Clap Log
■ お相手は冬獅郎さん

『・・・日番谷隊長。』
「なんだ?」
『私、死神を辞めたいです。辞めてもいいですか。』
「・・・は?」


私の唐突な言葉にぽかん、とする日番谷隊長は今現在、大量の書類に埋まりそうで。
窓から差し込む光が隊長の銀色の髪を照らして、キラキラと輝きを放つ。
怪訝そうな翡翠色の瞳がこちらに向けられたのは、本日一回目。
旅禍の侵入やら何やらで、護廷隊はどこもかしこも忙しい気配を纏っている。
まぁ、つまり、日番谷隊長も私も、例に漏れず忙しい訳で。


「・・・何かあったのか?」
そう聞いてから隊長は、まぁ最近は色々あったか、と呟いて溜め息を吐く。
集中力が切れたらしい隊長は筆を置いて、とっくに冷めているであろうお茶を啜る。
大きく伸びをすれば、バキバキとその小さな体が悲鳴を上げた。
今からこんなに体を酷使して成長の妨げにならないのだろうか、と思うのは私だけだろうか。


『お茶、淹れ直しましょうか?』
「今はお前の話が先だ。」
真っ直ぐにこちらを見る隊長の瞳は、私の真意を測っているらしい。
こういう時、自分を後回しにする辺り、やっぱり隊長だなぁ、と思う。


『・・・そんなに見つめられると、好きになりますよ?』
悪戯に言えば、鼻で笑われる。
「お前がそんなにちょろい女かよ。」
『そうですか?私、結構一目惚れ多いですよ?この前、ルキアちゃんを甘やかす朽木隊長に惚れました。不器用すぎて大好きです。』
「お前のそれは面白がってるだけだろ。」


呆れた声。
呆れた表情。
呆れた視線。
それでも聞き流さずにいてくれる優しい隊長。


『あはは。バレました?隊長は何でもお見通しですね。』
「で?さっきの死神辞めたいっつーのは、何だよ?」
『あれは・・・ちょっと拗ねてみただけです。』
「は?」


『だって隊長、最近、桃ちゃんのお見舞いばっかりで、十番隊の隊士たちに構ってくれないじゃないですか。詰まらないです。私が。』
「お前がかよ。毎日顔合わせてんだろうが。」


『その上無駄に仕事増やすとか隊長として酷いです。特に私に対しての仕事量が多いなんてちょっと恨みます。』
「それは松本がどっかに消えるからだろ。」
しれっと答えられて、隊長をじとり、と見つめる。


『隊長だってよく消えるじゃないですか・・・。その間、誰が隊士の相手をしていると思っているんです・・・。そりゃあ最初は、隊長も副隊長も色々あったし仕方ないなぁ、と思ってましたけど。隊士たちの前では何でもないように振る舞っていても、やっぱり疲れちゃうんだろうなぁって。』
唇を思い切り尖らせれば、その顔止めろ、とまたまた呆れた声。


『・・・なんて、こんなことを言っても、隊長たちは改めてはくれないのでしょうね。全く、困った人たちです。だから、隊長。せめて、一日に一回は、自分のためだけの休憩を取ってください。桃ちゃんのところに行くのは構いません。でも、自分が疲れていることを自覚してください。自分のために深呼吸する時間を、ちゃんと作ってください。そのくらいの時間なら、私を始めとした席官でも、十番隊を引き受けていられますから。』


「お前・・・。」
目を丸くした隊長に、くすりと笑う。
どうやら私の真意に気付いたらしい。
『私だって心配くらいしますよ、日番谷隊長。・・・どうです?息抜きになりましたか、この時間は。』


「・・・ったく、余計な気を回しやがって。死神辞めたいとか言い出したの、俺の手を止めさせるためかよ。」
そっぽを向く日番谷隊長の横顔はなんだか年相応に見えて。
「俺はそんなに柔じゃねぇっつーの。」
『ふふ。そうですか。』


「だが、お前に心配されるようじゃ、まだまだってことだ。だから・・・その言葉、一応、聞き入れておく。」
呟くように言った隊長は、可愛い。
素直な隊長はレアだ。


『・・・日番谷隊長。』
「何だよ?」
『・・・隊長のツンデレは最高です。惚れました。隊長ってそんなに可愛かったんですね。』
満面の笑みで言えば、隊長の額に青筋が一つ。


「てめぇ・・・実は楽しんでるな・・・?」
『さて。どうでしょうか。あ、新しいお茶、淹れてきますね。』
席を立って執務室を出れば、逃げんじゃねぇ、と背後から聞こえてくる怒声。
その怒声が隊舎に響き渡るのも久しぶりのことで。


「三席。一体、何をしたんですか?」
「珍しいですね、三席が隊長を怒らせるなんて。」
「まぁでも、久しぶりに隊長の怒声が聞こえて、安心しました。」
隊長の怒声を聞いたらしい隊士が声を掛けてきて思わず笑う。


『そうそう。十番隊はこうでなくっちゃ、面白くないよねぇ。あ、君たちも休憩は忘れずに。・・・隊長は、お茶を飲んだらお昼寝の時間ですからねー!!!』
出て来た扉に向かって叫べば、うるせぇ、と怒声が返ってきてまた笑った。


・・・さて、これで、十番隊に活気が戻るといいのだけれど。
隊士たちを見れば、大半の者が苦笑を漏らしているものの、日常が戻ってきたことに安堵しているらしい。
効果は上々、というところかな。
全く、我が十番隊は手が掛かるなぁ。
内心で苦笑するが、給湯室へと向かう足取りは軽いのだった。




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