色彩
■ 灰色A

『やはり、貴方は・・・。』
藍染の様子に、青藍は笑みを潜めて、それから、悲しげに目を伏せる。
『貴方は、誰にも出会えなかった母上なのですね・・・。』
「何だと・・・?」
憐れむように言われて、藍染の声に怒りが滲む。


『貴方は、酷く孤独だった。その才故に。生まれながらに強大な力を持つ者は、孤独です。我が母がそうだったように。そして、貴方には、母にとっての十四郎殿や、春水殿、蒼純お爺様のような存在は居なかった。・・・貴方の周りには、貴方に関わろうとする者が居なかった。貴方と共に孤独を分かち合おうとしてくれる者が居なかった。』


「何が言いたい。」
問われて青藍は藍染を見据える。
『憐れなことです。』
はっきりと言われて、藍染の体に力がこもる。
「分を弁えろ、小僧。」


『それはこちらの科白です。貴方がどれほどの力を持っていようと、貴方が私よりも長く生きていようと、これから先、私よりも長く生きようと、貴方は、大罪人です。』
「貴様は違うというのか。」


『当然。私は、朽木家の当主。正統なる朽木家の導き手。妻があり、家族があり、多くの仲間に恵まれている。他人を信頼することを知り、他人の温もりを知る。他人と関わることは、温かいばかりではないが、それでも、その中に、私の信頼に応えてくれる者が必ずあるのだ。ただ独りの貴方とは、格が違う。』


「・・・は、ははは!!!」
青藍の言葉に、藍染は笑い出す。
「私と貴様と何が違う?貴様は満たされてなどいないはずだ。己の定めを呪い、己の存在を呪う。そして、己にその定めを科した世界を恨んでいる。」


『そういうときもございますよ。何かと世の理に振り回されておりますからね。』
「死なせた者の数も、私とそう変わらないだろう。貴様を狙ったものが、何人姿を消した?貴様の身を守るために、何人が犠牲になった?部下を何人死なせた?」


『それが何です?』
青藍はそう言って微笑む。
その微笑に、藍染は内心で驚く。
・・・この私が、反射的に命の危険を感じるとは。


『ふふふ。貴方でさえ、私に恐怖するのですね。・・・まぁ、当然でしょう。私は人殺しですからね。私を生かすために、私の代わりに犠牲になる者がある。私を害するものは、私の知らぬ間に命をもぎ取られている。』
そこまで言って、青藍は言葉を切る。


『難儀なことです。他人の犠牲などいらないのに、私が生きるためには、他人の犠牲が不可欠なのですから。死にたくなります。ですが、だからこそ、この命は惜しくて。』
本当に困ったように微笑んだ青藍に、藍染は内心で目を丸くする。


「・・・その言葉は、本音なのか。」
『あはは。失礼ですねぇ。私は、最初から貴方に本音を話していましたが。』
青藍はそう言って朗らかに笑う。


「一人称が「私」のくせに何を言う。」
『ふふ。これは失礼いたしました。では、此処からは「僕」とお話を願います。正直、「私」は疲れるので。』
雰囲気がころりと変わった青藍に、藍染も思わず力を抜く。


「一体、君は何をしに来たんだ・・・。」
その呟きに、青藍は笑い声を上げた。
『僕は、貴方とお話をしてみたかったのです。貴方が多くの者たちに傷跡を残したのは知っていますし、今だって、貴方のことを語るものは少ない。僕自身、僕の大切な人たちに傷を残した貴方を許しはしません。でも・・・。』


「でも?」
『でも、貴方は、僕と同じだから。』
真っ直ぐに言われて、藍染は返答に詰まる。
「・・・同じ、だと?」


『貴方が壊したかったのは、世界ではない。貴方が本当に壊したかったのは、世の理。多くの者を縛り付け、多くの者を傷付ける。自分もその理に縛り付けられている。貴方は、神になりたかったわけではない。・・・解き放ちたかったのでしょう?多くの者を。そして、自分自身を。』
青藍の言葉に、藍染は目を瞑る。
幼い頃の何かを思い出しそうになって、それを振り切るように、瞼を上げた。


「まさか。そんなことはない。私は、ただ・・・。」
『許せなかった。自分を苦しめる者が。だから、結局のところは、貴方は罪人なのですが。』
「何・・・?」


『貴方が罪人である所以は、自分のためにやった、ということです。』
「違う。私は、世界のために・・・。」
『いいえ。貴方は自分が苦しいから、世界を変えようとしたのです。それは、私怨というのです。私怨での人殺しは、罪ですよ。』


そんなことはない。
私は苦しくなどない。
藍染はそう言葉にしたいのに、その否定の言葉が空気を振動させることはなかった。



2017.02.18
Bに続きます。


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