Clap Log
■ 10.友人として

「・・・ちょっといいかしら?」
授業が終わって廊下を歩いていると、そんな声を掛けられた。
話しかけてきたのは、きっと、どこかの姫。
高飛車で、きつそうな印象の女生徒。
その後ろには、少し気弱そうな女生徒が居る。


『・・・何か用か?』
「えぇ。少し、お話したいことがありますの。少々、よろしいかしら?」
問われて逡巡する。
恐らく、面倒な話だ。
付き合っている暇はない。
そう思って、口を開く。


『・・・生憎、これから用事がある。』
「では、ここでいいわ。手短に済ませますので。」
微笑んでいるが、私への敵対心を隠せてはいない。
・・・早く、朽木家に行きたいのに。
内心で呟いて、後回しにしても面倒そうだ、と彼女たちに付き合うことにする。


『手短に。』
「えぇ。・・・それじゃあ、単刀直入に言わせていただきますわ。浮竹君と京楽君を解放してくださらない?」
『・・・は?』
怪訝な顔をすれば、彼女の瞳が険しくなる。


「惚けないで。上流貴族の出だからと、二人を縛り付けているのは解っているのよ。あの二人に気にかけて貰って、いい気になっているのでしょうけど、あの二人は、蒼純様に言われて仕方なく貴女の傍に居るの。」
『・・・それで?』
淡々と返せば、彼女は私を睨みつける。


「それで、ですって?解らないの?あの二人は、貴女があの有名な巫女で、朽木家の血を引いているから仕方なく貴方の傍に居るのよ?」
『そこに私の意思はない。・・・あの二人が勝手に追いかけてくるだけだ。』
「何ですって!?あの二人を縛り付けておきながら、よくそんなことが言えるわね!!」


『私はあの二人を縛り付けたことなどない。蒼純様が私の傍に居ろとあの二人に命じたとしても、その命令に従うかどうかを決めるのは、あの二人だ。』
淡々と言えば、目の前の彼女はさらに激高する。
「朽木家が命じれば、貴族の者はそれに従わざるを得ない。そんなことも解らないの!?」


『解らないな。私の家は、必ずしも命令に従うわけではない。瀞霊廷の全てが敵に回ろうと、それは揺らがない。』
私の言葉に、目の前の彼女は絶句する。
『・・・もう、いいか?先ほど言った通り、用があるので帰らせてもらう。』
そのまま歩を進めれば、教室から件の二人組が現れた。


「あれ?君がこんな時間まで居るとは、珍しいねぇ。」
「そうだな。まだ帰っていなかったのか。珍しい。」
珍しげに言われて、じろりと彼らを睨む。
「あはは。怖い怖い。」
「そうだな。いつまで経っても野良猫が知らない相手を見るように俺たちを見る。」


『・・・・・・嫌ならば、私から離れるといい。蒼純様に何を言われているのか知らないが、君たちが私の傍に居る必要はない。』
「そう冷たいことを言わないでよ。山じいの下で一緒に学んでる仲じゃない。」
『私は山本元柳斎に教えを乞うているだけだ。君たちと一緒に学ぶ気などない。』


「お前、いつも以上に言葉がきついぞ。どうしたんだ?」
浮竹は眉を顰めながら言う。
『・・・別に。蒼純様に何か言われていることは、否定しないのか。』
「まぁ、否定は出来ないからな。」
「そうだねぇ。君に何かあれば、朽木家に連絡するように言われているし。」


『私に関して、蒼純様の命令を聞く必要はない。』
「命令というよりは、お願い、だったよね?」
「あぁ。命令などされていない。蒼純殿は、そういう方ではないように思う。」
「うんうん。まぁ、僕らとしては、巫女様のお伴でいる許可を貰えたようで、何よりだけれど。」


『私の伴ならば、私の言うことを聞いて欲しいものだな。・・・というわけで、姫様方?私は、この二人を縛り付けてなどいない。むしろ付き纏われて迷惑だ。』
吐き捨てれば、浮竹と京楽は苦笑する。
「本当に、いつも以上に酷いよね・・・。」
「そうだな・・・。」


