色彩
■ 条件反射B

「・・・あ、居たいた。」
三人が話していると、そんな声とともに、執務室に入ってくる者がある。
その姿に青藍たちは目を丸くして、隊士たちはまた何か来た、とちらちらと気にしながらも仕事をする手は止めない。


漆黒の艶やかで癖のある髪。
長身痩躯の色男である。
そして、何処からどう見ても、放蕩貴族。


「本当に帰っていたんだね。お帰り、青藍。」
周りの目を気にすることなく、彼は青藍たちの前へやってくる。
「あ、橙晴も久しぶり。昔の白哉君みたいになってきたねぇ。良い顔だ。」
「お久しぶりです・・・。」


「咲ちゃんは・・・二週間ぶりくらい?」
「あ、あぁ。そうだな・・・。」
「あはは。いつ見ても綺麗な顔だねぇ。でも僕は、青藍の顔の方が好き。・・・だけど、少し張りつめているみたいだね。もう少し柔らかい方がいいよ。」


むに。
言いながら彼は青藍の頬を軽く抓る。
「それに、少し細くなったみたいだ。・・・苦労してきたんだね。傷ついている者の瞳だ。」
青藍をまじまじと見て、彼は独り言のように言う。


「あぁ、でも、それもそれで美しい。苦悩を抱える瞳というのは、美しくもある。悩ましい君も魅力的だなぁ。」
言いながら青藍の頬から手を離して、青藍の顔をうっとりと見つめた。
『一色殿・・・。』


何故、この人が、こんなところに居るのだ・・・。
唖然としていた青藍は状況を理解できぬまま、目の前に居る男の名を呼ぶ。
彼こそが、京楽家の幻の三男坊、一色、もとい、絵付けの名手、采湧。
あの久世紫庵の実の父親である。


『お久しぶりです。』
「うん。久しぶりだ。髪の長い君も素敵だね。」
一色はそう言って微笑む。
『ありがとうございます。それで、何故、此処に・・・?』
首を傾げた青藍に釣られたように彼も首を傾げる。


「あのね、紫庵って、何番隊?」
『「「・・・。」」』
まさかの問いに、三人は絶句する。
まじまじと一色を見るも、どうやら本気で聞いているらしい。


「・・・ごほん。えー、紫庵は、三番隊です。」
一番早く我に返った橙晴が、静かに答える。
「そうなんだ。あの子、いつも何処に居るのか解らないんだよねぇ。」


いや、それは多分、貴方が覚えていないだけ・・・。
緩く微笑みながらそう言った一色に、三人は内心で呟く。
すでに諦めているために口には出さないが。


『それで何故、僕の所に・・・?』
「ん?だって、青藍は何処に居るか解りやすいし。青藍が居なくても白哉君か橙晴がいるでしょ?だから、六番隊なら誰かが教えてくれるかなぁ、って。」
「そうか・・・。なるほどな・・・。白哉たちが六番隊なのは覚えているのか・・・。」


「うん。皆綺麗だから。あと、青藍が帰ってきたって、聞いたから。荒れ地に君のような綺麗な青年が傷付いた瞳をして佇んでいる様は、それだけで涙が出るくらいに胸を打つだろうねぇ。見に行こうかとも思ったのだけれど、遠すぎて行けなかったんだ。兄さんにも駄目って言われちゃったし。」


・・・春水殿。
止めてくれてありがとうございます。
今僕は心の底から貴方に感謝しております。
目の前の彼があの地に来ることを想像して、青藍は思わず京楽に感謝する。


「狡いよねぇ。紫庵はいいのに、僕は駄目なんだって。どうしてだろう?」
一色は不満げに言う。
「まぁ、それは、一色さんを心配してのことでしょう。」
「そ、そうだな。一色では、あの場所で生き残るのは難しいだろう。」


『そうですね・・・。ほぼ虚しか居ませんからね。』
「そうなの?それじゃあ、仕方ないかぁ。僕、まだ死ぬのは嫌だし。それに、虚って美しくないから好きじゃない。でも、醜い中に居ても、青藍のその美しさは変わらないのだろうね。やっぱり、見に行けばよかった。」


「咲夜。誰か来ているの・・・だな・・・。」
隊主室から出て来た白哉は、一色を見て、嫌そうな顔をする。
「何故ここに居るのだ、一色・・・。」
「白哉君、久しぶりだねぇ。紫庵を探しに。それから青藍を見に。」


「・・・あれはここには居ない。」
「うん。そうみたい、だね・・・。」
言いながら一色は吸い寄せられるように白哉の目の前に来て彼の顔を眺める。


「なんだ。」
白哉は迷惑そうに彼から距離をとるが、反射的なのか何なのか、一色は白哉が取った距離を詰める。



2017.02.16
Cに続きます。


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