色彩
■ 氷解 後編

「・・・で、何で、あんたが面倒見てんすか?」
「彼女が、家には帰りたくない様子なので。」
「ふぅん?此奴の帰る家に、此奴の言う「父様」が居るんじゃないのか?」
問えば、睦月さんは首を横に振った。


「解りません。彼女は家のことをほとんど口にしませんから。・・・気になりますか、彼女が。」
「・・・まぁな。」
「似ていますものね。昔の君に。」
「否定はしない。」
やはりそうか、と苦笑を漏らせば暫く沈黙が落ちる。


「・・・・・・彼女は。」
唐突に口を開いた睦月さんは、何かを考えているようで。
「彼女は、加賀美深冬といいます。上流貴族加賀美家の姫君で、兄君は青藍様の同期の加賀美豪紀。もっとも、彼女は養子なので血の繋がりはないようですが。」


「それで?」
「恐らく・・・彼女の「父様」は、今の養い親ではない。実の父親だと思われます。熱に魘されて、幼い頃の記憶が蘇っているのかもしれません。もしくは、彼女の父親がどこかに居る可能性も。」


「探す気か?」
「そこまでは流石に。教師として、深入りし過ぎるわけにはいきませんから。」
「でも、心配なんだろ?」
「まぁ、そうですね。」
頷いた睦月を見て、冬獅郎は内心苦笑する。


この人は昔から、手間のかかる奴ばかり面倒を見る。
教師たちですら匙を投げる相手を。
根が世話焼きなんだろうな。
それで、青藍なんかの世話をしているせいで、それに拍車がかかっている。


・・・まぁ、俺も、一般的に見れば問題児だったな。
周りに馴染めないというのは、組織的に動く護廷隊では致命的な弱点だ。
もっとも、今もそれは怪しいが。
ただ、今は、多くの仲間が居るけれど。
皆が敵ではないと、知ったけれど。


「そういうことなら、此奴がこのままの状態で死神になった時、十番隊で面倒を見てやるよ。松本はあれで面倒見がいいからな。」
俺の言葉に目を丸くした睦月さんだったが、すぐにくすくすと笑いだす。
「経験談ですか。」
「まぁな。つか、俺に此奴のことを話したのは、そのためだろ?」


「そう言う下心もありましたかね。本人の希望は二番隊だそうですが。」
「こんな派手な形じゃ、砕蜂は取らねぇだろう。」
「でしょうね。ま、もしも、の話ですので、頭の隅に置いておく、くらいの気持ちで結構ですよ。」


「あ!見つけた!」
聞きなれた声が聞こえてきてそちらを見れば、己の副官が医務室に入ってくる。
「おや、お迎えが来ましたよ、「日番谷君」。」
からかうような睦月さんの言葉もまた昔と同じ。
迎えに来ていたのは、松本ではなかったが。


「隊長!そろそろ講義の時間ですよ!質問攻めはあたしが適当に答えておきましたから、講義はちゃんとやってくださいね!」
「っち。めんどくせぇ。」
「橙晴が居るんですから、こき使っちゃえばいいじゃないですか。」
楽しげな松本に苦笑を漏らす。


「それもそうだな。・・・仕方ねぇ。行くか。じゃあな、「草薙先生」。」
「えぇ。また。サボりは程々にすることですよ。」
「別にサボってねぇ。休憩だ、休憩。」
「相変わらずですねぇ。」
「あんたもな。」
「ははは。違いない。」


それから数か月後。
己の副官のお蔭で徹夜明けの冬獅郎がゆっくり昼寝をしようと橙晴の寮部屋に足を向けると、医務室が何やら騒がしい。
ちらりと覗いてみれば、そこには青藍と橙晴、橙晴の友人である紫庵、医務室の主の睦月、それから深冬。


主に騒がしいのは紫庵だったが、その中で瞳を緩める深冬の姿に冬獅郎は内心苦笑する。
青藍たちが傍に居るんじゃ、俺や松本の出番はないな。
冬獅郎は内心でそう呟いて、踵を返した。


「彼奴らの傍に居るのは大変だぜ、加賀美深冬。」
その呟きは誰に聞かれることもなく消えていく。
ただ、その背中はどこか満足げなのだった。



2017.02.28
自分とよく似た深冬を見つけて、彼女を気に掛ける冬獅郎さんでした。
でも、深冬は青藍と出会ったので彼の心配は無駄となります。
それに安心したような、逆にさらに心配になるような。
深冬も青藍も、彼のそんな心情を知ることはないのでしょう。
冬獅郎さんは割と睦月に心を許しています。
逆もまた然りで、この二人は結構気が合うのではないでしょうか。


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