色彩
■ 草の月A

「お初にお目にかかります、朽木青藍様。私は草薙奈月。次期「霜月」にございます。あちらは草薙巳月。あちらはすでに「葉月」の名を頂いております。」
深々と一礼した奈月を、青藍は真っ直ぐに見つめる。
顔を上げた奈月と目が合って、一瞬の後、笑みを見せた。


『なるほど。今回の件は、四季様の提案だね?』
驚きに目を丸くした奈月にまた笑って、青藍は言葉を続ける。
『僕らに会いたかったなら、四季様に朽木家へ連れて行けと言えばよかったのに。ま、いいや。とりあえず、話はあとだ。この場を収めるよ。・・・睦月!』


「はいはい。紙と筆と当主印ですね。・・・巳月。ちょっと離れろ。仕事だ。」
「はぁい。」
睦月に言われて巳月は素直にそれに応じる。
その表情は詰まらなさそうだったが。


『・・・これで良し、と。』
睦月から筆を受け取ってさらさらと何か文章をしたためた青藍は、その紙に当主印を押す。
それからぞんざいにその紙を巳月と奈月に投げた。
ふわ、とその紙は二人の元へと飛んでいき、二人はそれを受け取る。


「・・・本日以降も引き続き、流魂街の整備を行うことを命じる?」
『それを持って、あちらに居る流魂街の皆さんに説明をしてきなさい。君たちが朽木青藍と草薙睦月を名乗っていたのは、朽木家当主の命令だった、とね。』
悪戯に笑った青藍に、二人は再び目を丸くした。


「でも、引き続きって・・・。」
巳月に見上げられて、青藍は苦笑する。
『前にそれを命令した、という書類は適当に作っておくよ。君たちは悪いことはしていないから、流魂街の皆も嘘を吐いていたことを許してくれるだろう。ほらほら、早く説明してきなさい。変装を解いた彼を見た流魂街の皆さんが首を傾げている。』


「・・・いいのかい、青藍?彼らは、本当に大丈夫なのかい?」
流魂街の民に説明に言った二人を見送って、それまで成り行きを見守っていた京楽が青藍の隣に立つ。
その問いに、青藍はまたもや苦笑した。


『心配性ですねぇ。・・・まぁ、大丈夫だと思いますよ。四季様は、彼らと睦月たちを会わせたかっただけだと思うので。頭領の争い以降、バラバラになっていた草薙の一族がこうして顔を合わせている。顔を見て何を思うかは、彼ら自身の問題で、僕はそこまでは付き合いきれません。睦月が自分でどうするか選択すべきことです。』


「もし、正式に草薙の頭領に戻るとしても?」
『もちろん。』
「睦月君が居なくなるかもしれないよ?」
『あはは!それはあり得ませんね。睦月は自分で僕の傍に居ると言ったから。ね、睦月?』


「・・・あ?・・・あぁ、そうだな・・・。」
何か考えている様子の睦月の返事は適当だ。
青藍はそれに面白くなさそうな顔をして、唇を尖らせる。
その姿に七緒がくすくすと笑った。


『七緒さん?笑わないでください。』
「何だか、微笑ましくて。素直な青藍君は中々見られませんから。」
「あはは。確かに。可愛いよ、青藍。」
『春水殿・・・。』


「・・・ねぇ、睦月兄ちゃん。」
説明を奈月に任せたらしい巳月が戻ってきて、睦月の裾を掴む。
「んー?」
「弥生姉ちゃんとの婚約を破棄したって本当?」
「あぁ。弥生は師走に譲った。」


「そっかぁ。それじゃあ、次の婚約者は、巳月だね!」
『「「ん・・・?」」』
巳月の発言に、青藍、京楽、七緒は動きを止める。
あっという間に説明を終えて戻って来た奈月はそれを見て苦笑した。


「そうなんだよなぁ・・・。どうするよ、奈月?」
否定をしない睦月に、首を傾げていた三人は目を見開く。
「どうするもこうするも・・・あの四季様に対抗できるのは、睦月様ぐらいでしょう。私では力不足ですし・・・。」


「一族の血が絶えようとどうでもいいが、秘術の伝承は必要で、それを教えるには草薙の一族の知識を蓄えていなければならない・・・。」
「つまり、秘術を伝えるなら一族の者が手っ取り早いというわけです。」
「そんなもん、俺と弥生の子は化けもんになることが確定してるだろ・・・。」


「師走様とて、頭領の三箇条は知っているでしょう。」
「一に、一族の中で最も医術に精通していること。二に、秘術を扱うに相応しい精神であること。三に己の血を残すこと。だろ?」
「流石によくご存じです。」


「俺も一応草薙の一族の一員だからな。・・・で、そっちのお三方、話について来てるか?」
師走はそういって未だに動きを止めている青藍、京楽、七緒を見る。
説明してほしい、と目で訴えられて、師走は苦笑しながら口を開く。


「まず、巳月は女。で、普通、「睦月」が婚姻を結ぶのは、二月から十二月の名前を与えられた未婚の者の中で最も地位の高い相手でな。まぁ、睦月が気に入った相手を選ぶことも少なくはないけどな。だから、睦月は未婚既婚問わずに女が押し寄せて大変だったんだが。」


『・・・なるほど。巳月が女性だったのには驚きだけど、そういう風習があるんだね。』
「そうそう。で、今、弥生の次に地位が高い女は葉月の名を貰っている巳月だ。つか、他の生き残りは知らない。あの婆さんは知ってるかもしれないが、俺も睦月も自分から探す気は特にない。」


「つまり、睦月さんが頭領の役目を果たすならば、巳月さんが睦月さんの婚約者、ひいては妻となるということですか。」
七緒の言葉に頷いた師走は、例外もあるが、と付け加えた。
例外、という言葉に、青藍は説明しろと師走を見る。


「睦月が「睦月」を引退して、「四季」になることだよ。「四季」は「睦月」を引退した者だけが名乗れる名でね。引退したとはいえ、「睦月」だったことに変わりなく、秘術も知っている。その影響力は一族内では大きいもので、だからこそ、頭領である「睦月」と均衡を保つために、「四季」は新しく婚姻を結ぶことも、新たな子を成すことも認められていない。」
苦笑しながら言った師走に、青藍は嫌そうな顔をした。



2017.04.19
Bに続きます。


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