色彩
■ 11.対決

「さて、阿呆二人は放って置いて、そうだな。このクラスで一番白打が得意な者は誰だ?」
咲夜はそれが誰だかわかった上で言った。
「そこにいる立花青藍にございます。」
「そうか。私が‘特別に’相手をしてやろう。」


・・・十四郎殿と、春水殿のせいだ。
完全にとばっちりだ。
青藍は内心愚痴る。
「・・・頑張って、青藍。」
雪乃も同情したように青藍に声を掛けた。
青藍がクラスの皆の方に向けると、侑李たちはこちらをニヤニヤと見つめている。


『・・・はぁ。君たち、覚えておきなよ。』
青藍は小さくそう言って三人を睨んだ。
それでも三人は楽しそうに青藍を眺めるだけである。
そんな三人に深いため息を吐いて、青藍は咲夜の前に出たのだった。


「さて、お手並み拝見といこうじゃないか。」
咲夜は楽しそうに笑う。
『どうぞお手柔らかにお願いいたします。』
青藍も負けじと微笑んだ。


「ふふ。院生相手に本気を出したりはしないさ。・・・だが、加減し損ねることもあるかもしれない。気を付けたまえよ。」
・・・つまり、いつも通りやらないと、僕は怪我をするってことですね、母上。
青藍は微笑みながら咲夜の目を見る。
何処までも楽しそうだ。


『はい。怪我をしないように頑張ります。』
「あはは。頑張ってねぇ、青藍君。」
「頑張れよ。」
暢気に応援してくる浮竹と京楽を睨みつつ、青藍は一つ深呼吸をした。
「では、始め!」
浮竹の掛け声によって白打による戦いが始まった。


瞬間、二人の姿は院生には見えなくなる。
それに先生を含めた一回生達は目を丸くした。
しかし、隊長格たちにはみえているのか、八人は楽しげに空中を見つめている。


「なんて戦いだ・・・。」
「目で追いきれない・・・。」
そして、こっそりと特別授業を見学していた薫と千景のつぶやきが、誰に届くわけでもなく、消えていった。


「ふふ。衰えてはいないようだな。」
『当然です。僕はまだまだ成長期ですよ。』
二人は周りに聞こえないように会話しつつ白打で応酬を続けていた。
「まだ話せるか。」
『えぇ。僕だって、霊術院で遊んでいたわけではないのです。』


「ふぅん?でも授業では手を抜いているのだろう?」
『当然です。本気の僕と戦える院生は居ませんよ。それに、下手に力を見せて飛び級になっても面白くないですからね。』
「ふふ。そうか。我が子の成長は嬉しいものだな。」
『お褒め頂き光栄です。』


「さて、そろそろ終わりにするぞ。」
『はい。適当に終わりにしましょう。』
そう言った青藍に、咲夜は鋭い蹴りを放った。
青藍は受け止めきれず、背中から地面に叩きつけられる。


「そこまで!」
浮竹の声に、咲夜は音を立てることなく、地面に降り立った。
『・・・は、はぁ、はぁ。』
・・・結構痛いのですが。
それにやはり母上とやり合うのはこの短時間でも辛い。
そう思いつつ青藍は地面に寝ころんだまま、息を切らせた。


「ふふん。大丈夫か?」
咲夜はそう言って青藍に手を差し伸べる。
『はぁ、はぁ、は。・・・大丈夫です。ありがとうございます。』
青藍は差し伸べられた手を掴みながら言った。
「ふふ。そうか。立てるな?」


『・・・はい。』
青藍は咲夜に支えられて立ち上がる。
『ありがとうございました。』
「あぁ。こちらこそありがとう。なかなか面白かったぞ。」


「青藍、大丈夫?」
元の場所に戻ってきた青藍に雪乃は声を掛けた。
その肩越しには隊長たちに白打を教わる院生たちの姿が見える。
『・・・一応ね。』


「蹴られたところは大丈夫なの?」
『うん。急所は外してくれたし手も抜いてくれたから。それでも、あと1センチずれていたら肋が折れていただろうけど。』
心配そうな表情をする雪乃に青藍は苦笑して答えた。


「いつもああなの?」
『いつもはあれ以上だよ。僕がボロボロになるまでやるもの。』
「そうなのね・・・。それでもほとんど見えなかったわ。」
『あはは。そりゃそうだよ。速さで言えば、副隊長クラスと変わらないもの。』


「青藍、貴方この間まで席官クラスって言われていなかったかしら?」
『ふふふ。人間、成長するものだよねぇ。ま、僕らはただの魂魄だけど。』
青藍はそう言って微笑む。
「貴方って人は・・・。」
雪乃は呆れたように言った。


『まぁまぁ。成長したのは雪乃も同じでしょ?』
「そうね。でも私の成長何て微々たるものだわ。」
『そんなことないさ。雪乃だって副隊長クラスの速さが少しでも見えるのだから、副隊長位までは成長するってことさ。』
「そうかしら。そうだといいけど。」


『大丈夫だよ。雪乃だもの。根拠はないけど。』
「何よそれ。」
『あはは。ほら、雪乃も指導してもらってきなよ。僕は休憩しているから。』
「もう!いつもそうやって笑って誤魔化すんだから!」
雪乃はそう言いつつも隊長たちの指導を受けに行ったのだった。
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