色彩
■ 36.難解な草薙

「・・・ねぇ、睦月って結局何者なの?」
青藍を背負って連れて行く姿を見届けて、乱菊は首を傾げる。


「さっき、師走さんは頭領と言っていましたが。」
「睦月は頭領の名前だからな。」
「そうなんですか。睦月に生まれたからなのだと思っていました。」
七緒は意外そうに言った。


「はは。睦月は睦月生まれじゃないぞ。俺だって師走生まれじゃない。」
「草薙の一族というのは?」
「俺たちが育った場所だ。少々特殊な一族でな。本来なら一か所に留まることはないんだが。まぁ、俺たちは居場所を見つけたからな。」
師走は笑う。


「草薙についてあんまり深くは知らない方がいい。青藍並みに面倒だからな。」
「ふぅん?あんたたちも、何か訳アリってことね。」
「そういうことだ。ルキアも、苦労するなぁ。」
「何故だ?」
師走の言葉にルキアは首を傾げた。


「だってお前、睦月の事情知ってんだろ?」
「・・・まぁ、そうだな。」
「もし俺が、睦月と同じことが出来るとしたら、お前、どう思う?」
「・・・。」
ルキアは問われて沈黙する。
それを見た師走は満足げに笑った。


「沈黙が答えか。正解だ。・・・睦月も惜しいことをするよなぁ、ほんとに。だからあの状態の青藍にまで心配されるんだ。」


「どういうことですか?」
「師走もよく解らないわよねぇ。」
「師走さんは、睦月さんより難解なのよね。」
七緒、乱菊、雪乃は首を傾げた。


「それで、師走は、出来るのか?」
ルキアは不安げに師走を見る。
「そんな顔をするな。俺は、あちらじゃない。」
「あちら?」
師走の言葉にルキアは首を傾げる。


「睦月は始まりで、俺は終わりということだ。」
「始めと、終わり・・・。睦月とは、逆ということか?」
「ま、そうだな。逆であり、隣り合っている、という所だ。」
「よく解らぬが、師走も厄介者だということだな?」


「はは。それでいい。それから、ルキアに言っておくが。」
師走はそう言ってルキアを見つめる。
「何だ?」
「睦月は、お前を家族だと思っている。」
師走の真剣な瞳に、ルキアは首を傾げた。
何故今更そんな当たり前のことを言うのだ、とでも言うように。


「私も睦月は家族の一員だと思っているぞ?」
当然のように言われた言葉に、師走は思わず笑う。
「そうか。それならいいんだ。」


「・・・師走さん、何か見えているみたいね。」
笑っている師走に、雪乃は感心したように言う。
「俺は、今の睦月よりはずっと観察者だ。」
「だから、弥生さんのことも見ているだけ?」
雪乃に問われて師走は苦笑する。


「それは、まぁ、考え中だ。」
「嘘ね。見ているだけにするつもりでしょう。」
言い切られて、師走はため息を吐く。


「・・・はぁ。雪乃も大概鋭いよな。妊婦の勘か?」
「何よ、妊婦の勘って・・・。それより、手を伸ばさない理由を聞いても?」
「俺は、観察者だからな。」
「違うわ。ずっと観察者だったから、実際に触れるのが怖いのよ。」
確信を持っていわれて、師走は再び苦笑する。


「否定はしない。見るのと触れるのとでは、全く違うからな。俺はまだ、睦月ほど、近くには居ないんだ。」
師走は困ったように言う。
「ふぅん?ま、大丈夫じゃないかしら。気付いたら近くに居るわよ。」


「何故そう思う?」
「貴方の傍には竜巻が居るもの。」
即答されて、師走は笑った。
「だから、その内近くなるわ。貴方が望まなくてもね。」


「なるほどね。勝手に吸い寄せられていくわけか。・・・お前も最近、朽木家の者だよなぁ。」
「あら、私、朽木雪乃なのよ。朽木家の者であるのは当然じゃない。」


「そうそう。雪乃は僕の妻なんだから。」
突如聞こえてきた声に皆がそちらを見れば、そこには橙晴に茶羅、燿の三人が居た。
「皆様、こんばんは。」
「俺たちも、いいですか?」


「もちろんよ!隊長たちの相手はもういいわけ?」
乱菊に問われて、三人は小さく笑う。
「おじさんたちは安心したからもう帰る、だそうですよ。ルキア姉さまと七緒さんはゆっくり楽しめ、とのことです。」


「そうですか。では、もう少し。」
橙晴の言葉に腰を上げかけた七緒は力を抜いて座り込んだ。
「きっと、これからお二人で語らうのだろう。」
「ルキア姉さまもそう思いますか。まぁ、そんなことだろうと思って、酒と肴をお土産に持たせましたけど。」


「俺と茶羅が作ったお菓子も渡しておいたよ。もちろん、皆さんの分もあります。」
燿はそう言って菓子を並べていく。
皆がそれぞれに好きなものに手を伸ばした。


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