「・・・あの、それでは、その・・・。」
それまで黙っていた大人しい方の姫がおどおどとしながら口を開く。
視線を向ければびくりとして、それでも覚悟を決めたようにこちらを見返した。
「貴女は、浮竹君と京楽君のどちらとも、付き合ったりすることは、ないのですか?」
その質問に、彼女らの意図を理解した。


全く、面倒なことだ。
彼らに気があるのならば、私に絡む前に、彼らに近づけばいい。
わざわざ牽制に来る必要はない。
そんな気など、ない。
私に、愛だの恋だのは、必要ない。


『ある訳がない。・・・話は終わりだ。これ以上は時間の無駄だ。私は帰る。』
冷たく言えば、問うた姫は涙目になった。
それを一瞥して、歩を進める。
「おい、お前な・・・。」
浮竹の呆れたような声が背中に掛けられるが、その声に答えることはしなかった。


「・・・何よ、あの態度。巫女ってのは、そんなに偉いわけ?どうして、浮竹君も京楽君も何も言わないのよ!どうして、あんな人の傍に居るの?」
悔しげに言われた言葉に、浮竹と京楽は姫たちの方を向く。
視線が合うと睨まれて、二人は首を傾げた。


「あんな人の傍に居たら、二人とも評判が悪くなってしまう。すぐに、あの人から離れた方がいいわ。綺麗なのは顔だけなのよ。あの性悪。」
「ちょっと、それは、言いすぎだよ・・・。」
気弱な方が宥めるように言うも、姫の怒りは収まらないらしい。
「貴女だって、悔しくないの!?あんな自分勝手で、自分は何一つ悪くないって顔をされて・・・。」


「まぁまぁ。落ち着きなよ。確かに、あの子は口が悪いけどね。」
「そうだなぁ。まぁでも、ああやって返答があるだけ、ましというか・・・。」
「うん・・・。酷い時は無視されるからね・・・。」
「俺たちの名前を呼ぶようになったのも最近だしな・・・。」
「でも未だに、無表情以外の表情を見せてくれないよね・・・。」
「そうだな・・・。」


「何で、何で、そんな扱いに甘んじているのよ!二人とも、そんな扱いをされていい人たちじゃないのに!!」
叫ぶように言われて、二人は目を丸くする。
「そんなことはないぞ?」
「そんなことは、ないよね?」
顔を見合わせて、うんうんと頷き合う。


「嘘よ。そんなはず、ないわ。成績は優秀で、その容姿で、一体どれほどの人が、貴方たち二人を見ているか・・・。お願いだから、これ以上、あの人の傍に居るのは、やめてよ・・・。」
懇願する姫に、京楽は何かを感づくが、口に出してそれを否定しても、話がややこしくなるだけなので、黙っていることにした。


「それは断る。」
そんな京楽とは裏腹に、浮竹ははっきりと言い切った。
「どうして・・・?」
「俺はもう、彼奴と友人だからだ。」
そういった浮竹に、京楽は思わず笑う。


「あはは。確かにそうだ。僕らと彼女はもう友人だ。」
「何を笑っているんだ?」
浮竹に怪訝そうに見られて、京楽はさらに笑う。
「いや、うん。浮竹はさ、そうやって、飛び越えちゃうんだよねぇ。」
「飛び越える?」


「何でもないさ。・・・僕も、お断りするよ。僕らがどこにいるかは、僕らが自分で決めることだ。ね、浮竹?」
「そうだな。だから、お前たちがどう思おうと、俺たちは彼奴の傍に居るぞ?」
「・・・それは、あの人を、見ているということ?」
その問いに、浮竹と京楽は笑う。


「「友人として、放っては置けない。」」
二人は晴れやかに言って、踵を返す。
「さて、浮竹。僕、山じいからあの子を連れて来いって言われてるんだよね。」
「そうか。まぁ、何かと理由を付けて稽古に顔を出さないからな、彼奴。」


「用事があるって言っていたけれど、あの様子は絶対に蒼純殿に会いに行くだけだろうし、適当に捕まえて山じいのところに行こうか。」
「適当に捕まえられる相手じゃないけどな。」
「浮竹が吐血すれば姿を見せてくれるさ。」


「何だよそれは・・・。」
「そのくらいの情はあるということさ。さぁ、行こうか。山じいに怒られるのはご免だ。」
そんな会話をしながら去っていく二人を、姫たちは、悔しげに、そして、羨ましげに見つめるのだった。

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