色彩
■ 灰色@

『なるほど。無間とは、本当に無間なのですねぇ。』
青藍はそんなことを言いながら、暗闇から姿を浮き上がらせる。


「・・・ほう。客人とは珍しいこともあるものだ。ようこそ、と言った方がいいかな。」
そんな青藍に驚く様子もなく、藍染は青藍をチラリと見やる。
拘束具が嵌められているために、視線がどこに向けられているのか、青藍からは解らないのだが。


『おや、驚かないのですね。流石、と、言っておきましょう。貴方の様子は良く知っていますが、直接顔を見るのは初めてですね。大罪人、藍染惣右介。その形で普通に会話が出来るとは、恐ろしいですねぇ。』
青藍は微笑みながら言う。


「私の様子を常に伺っていることは知っているよ、第二十九代朽木家当主朽木青藍。」
『えぇ。私も、貴方が私を観察していることはよく知っておりますよ。ですから、初めてお会いしたとは思えません。私たちは互いのことを知り過ぎている。』


「気に食わないが、同感だ。」
視線が向けられていることを感じて、青藍は内心で笑う。
それと同時に、藍染への憐みを覚えた。


『こんなところに何百年も居ては、大層退屈なことでしょうね。』
「そうでもない。ここは、瀞霊廷の全てを見渡すことが出来るからね。そういう君は、最近まで遠征隊に居たのだろう。さぞ、退屈だっただろう。ただの虚と死神ごときが相手では。」


『ふふ。そうでもありませんよ。相手は瀞霊廷の最高機関ですからね。まぁ、皆のお蔭で、私は今ここに居ることが出来るのですが。』
「皆のお蔭、か。」
藍染は詰まらなさそうに言う。


『えぇ。皆のお蔭、ですよ。貴方だって、彼等を見ていたでしょう。私を助けるために必死になっている彼らを。』
「私は彼らに興味などない。」


『ですが、私には興味がおありでしょう?』
見透かすように言われて、藍染は小さく口角を上げる。
「君に興味がない者がこの世界に居るのかな。」


『ふふ。居ないでしょうね。私は何処に居ても、興味をもたれる。この生まれと、容姿と、それから、我が祝福に。』
青藍は楽しげだ。
「祝福!呪いの間違いだろう。」
そんな青藍に藍染は嘲るように言い放つ。


『否定はしません。ご本人も、その自覚があるようですので。』
「ふん。霊妃と言えばいいだろう。私に隠し事などできはしない。」
『誰が聞いているか解らないものですから。ここへ来るまでに、多くの方をお見かけいたしましたし。』


見かけただけで、相手には青藍の姿は見えていないのだが。
いや、見られては困るのだ。
青藍は当然のように無間に不法侵入をしているのだから。


「私が呼べば、彼等は此処へやって来るが。」
『ふふ。呼んでもいいですよ。ついに藍染惣右介は気が狂った、とでも言われるだけですから。』
「ほう。試してみるか?」
自信ありげな青藍に、藍染は少し興味を持ったようだった。


『おやめになられた方が良いと思いますよ。なにせ、私には、浦原喜助という協力者が居りますので。貴方が唯一認めた尸魂界一と言ってもいいほどの頭脳の持ち主。そして、尸魂界のためならば手段を選ばない男です。』
「なるほど。今のところ、彼は君を尸魂界にとって有益だ、と認識している訳か。」


『まぁ、そうなのでしょうねぇ。漣家の秘密をどこまで知っておられるのかは、謎ですが。あの方の存在を知っているとしても、彼は私を助けることを選ぶでしょう。私は、愛し子ですからね。貴方だって、私の相手ではない。自分がどう動けば世界が覆るか知っているのだから。』


「大層な口を利く。流石あの朽木白哉の息子だな。だが、不遜な態度は慎んでもらおう。」
青藍の言葉に、藍染は少し苛立ったようだった。
『それは、申し訳ありません。ですが、おっしゃる通り、私の父は朽木白哉でして。傲岸不遜は生まれ持つ性分ですので、目を瞑って頂けると幸いにございます。』
そんな藍染を意に介さず、青藍はにっこりと微笑む。
その瞳だけが鋭い微笑が昔の咲夜に似ていて、藍染は小さく舌打ちをする。


「・・・漣咲夜と同じ微笑み方をする。」
『そうですか?』
「微笑みは仮面で、自分を隠し、相手を油断させる道具だ。」


『おや、貴方も同じでしょう?貴方の微笑みで、どれだけのことが隠され、どれだけの人が騙されたか。・・・まぁ、その微笑も、我が母には通じなかったようですが。だから母は、貴方に利用されることもなく、貴方の元に下ることもなかった。母が貴方の側に付けば、貴方は人間に負けることなどなかったのですから、さぞ悔しいことでしょうねぇ。』
楽しげに言った青藍に、藍染はその身から冷たい空気を醸し出す。


・・・おや、意外と解りやすいようだ。
そんな藍染を見て、青藍は内心で呟く。
青藍が今日藍染の元に来た目的は、彼の為人を自分の目で確かめてみたかったからだ。


本当は、もっと早く、顔を見に来たかったのだが、青藍の多忙と、彼の護衛が青藍を無間から遠ざけるのであった。
・・・睦月ったら、本当に心配性なんだから。
青藍は内心で苦笑する。


「・・・不遜な態度は慎めと言ったはずだが?」
『傲岸不遜は性分だ、と申し上げました。』
「生身で私の前に姿を見せて、無事でいられるとでも?」
ひやり、とする声に、青藍は小さく笑う。


『えぇ。貴方が私に手を出せば、貴方は命を落とします。崩玉さえ、あの方にかかれば、ただの玩具でしかない。当然、貴方の能力も、貴方自身も。あの方は、愛し子たる私を守るためならば、いや、私を守れなかったならば、私を害したものを容赦なく断罪します。・・・私がそれを望まなくとも。』


「皇家のように?」
『はい。皇家のように。』
青藍は笑みを絶やさずにいう。
「否定しないのか。これは私の予想だったのだが。」


『しませんよ。私は、あの方々を「消す」つもりはなかった。出来ることならば、こちらで、苦しみながら生きていただきたかった。』
「慈悲、か?」
藍染は意外そうに言った。
その声に、青藍は小さく笑う。


『まさか。魂魄の消滅などでは、私の気が済まない、という話です。貴方が、霊王様の存在を許せないようにね。』
「許せない・・・?許せないのではなく、不要なのだ。霊王も、霊妃とやらも。何故、あのようなものが尸魂界の頂点に立っている。何故、死神はあんなものを守る。」
苛立たしげに言う藍染に、青藍は納得した。



2017.02.18
Aに続きます。


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