色彩
■ 特権

深夜。
ふと目が覚めたルキアは、部屋の外に人の気配を感じて布団から抜け出す。
そろり、と障子を開ければそこには寂しげな背中があった。
この世の孤独の全てを背負っているようなその背中に、ルキアは思わず両手を伸ばす。


『わ・・・ルキア、姉さま?』
一人ではないのだと思ってほしくて背中から抱き着けば、いつもの青藍の声で少しだけ拍子抜けした。
けれど、こんな夜中に一人で夜空を見上げているなんて何かがあったとしか思えない。
ルキアはそう思って、そのまま青藍に体重を乗せる。


それでもびくともしない逞しい体。
昔は私の重さに耐えかねて二人で転がっていたのに。
時が経つのは早いものだ・・・。
そんなことを思って、ルキアは内心苦笑する。


『どうしたんですか、こんな夜更けに。』
「目が覚めたら、人の気配がしたので出てきたのだ。青藍こそ、こんな夜更けにどうしたのだ?深冬と一緒に眠っていたのだろう?」
問えば、青藍が困ったように微笑んだのが分かる。


『・・・今日は、別々です。深冬を、泣かせてしまったので。』
「喧嘩でもしたか?」
『いいえ。僕が酷い男だから・・・仕方ないのです。明日の深冬は、きっと、無理をします。任務には行かせないほうがいいでしょう。』


「・・・そうか。では明日の任務は別の者を選んでおく。」
これ以上は話してくれないのだろうと、ルキアはそう言って頷いた。
『お願いします。』
小さく息を吐いた青藍が甘えるように頭を寄せてくる。


『もう少しだけ、このままでもいいですか?』
「あぁ。勿論だ。好きなだけこうしていてやる。」
髪を梳いてやればその瞳が閉じられた。
昔と変わらない無防備な表情に口元が緩む。


「青藍。」
『何ですか、姉さま?』
「何があったのか聞いても話してはくれないだろうから、これだけ言っておくぞ。・・・私は、お前の味方だ。今までも、これからも、何があろうと。ずっと青藍の味方だ。それだけは、忘れてくれるなよ、青藍。」


『・・・はい、ルキア姉さま。』
短い返事はきっと、青藍の精一杯の言葉。
与えられるものを受け取るしかできなくて、たった一つにしか手を伸ばさない。
そのたった一つの大切なものさえも、青藍は未だに手を伸ばしてよかったのか悩んでいる。

一体、いつになったら、青藍は気付くのだろう。
青藍の幸せが、他人の幸せになるということを。
青藍の心からの笑みが、どれほど私たちを救っているのかを。
その救いが、どれほど私たちの力になっているかを。


早く気付いて欲しい。
けれど、まだそれに気付いて欲しくない。
気付いてしまえば、青藍は大きく成長する。
それが少しだけ寂しいから。


「・・・あまり早く大人になるなよ、青藍。」
しみじみと呟けば、くすくすと忍び笑いが聞こえてくる。
『僕はもう朽木家当主だし、妻も居る身ですよ、ルキア姉さま。それに僕は、六番隊の、父上の三席です。もう十分大人ですよ。』


「誰かが傷つくと眠れなくなって私のところに来るのはどこの誰だったか・・・。」
『う・・・それは・・・ですね・・・。』
「まだまだ、私からすればお子様だ。子どもは存分に甘えればよいのだ。今日のように。」


夜、眠れないときに布団に潜り込んできた小さな子どもはもう居ない。
けれど、今もこうして私を頼ってくれる。
それは、昔から、ルキアの特権で。
青藍が大人になってもそれが出来るだけの存在でありたいと、ルキアは思うのだった。



2018.05.28
祝言編より後で対峙編よりも前のある夜。
いずれ離れなければならない日がやってくると深冬に伝えた日の青藍。
この日の青藍は、酷い自分に耐えられなくて深冬から距離を取ってしまったのだと思われます。
そしてつい習慣でルキアの傍に来てしまった、という感じです。
ルキアにとってもそれは日常の一部と化しているので青藍をあやすのはお手のもの。
そんな日常のお話でした。


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