色彩
■ 39.朝の風景

『ふは。起きようか。ちょっと、止まらなくなりそうだ。』
・・・やっぱり、この男は、狡い男だ。
触れ合いが足りないと感じているのは、私だって同じなのに。
艶めかしさなどなかったかのような青藍の無邪気な笑顔に、深冬は内心で呟く。


『ふふ。真っ赤。・・・期待した?』
青藍は楽しげに、色付いた深冬の頬に唇を落とす。
「ち、ちがう!」
『あはは。真っ赤だよ、深冬。』
深冬の髪を耳に掛けながら、青藍はからかうように言う。


『首も赤い。』
ちう。
吸い付かれて、深冬は小さく悲鳴を上げる。
自分でつけた所有印を、青藍は満足そうに指で突く。


「な、そこ、は、見える、だろう・・・。」
『あはは。髪を下ろしておけば見えないよ。』
悪びれなく言われて、深冬は悔しくなる。
お返しとばかりに、青藍の首筋に吸い付いた。


『ん。』
青藍は小さく身じろぐ。
「お返し、だ。」
『見えちゃうじゃない。』
「髪を下ろしておけば見えない。」
『わざと結んじゃうもんね。』


「な!?」
悪戯に言われて、深冬は目を見開く。
『ふふ。皆に見せびらかさなくちゃ。』
「それは、だ、駄目だ!」
深冬は焦ったように青藍の髪でその印を隠す。
『あはは。嘘だよ。勿体ないから誰にも見せてあげない。』


「・・・ばか。」
楽しげな青藍に、深冬は頬を膨らませる。
『ごめんね?』
「許してあげない。」


『えー?許してよ。』
「だめ。」
『お願い。』
二人はそう言って見つめ合う。
それから同時に吹き出した。


『ふふ。起きようか。』
「ふふ。そうだな。」
くすくすと笑いながら、二人は起き上がる。


『いい天気だねぇ。』
開けられた障子の隙間から見える空は、快晴。
雲一つない、眩しい空。


「そうだな。・・・そうだった。朝餉の準備が出来ているのだ。」
『じゃあ、急がなくちゃ。父上に怒られちゃう。』
「ふふ。今日くらい、仕方がないと笑ってくれる。」
『そうかな。』
「うん。」


『そっか。でも、ちゃんと急がなくちゃね。』
「そうだな。」
そうして二人は笑う。
きらり、と互いに贈りあった指輪が輝きを放った。


「・・・お、起きて来たぞ。」
「僕より遅いなんて、寝坊助だねぇ。」
「遅いですよ、青藍兄様。」
「待っていたら開店に間に合わないので先に頂いています。」
青藍が部屋に入ると同時に聞こえてきたのは、浮竹、京楽、橙晴、茶羅の声。


「今日はもう起きてこないかと思ったが。」
「そうですね。出かける前に顔を見られないかと思いました。」
「ミイラ取りがミイラになっている可能性もあったからのう。」
「そろそろ私が起こしに行こうと思っていたところだ。」
続いて、白哉、ルキア、銀嶺、咲夜。


「朝餉は体にいいのですよ、青藍。しっかり食べることです。」
「板長が張り切ってお前の好きなもん作ってたぞ。」
「ホントだよなぁ。俺たち、早朝から買い出しに行かされて・・・。」
「貴方たち、板長の小間使いまでやっているのね・・・。」
さらに続いて、卯ノ花、睦月、師走、雪乃。


『皆、どうして・・・。』
揃っている彼らに、青藍は目を丸くした。
何時もならば、皆すでに邸を出ている時間なのだ。
「総隊長が今日に限って午前の非番を下さったのだ。流石に全員とはいかなかったが。」
深冬は苦笑する。


「紫庵に蓮、キリトさんたちは僕らの代わりに仕事を熟してくれるそうです。」
「私も、開店準備は任せて、って燿が。」
「四番隊には弥生が行ってるから心配するなよ。」
「霊術院も、薬学の授業は自習にしてきた。」


「半日しか非番をやれなくて悪いな、朽木。俺が仕事に行けば、一日非番にしてやれたんだが・・・。そうすれば、キリトだって・・・。」
申し訳なさそうな浮竹に、京楽は笑う。
「あはは。山じいの命令じゃ、仕方ないよねぇ。」
「いえ。お気遣いありがとうございます、浮竹隊長。」


「儂は年寄り故、暇など幾らでもあるのじゃが。」
「そのくせ早起きでしたよね、銀嶺お爺様は。」
「青藍が本当に帰ってきているのかどうか確認していたとの報告があった。」
「あら、素直じゃありませんねぇ。」


和気あいあいとした穏やかな何気ない朝餉の風景。
皆の表情が明るくて、柔らかくて、優しい。
その温かな空気が、呼吸をするたびに体の中に満ちていく。
それと同時に湧き上がる喜び。
震えが伴うほどのその喜びは、涙となって溢れ出て。
青藍は何だか力が抜けて、膝から崩れ落ちる。


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