色彩
■ 灰色B

『僕と、貴方の違いはそこにあります。僕も世界を変えたい。ですが、僕が世界を変えたいのは、僕のためではない。僕の様に苦しむ者が、今後、世界に現れることの無いように、その者の周りに居る者たちまでが、苦しむことの無いようにしたいからです。僕は、僕自身が苦しむことなど、構いません。僕が苦しんで、皆が幸福を手に入れることが出来るのならば、僕は苦しんだっていい。世界を恨めしいと思う気持ちはありますが、僕は、世界を守りたい。今生きている者たちも、将来生まれて来るであろう者たちも。全て。』
青藍は真っ直ぐに言い放つ。


「綺麗ごとだ。」
『そうです。綺麗ごとですよ。でも、綺麗ごとだからと言って、世界を諦めることなどできないのです。変わることが出来るのならば、変えることを諦めません。』
凛とした声に、藍染は目を閉じてその声に耳を澄ませる。
聞き良い声だ。
他人の声など、煩わしいと思ったことしかないというのに。


『だから僕は、手始めに、四十六室を変えようと奔走している。貴方を裁いた四十六室は、何度も間違いを犯している。それなのに、間違いを認めない。それで苦しんだ人がどれほど居ることでしょう。どれほどの者が、彼らに運命を捻じ曲げられたのでしょう。』
青藍は悔しげに言う。


『僕はそれが悔しい。僕は、苦しみを与えられるけれど、僕自身に危機が迫れば、僕の守護者がいる。四十六室も、霊王宮すらも敵ではない。でも、他の皆はどうです?ただの死神が、四十六室に逆らうことが出来ますか?恐れずにいることが出来ますか?』
「出来ないな。力のない者は抗う術を持たない。」


『えぇ。弱きものは強きものに抗えない。強きものが正しいとは限らないのに。世界とは、考えれば考えるほど理不尽なものです。ですが、僕は、その理不尽さに付き合ってやるほど、お人好しではないのです。』
不敵に笑った青藍に、藍染は小さく口角を上げる。


「漸く本題か。私に何をしろというのかな、朽木青藍。」
『ふふ。流石に察しがお早い。』
「最初から解っていた。君が、生身で私と話に来るなど、何かあるとしか思えないだろう。」
楽しげな青藍に、藍染は呆れたように言う。


『まぁ、そうなのですが。』
「君の言う通り、私は退屈だからね。話を聞かせてもらおう。」
『ふふ。では、遠慮なく。・・・一年に一回でいいです。僕とお話しする機会をください。』


「は・・・?」
予想外の言葉に、藍染は唖然とする。
『お嫌なら、五年に一回・・・いや、十年に一回でもいいです。貴方とお話しする時間が欲しい。』
「・・・。」
大真面目に言われて、藍染は沈黙する。


『あれ?寝ちゃいました?』
「・・・いや、起きている。」
『それは良かった。』
「用とは、それなのか・・・?」


『えぇ。あ、もちろん、僕が勝手にこっちに来るので、心配はいりませんよ。なんなら、お酒ぐらいは持ってきましょう。如何です?』
楽しげに言われて、藍染は瞠目する。
「本気で、言っているのか?」
『へ?本気ですよ?』
きょとんとしながら言われて、藍染は深い溜め息を吐いた。


・・・この男が読めない。
この男の言動は把握しているつもりだが、今目の前に居る男は、一体、何だ・・・?
普段のこの男を見ていても理解できない部分はあるが、先ほどの発言は理解できない。
私と話す?
何故?


「・・・理解の外だ」
思わず内心の声が漏れてしまった藍染に青藍は苦笑する。
『予想通りの反応ですねぇ。』
・・・何故こちらは予想外なのに、あちらは予想通りなのだ。
藍染は内心で呟く。


『少し、頭の整理をしたいのですよ。色々あると頭がおかしくなりそうでして。』
「朽木白哉や朽木咲夜が居るだろう。浮竹や京楽も。」
『彼らは、僕に甘いですから。僕が弱音でも吐けば、すぐに心配する。そして、僕が苦しみを吐露すれば、自分のことのように苦しむ。貴方ならば、淡々と話を聞いて、時折、僕を嘲笑って、客観的な意見をくれると思ったのですが・・・駄目ですか?』
困ったように見つめられて、藍染は呆れた視線を送る。


「私にそのあざとさが通じるとでも?」
『あはは。思っていませんよ。だから、貴方を選んだのです。この無間には、貴方のほかにも色々といらっしゃいますが、貴方はこの中でもずば抜けて頭がいい。そして、冷酷なほどに冷静です。彼らがそうでないとは言いませんが、僕は、情のない意見が聞きたい。』


なるほど。
目の前の男が私に求めているのは、余計な肉付けがされていない意見ということか。
「・・・君と私が顔を合わせることを、彼らが良く思うとは思えないが。」


『そうでしょうね。貴方は大罪人ですから。その上、彼らを苦しめました。彼等だけでなく、他にもたくさん。貴方を殺したいと思っている方もいらっしゃるでしょう。春水殿などは、そうでしょうねぇ。父上もルキア姉さまも、複雑でしょう。』


「それを解った上で私に会いに来るとは、正気とは思えないな。」
『ふふ。自覚はありますよ。睦月にも散々止められましたからね。』
「彼はすぐそこまで来ているようだよ。」
『おや、それは大変だ。怒られちゃうなぁ。勝手に来たから。』
言いながらも青藍は楽しげだ。


『でも、睦月は、他言はしないんですよねぇ、これが。睦月は解っているのでしょう。僕に必要なものが何なのか。』
「私が必要だというのか?」


『そうですね。僕は、愛し子ですので。それも世界の中心にいるようでして。僕が揺れれば世界が揺れる。僕が僕として生き、尚且つ愛し子として世界の中心に生きる。そうするためには、主観と客観を使い分けなければなりません。主観はともかく、客観は中々難しいですからね。貴方にお手伝いいただければ、と。』


「私が断ったら?」
『あはは。断っても勝手に来て、勝手に話して帰ります。どうやら貴方は余程退屈なようだ。何だかんだで僕の話を聞いてくれている。』
・・・では、わざわざ私に確認を取る必要などないのでは。
藍染は内心で呟く。



2017.02.18
Cに続きます。

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