色彩
■ 草の月@

『・・・ねぇ、睦月。』
「なんだよ?」
『どうやら、僕と睦月が流魂街に出没しているらしいよ?』
「・・・は?」


『まぁ、これを見てよ。』
そういって青藍が差し出してきたのは、朽木家当主へ送られてきたお礼の手紙である。
差出人を見れば、流魂街のある集落の長の名前が書かれていた。
その文面を読み進めると、そこには新しい井戸の設置と、流魂街まで足を運んでくれたことへの感謝の言葉が綴られている。


「睦月様にも薬と治療のお礼をお伝えくださいませ・・・なんだそれ?」
怪訝な顔をした睦月に、青藍はさらに三通ほど手紙を見せる。
読んでみれば皆同じようなことが書いてあるのだが、睦月にはその覚えがない。
何せ、青藍の目付が主な仕事で、そんな頻繁に流魂街に足を運んでいる暇などない。


『ね、不思議でしょ?』
楽しげな様子の青藍に、睦月は嫌な予感がする。
「・・・行かねぇぞ?」
『えぇ?行こうよ。』
「俺たちの名前で悪いことをしてるなら行くが。」


『僕たちの名前を勝手に騙るのは、悪いことでしょ?』
「それはそうだが・・・。」
『それに、井戸を掘る費用も、薬代も貰ってはいないらしい。どんな人物か、気にならない?何故僕らの名前を騙ってこんなことをしているのか聞いてみたい。』


・・・こうなると、頑固なんだよなぁ、こいつ。
好奇心に瞳を輝かせた青藍に、睦月は内心で溜め息をつく。
だがまぁ、偽者が居るとなれば何もしないわけにもいかないか・・・。
抗うことを諦めた睦月は、頭の中ですぐさま青藍の予定を組み直す。


「・・・行くなら明日の午前中だな。白哉さんに許可を取って、死神の仕事として行くなら時間が取れるが。」
『さっき父上に電子書簡を送ったら、行ってこい、って返事が来た。』
「最初から行く気満々かよ・・・。」
青藍の手際の良さに睦月は呆れ返る。


『なんか、丁度春水殿からそういう話を聞いたらしいよ?それで、春水殿と七緒さんも一緒に行くってさ。』
「京楽さんは完全に面白がってるな。で、七緒は例の如くお目付け役か。」
『あはは。そういうことだろうねぇ。まぁ、いいんじゃない?最近事務仕事ばかりで飽きてきたところだし。』


「はいはい。お供させて頂きますよ、ご当主。」
『じゃ、弥生さんに連絡しなくちゃね。師走も退屈しているようだし、一緒に連れて行こうか。睦月を名乗る人は髪も瞳も深緑だそうだよ。君たちと一緒だね!』


楽しげに仕事に戻った青藍に、睦月は思案する。
俺たちと同じ色・・・?
それにどうやら医術の腕も悪くないらしい。
思い当たることがないわけでもない睦月は、警戒しておいた方が良さそうだ、と気を引き締めるのだった。


翌日。
流魂街へとやって来た一行は、集落の様子を見て目を丸くする。
真新しい井戸があるだけでなく、長屋が整備されて、診療所まで設置されているらしい。
これだけのことを無償でやっているというのは、普通ではない。
とりあえず張本人と話をしようということになって、彼らを探すことにした。


「・・・あ、青藍。あそこに人が集まっているようだよ。」
手紙を送ってきた集落をいくつか巡っていると、京楽が人だかりを見つけたらしい。
彼が指をさす方向を見れば、確かに人が集まっていた。
その前には、流魂街には似つかわしくない格好をした二人の男が立っている。


一人は黒髪で、その瞳は青と藍。
もう一人は髪も瞳も深緑。
どちらも整った顔をしていて、実際に青藍と睦月を見たことがない者たちが彼らを本人だと信じるのは仕方がないのかもしれなかった。


「おい、睦月・・・。あれは・・・。」
「・・・予想していなかった訳ではないが、まさか、な。」
「俺、一抜けた。」
「おいこら逃げんな、馬鹿師走。」
逃げ出そうとした師走を捕まえた睦月は、青藍たちに目を向ける。


「青藍。」
『うん?』
「・・・あいつら、草薙の一族だ。二人とも。」
『え?生き残りってこと?』
「そうだろうな。」


『・・・・・・敵?味方?』
真剣な表情に切り替わった青藍は静かに問う。
「今は解らん。最後に会ったのはあいつ等が子どもの時だからな。」
「俺はともかく、睦月は用心しておいた方がいいぜ。お前が姿を消してから、一族は荒れに荒れたから。」


「君たちには秘術のこともあるからねぇ。師走君も用心することだよ。」
「あぁ、そっか。京楽さんはご存知でしたね。」
「まぁね。」
「・・・それは私が聞いてもいい話なのでしょうか?」
「七緒ちゃんだって、彼らには何かあることぐらい気付いているでしょ?」
「それはそうですが・・・。」


『とりあえず、彼らに話を聞くべきでしょうね。・・・睦月、師走。』
「「はい。」」
『何かあれば、ここは僕らに任せて全力で邸に戻りなさい。当主命令だよ。』
「「畏まりました。」」


『よし。では行こう・・・あら?』
一歩踏み出した青藍は、件の二人の視線がこちらに向いていることに気が付いて首を傾げる。
暫く目を丸くしている二人だったが、その表情が徐々に歪んでいく。


「・・・睦月兄ちゃん!!」
泣き出しそうな顔をしながら睦月に駆け寄ってくるのは、睦月のふりをしていた方の緑の男。
遠目で見れば男なのだが、近寄って見えて来た顔は童顔で、くりくりとした目を長い睫毛が縁取っている。


「遅いよー!!睦月兄ちゃんの馬鹿!!」
「うぐ!?や、めろ・・・み、つき・・・。」
勢いよく飛びつかれた睦月は苦し気な声を出す。
そんな睦月とは裏腹に、巳月と呼ばれた青年(少年?)は嬉しげな笑みを見せた。


「忘れないでいてくれたんだね!睦月兄ちゃん、大好き!」
「おい!こら!待て!そんなに抱き着くな!」
「何で?だって、昔はよくこうやって抱き着くと、兄ちゃんが頭を撫でてくれたよ?」
「昔と今では事情が違う!」
ぎゃいぎゃいと騒がしい睦月と巳月に青藍と京楽、七緒の三人はぽかんとする。


「睦月様に・・・師走様までいらっしゃるとは。」
もう一人の青藍のふりをしていた男もまた泣き出しそうな顔をしたが、彼はゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。
その途中、ちらり、と青藍を見た。


「やっぱりお前は奈月か。随分でかくなったもんだな、二人とも。流石に青藍よりは小さいが。」
「・・・やはり、この方が?」
「そ。これが、俺と睦月の今の主。ちなみに俺たちの最初の主は此奴の父親。」
「そうですか・・・。」


「お前らも随分綺麗に育ったみたいだが、うちのご当主は別格でね。整った容姿の多い草薙の一族であっても真似が出来るもんじゃない。」
「そのようですね。私などでは、偽者すら務まりません。」
そう言うや否や、奈月は目を閉じてゆるりと首を横に振る。
一瞬で髪の色が深緑に変化し、開かれた目もまた深緑になっていた。



2017.04.19
Aに続きます。


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