Clap Log
■ 11.巫女の実力

「・・・ねぇ、どうして僕ら、虚に囲まれているの?」
周りは虚だらけ。
ざっと見て数百体居ることだろう。
僕らは現世実習とやらでこの場所に来たはずなのに、一体何が起こっているのだろうか。
京楽は内心で呟きながら浮竹を見る。


「知るか。先生が何か仕組んだんじゃないのか。」
浮竹は虚を切り捨てながら、そんなことを言っている暇があるなら動け、とでもいうように京楽をちらりと見た。
「いやいや。だって、僕らだけの実習じゃないんだからさ。山じいもそこまではやらないと思うよ?」
浮竹の背後に迫る虚を切り捨てた京楽は、背中合わせになるように浮竹の後ろに立つ。


「なら、偶然、ということだろう。見ろ。引率の先生も先輩も青い顔をしている。」
言われてちらりと彼らの方を見れば、確かに青い顔をして応援を要請しているようだった。
「・・・そうみたいだね。」
慌てた様子の彼らを見て、彼ら以上に戸惑っている同期たちを見る。


・・・院生の保護が先じゃないのかね。
内心で呟くと、それに答えたように院生の周りに結界が張られ始める。
見れば、あの彼女が一人ずつ結界を張っているようだった。
あっという間に全員分の結界を張り終えた彼女と目が合って、気が付けば、彼女が隣に立っていた。


「君、何者なの・・・。」
目にもとまらぬ速さの瞬歩。
それに驚いて彼女を見れば、涼しい顔で虚たちを見つめている。
『ご希望ならば、君たちも結界の中に閉じ込めてやるが?』
ちらりと視線が送られて、苦笑が漏れる。


「いや。そんなことをしていたら、山じいにお叱りを喰らうからね。虚の相手をさせてもらうよ。」
「ははは。そうだな。」
笑う浮竹を一瞥した彼女は、徐に斬魄刀を取り出す。
深紅の鞘には銀色で彼女の家の紋が刻まれている。
鍔は漆黒で、柄は鞘と同じ深紅。


『・・・そうか。それは都合がいいな。死神が到着する前に片付けることが出来る。』
「「え?」」
『二人とも、始解が出来るようだからな。』
言い当てられて、二人は絶句する。


「何故、それを・・・。」
声を絞り出した浮竹を彼女はちらりと見つめる。
『隠せると思っているのが間違いだ。・・・いいから始めるぞ。君たち二人で虚を一か所に誘き寄せて、私が刀を抜く前に全速力で離脱しろ。行け。』


彼女の声に二人の体が反射的に反応する。
霊圧を上げて、解号を唱えれば、久しぶりの始解。
斬魄刀からは歓喜しているような震えが伝わってくる。
不思議に思って浮竹を見れば、彼もまたこちらを見た。


互いに首を傾げて、ちらりと彼女を見るが、彼女は一歩も動いていない。
ただ、彼女の舞を見たときのような、しん、とした空気が彼女を取り囲んでいた。
・・・本当に、巫女様は一体何者なんだろうね。
京楽は内心で呟いて、とりあえず今は虚の殲滅が先だと動き出す。
浮竹も同じことを思ったのか、すぐに動き出した。


流石に、手際がいいな。
無駄に長い時間一緒にいるわけではないらしい。
二人の連携によってあっという間に集められていく虚を見つめながら内心で呟く。
四秒後、と言ったところだな・・・。
柄に手を当てて、数を数える。


『・・・四、三、二、一。二人とも、離脱しろ!!』
私の声に弾かれるように二人は虚の群れから離脱する。
・・・ありがとう、双魚理、花天狂骨。
心の中でお礼を言えば、大したことではないと言葉が返ってきた。
実は先ほどから、彼らの斬魄刀に主の動きを補助させていたのだ。
私の声にすぐに反応するように。


地面を蹴って、そのまま虚の群れの中に身を投じる。
私を狙って虚共が押し寄せてくるが、その前に刀を抜いて霊圧を上げる。
その霊圧に反応するように、斬魄刀が光を帯びた。
輝く斬魄刀で一閃すれば、そこから溢れた輝きが虚たちを呑みこんでいく。
斬魄刀を鞘に納めるころには、先ほどまでいた虚たちは跡形もなく消えていた。


「「・・・。」」
目の前で起こったことに、浮竹と京楽は茫然とするしかない。
彼女が虚の群れに入った瞬間、光が溢れて、その眩しさに目を閉じている間に、虚たちが消えてしまったのだ。
瞬きを一つする間に。


『・・・何を呆けている。』
いつの間にかこちらにやって来た彼女は、二人を見て怪訝な顔をする。
「いや、その・・・。」
「さっき、何をした・・・?」
『・・・浄化しただけだ。』
恐る恐る聞いた浮竹に、彼女は淡々と答える。


「浄化?」
『我が家系の女が巫女と呼ばれるのは、浄化の能力があるからだ。私はその中でも力が強くてな。虚などは私に触れるだけで消える。虚で私を殺すことは不可能だろうな。』
彼女の言葉にぽかんとしていると、彼女は何かを感じたように空を見上げる。


『もうすぐ来るな。・・・応援に来るのはおそらく隊長格だ。早く彼奴らの結界を解くぞ。私の家の紋が出ている部分に触れれば解ける。院生はともかく、教師のあのような姿を隊長格に見せるわけにはいくまい。全員で、虚を倒したことにしておけ。まぁ、君たち二人の功績にしてもいいが。』
それだけ言い残して、彼女は結界を張られている者たちの元へ向かった。


「・・・ほんと、何者なの?」
「解らん・・・。俺たちとは格が違う、としか・・・。」
「まぁ、彼女の言うことも一理ある。早々に結界を解いてあげようじゃないの。」
「そうだな・・・。先生に何を言われるかわからない。」
「うん。変なのに目をつけられても困るし・・・。」


「はは。そうだな。お前はともかく、彼女が目をつけられると大変そうだ。」
「彼女の場合、何もしなくても目をつけられるからね・・・。とりあえず、皆で倒したことにしておこうか。」
その言葉に頷いて、浮竹は教師の元に向かう。


・・・彼女の事情とやらは、世界に目をつけられたら大ごとになりそうだねぇ。
京楽は結界を解きながらちらりと彼女を見つめる。
だから、彼女はあんなに他人を拒絶するのだろうか。
「・・・力があるというのは、難儀だねぇ。」
京楽はそう呟いて、同期たちを結界から解放するべく地面を蹴ったのだった。

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