って、隊士たちは何とか筆を握る手に力を込める。
数人が席を立って、他隊に協力をお願いしてきます、と執務室を出て行った。


「僕は、大丈夫、だから、君が先に・・・。」
『副隊長が先に休まないなら死神辞めますよ?私は用意が良いので、いつだって除籍願いを提出することが出来るんですからね?』
「そんなもの用意しないでよ・・・。胃が痛くなってきた・・・。というか君、意外と元気だね・・・。」


『吉良副隊長が重症すぎるんです!自分より酷い状態の副隊長を見たら、眠気なんか吹き飛びました。あと半日くらいは、仕事が出来そうです。だから、遠慮せずに休んでください。』
「・・・ありがとう。起きなかったら、叩き起こしていいからね?」
『もちろんそのつもりです。副隊長が起きなければ、私は眠れないんですから。』


そんな会話をしながら執務室を出て行った二人を見送って、隊士たちは己の頬を叩いて目を覚ます。
よしやるか、と誰かが声を掛ければ、皆が声を掛け合う。
彼らが何とか仕事を熟していると、意外に早く彼らの隊長が執務室に帰ってきて、皆が安堵の溜め息を漏らした。


「あれ?イヅルと・・・もう一人いないね?」
隊士の数が足らないことに気付いたローズは首を傾げる。
そこで隊士たちははたと気づいた。
副隊長を送っていった彼女が帰ってきていない、と。


「仲良く寝落ちしているのではないでしょうか。」
「あぁ、そっか。イヅルと仲良しな彼女がいないのか。死神辞めます、とでも言ってイヅルを連れて行ってくれたのだろう?それなら仕方がないから、僕が仕事を引き受けてあげよう。」


何故その場に居なかったくせに彼女の行動を読んでいるのだろうか。
手際よく書類を捌き始めた己の隊長を見て、皆が首を傾げる。
仕事があっという間に処理されていき、やはりサボり魔でも隊長は隊長なのだ、と隊士たちは感嘆した。


結局、寝落ちしていた二人が目覚めたのは、翌日の昼過ぎで。
慌てて執務室に駆け込めば、昨日まであった書類の山がなくなっていることに気付く。
隊士たちも熟睡したようで、隈が薄くなっていた。
首を傾げていると己の隊長が飄々と姿を見せて、二人に声を掛ける。


「目が覚めたんだね。おはよう、二人とも。」
「これ、全部、隊長が・・・?」
「うん。イヅルが仕事をしてくれたおかげで、早く終わったよ。」
「そう、ですか・・・。」


『・・・隊長。』
「なんだい?」
『断髪式と行きましょう。』
「え?」


『隊長も鬱陶しいですよね、その髪。』
怖いくらいにこやかな彼女の手にはいつの間にか鋏が用意されている。
そういえばそんなことを言っていたなぁ・・・。
顔を強張らせた己の隊長を横目に、イヅルはのんびりと自分の席に着いた。


「え、うわ、ちょっと、ま、駄目だよ!?ね、落ち着いて!!」
『そんなに仕事が出来るなら、もっと早く仕事してください!!』
「だって、楽器が僕を呼んでいたんだ!仕方がないよ!」
『楽器のせいにするなー!!』
「わ!?待って!助けて、イヅル!!!・・・聞こえてるよね!?ねぇ、イヅル!?」


今日も平和だなぁ。
鋏をもって追いかけられている己の隊長を一瞥して、イヅルは筆を手に取った。
他の隊士たちもそれを見習って、仕事を始める。
お陰で止める者の居ない彼女とローズの追いかけっこは、暫くの間続くことになるのだった。




[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -