色彩
■ 9.歩法

「みんな、鬼道の方はどうだった?」
七緒の蒼火墜、ルキアの双蓮蒼火墜も問題なく的に当たり、院生たちへの指導が終わると、京楽は楽しげに問う。
何かを掴んだ様子の院生たちを見て、満足そうに頷いた。


「綺麗なお姉さんに教わることが出来るなんて羨ましいなぁ。僕らが院生の時代なんて、おじさんしか居なかったんだから。」
「私たちは主に山じいに指導されていたからな。おじさんというか、お爺さんだ。」
「こらこら、漣。そういうこと言っていると、元柳斎先生が聞きつけてしまうぞ。」
浮竹が窘めるように言った。


「あの爺さん、地獄耳だからな。」
「あはは。そうだね。」
「いつになったら耳が遠くなるのだか・・・。」
「お前な・・・。」


「なんだい、浮竹?君はそう思ったことはないのかい?」
「ある訳ないだろう。先生の代わりを務められる死神なんてまだいないんだから。」
「浮竹は優等生だよねぇ。ずるい。」
「本当に、ずるいよな。」
「お前らがちゃんとしていないだけだろう。」


「おっと、話が逸れてしまったね。皆、指導されたことを忘れないようにね。次は、歩法にでもしようか。皆瞬歩は知っているよね?一回生だから瞬歩が出来る子は稀だろうけど、コツを教えることぐらいは出来るからね。」
「これも手本を見せるのか?」
「そうだよ。」


「じゃあ、皆で競争だな。」
咲夜はそう言って楽しそうに笑う。
「咲ちゃん、それ、咲ちゃんが一番に決まってるじゃないの・・・。」
「京楽が本気を出せば勝てるかもしれないぞ?」
「僕らも参加するんですか、それ。」
「もちろん!副隊長たちも参加だよ。」
「・・・わかりました。」


「では競争のルールはこちらで決めさせていただきます。隊長たちと咲夜さんはこの学院を二周してきてください。私たち副隊長は一周です。」
「えぇ!?それ僕らすっごく不利じゃないの。」
「隊長と副隊長の力の差を考えれば当然です。それとも・・・自信がないのですか?隊長が副隊長に負けるんですか?」
七緒は京楽に冷たい目を向ける。


「そう言われたら、自信がないとは言えないじゃないの・・・。」
「ははは。京楽、仕方ない。やってやろうじゃないか。」
「そうそう。もちろん、私が一番だ。」
「あたしが勝ったら好きなだけお酒奢ってね?」


「ふふ。いいぞ、乱菊。朽木家の酒をいくらでもくれてやる。足りなければ漣家の酒だって出してやる。」
「よし。じゃああたしも本気出すわ。」
「・・・この四人、完全に楽しんでいるよね。」
「だな。まぁ、俺たちも頑張ろうぜ。」


「恋次、貴様が負けたら、白玉をごちそうしてもらうぞ。」
「上等だ。俺が勝ったら鯛焼きたらふく奢ってもらうぜ。」
「ふ。いいだろう。眉毛副隊長に負けるわけがないがな。」
「なんだと!?」
二人はそう言って言い合いを始める。


「・・・はぁ。」
イヅルはそんな二人の様子に深いため息を吐いた。
「僕ら、霊術院に一体何をしに来たんですかね・・・。僕らが楽しんでどうするのか・・・。」


そんなこんなで特別講師たちによる競争が始まった。
何処から出てきたのか、審判まで居る。
不正の無いように、技術開発局の最新のカメラが一台ずつ彼らに取り付けられる。
「さぁて、頑張りますかね。」


「京楽隊長、私が勝ったら一か月間、ちゃんと仕事をしていただきますからね。」
「・・・それは負けられないね。」
「朽木、頑張ろうな。」
「はい、浮竹隊長!」


「うふふ。朽木家のお酒・・・。絶対に勝ってやるわ。」
「松本さん・・・怖いです。」
「よし!こっちの準備はいいぞ!始めてくれ!」
咲夜の声に審判が旗を振り上げる。
そして、旗が振り下ろされると同時に全員の姿が消えた。


『皆、本気だなぁ。いつもの数倍やる気出してるよ。』
その様子に青藍が言った。
「そうなの?全く見えないわ。」
『うん。それでも母上はまだ本気じゃないけど。』
「本当にすごいのね・・・。」


『そうだね。あの春水殿が必死で追いかけているけど、母上は笑って居るもの。』
「青藍、そこまで見えているのね・・・。」
『まぁね。昔から母上は追いかけっこが好きでね。相手は主に父上なのだけれど。僕も稽古と称してずいぶん追いかけたよ。』


「そうなのね・・・。あら、もう帰ってきたみたいよ?」
『あはは。さすがにお早い。』
「お母上は一体何者なの?」
『ふふ。僕も知りたいよ。』


「ふふふ。やはり私が一番だな。」
咲夜は満足そうに微笑む。
「・・・ちょっと、咲ちゃん、速すぎ。」
「本気すぎるだろう・・・。」
続いて京楽と浮竹がほぼ同時に到着する。


「ふふん。勝負は勝つから面白いのだ。」
「それにしても咲ちゃんってやっぱり規格外だね・・・。」
「そうだな・・・。俺たちだって決して遅い方ではないと思うんだが。」
得意げな咲夜に、京楽と浮竹は苦笑を漏らすのだった。
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