色彩
■ 条件反射@

『皆、お早う。・・・何あれ。』
帰還して三日。
白哉に今日から仕事をしろと言われて唇を尖らせながら、青藍は六番隊の執務室に足を踏み入れた。
隊士たちから挨拶が返って来て、それに適当に応えた青藍は三席の机に向かう。
机の前に来て、訳が分からないと言った様子で再び呟いた。


『なにこれ。』
その様子に、隊士たちは苦笑する。
いつぞやのように、贈り物で一杯になったりはしていないのだが、どう考えても、そこにあるのはおかしい物体が青藍の机の椅子に座っているのだった。
『何がどうして此奴が此処に居るの・・・?』


「そなたの代わりだ。」
首を傾げている青藍の後ろから、少し遅れてやって来た白哉がいう。
『え?僕の、代わり・・・?』
その言葉に、青藍は目をぱちくりとさせる。


「そうそう。兄様の代わりです。四十六室が、何故空席なのか、と、嫌味を言って来たもので。ならば席を埋めればいいのだな、と、父上が。兄様が居ない間、六番隊の第三席は彼だったんですよ。」
白哉の後ろから現れた橙晴が、楽しげに言う。


「ふふ。父上、流石ですよねぇ。」
『なるほど・・・。だから、これは此処に・・・。』
言われて青藍はそれをまじまじと見つめた。


嫌に長い手足。
太い眉。
白い鉢巻。
緑の体。


何処からどう見ても、朽木白哉考案のワカメ大使の人形である。
それも、青藍サイズの。
無駄に綺麗に着せられている死覇装は、恐らく、特注品。


『・・・そうですか。ありがとうございます・・・。』
なんだか納得はいかないが、青藍はとりあえずお礼を言った。
「後で持ち帰るがいい。」
白哉は満足げにそう言い残して隊主室へと入って行く。


『・・・持ち帰ってどうしろと?』
「抱き枕にでもすればいいのでは?触り心地は抜群ですよ。」
橙晴は適当にそう言って、自分の席に座る。


『大きくない・・・?』
「兄様サイズの特注品ですからね。ちなみにその死覇装も特注品です。母上が楽しげに着せ替えをしておられました。・・・まぁ、その人形がそこに居るのは、窓から飛び込んでくる母上の激突防止でもあります。何度も頭をぶつけておられたので。」
『母上・・・。』


「何でもいいので仕事を始めてください。兄様にやってもらう仕事はたくさんあるのですから。」
『はいはい。ワカメ大使は・・・僕のお昼寝場所って、綺麗?』
「もちろん。皆使っていましたからね。邸に帰る暇もあまりなかったので。」
『・・・・じゃあ、とりあえず、君はこっちに来ようか。』
青藍はそれを抱えて移動させたのだった。


仕事を始めて数刻。
「せいらーん!!!」
そう言って窓から入ってくる者があった。
勢いを殺すことなく、青藍に飛びつこうとする。
青藍は反射的にそれをするりと躱した。
入って来た者は、そのまま青藍の執務机に激突する。


「い、痛いだろう・・・。」
『あ、避けちゃった・・・。ごめんなさい。大丈夫ですか、母上。』
青藍はそう言って机の角に激突した咲夜の額に手を当てる。
「酷いぞ、青藍・・・。ワカメ大使を片付けたのなら、避けるな・・・。」


『いや、その、悪気があったわけでは・・・。なんというか、体が勝手に反応しまして。今朝も起こしに来た深冬を捕まえてしまいました・・・。』
青藍は困ったように言う。


「一体、この三年、どんな生活をしたのだ・・・。」
『あはは・・・。常に虚と刺客に命を狙われていたものですから・・・。』
「どうやら本当のようだな、それは・・・。」


『すみません・・・。出来れば、暫く突然抱き着いたりするのは、正面から以外はやめて頂けると・・・。正面からならば、大丈夫なので。』
「あぁ。そうしよう。・・・そんな顔をするな、青藍。私は大丈夫だ。」
眉尻を下げている青藍に、咲夜は手を伸ばす。


「だが、もう帰ってきていることを、忘れるな。いいな?」
『はい、母上。』
「よし。・・・私の額は無事か?」
『はい。撫でたら治りました。』


「そうか。・・・ん?何だか、少し前に、そんなことがあったような・・・。」
咲夜はそう言って首を傾げる。
『へ?そうですか?』
青藍もまた首を傾げる。
その様子に橙晴は呆れた視線を向けた。


「・・・お二人とも、兄様が帰られた日の宴のことを覚えておられないので?」
「えーと・・・その日は・・・呑んだ。すごく。」
『えぇ。たくさん呑まされて・・・何したんだっけ?母上と一緒に何かしたような。』
「そうだな・・・。青藍と何かしたような。」
二人はそう言って互いを見る。


2017.02.16
Aに続きます。


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