色彩
■ 34.一人は駄目

『むつきー!』
睦月を見て足を速めた青藍は転びそうになった。
「うわ、お前、危な!?」
睦月は思わずそれを受け止める。
青藍はそのまま睦月に抱き着いた。


「こら、青藍!自分で立て!重いっての!!」
『むつき!』
「あー、はいはい。解ったから、とりあえず座ろうな?」
『うん!』


「昔から返事は良いんだよな、お前・・・。」
青藍を座らせながら、睦月は自分も座る。
『返事しないと父上が怒るもの!』
「うん。そうだなー。拗ねたお前は何時もそれで余計怒られるんだよなー。」


『遊んでくれない父上が悪い!』
「はいはい。お前の父上は忙しいの。」
睦月は面倒そうに言う。


『それなのに、怪我するんだもん。痛いの嫌なのに。』
「そうだな。」
『睦月が治すんだよ?痛いんだからね?』
「解ってるよ。」


「さすが睦月。慣れているな。」
その様子を見て、ルキアが感心したように言う。
「そうですね。子どもみたいだ・・・。」


「何だか甘えているみたいね。」
「そのようです。」
「昔からああなのですか?」
雪乃に問われてルキアは笑う。


「そうだな。昔から、他人の痛みを自分の痛みのように感じるのだ。幼い頃は、ああやって、何かあると睦月に泣きついていた。私の所に来ることもあったが。白哉兄様が怪我をすると、大変だった。寝付かなくてな。咲夜姉さまでも寝付かせることが出来ない時もあった。」
ルキアは懐かしげに目を細めた。


「どこまでも白哉様が好きなのですね・・・。」
雪乃は呆れながらも、微笑ましげに彼等を見つめる。
「そうだな。睦月もあれで、青藍が可愛いのだ。」
「そうでしょうね。目付けとしてずっと一緒に居ますから。」
「そうねぇ。いつも睦月が迎えに来るのよねぇ。」


「「まるでお母さんみたいに。」」
「ぶはっ。む、睦月が、お母さん・・・。」
声を揃えて言った乱菊と七緒に、師走は思い切り吹き出す。
「誰がお母さんだ!笑うな、馬鹿師走!!」


「ほぼ睦月が育てたと言っても過言ではないが・・・。」
「今でも青藍の世話係は睦月さんですからね・・・。」
叫んだ睦月に笑いを堪えながら、ルキアと雪乃は呟く。


『ねぇ、睦月。』
「何だ酔っ払い。」
『酔ってなんかないもん。』
青藍は不満げに睦月を見る。
「・・・酔っ払いめ。」
それを見て、睦月はため息を吐いた。


「で?何だよ?」
『睦月には、後で、ご褒美あげるね!』
「は?」
突拍子のない言葉に、睦月はポカンとする。


『ねぇ、何が良い?家?着物?それとも研究費?』
「家ってなんだ、家って・・・。規模がでかすぎだろう・・・。」
呆れたように言うも、青藍は首を傾げた。
『そうかな?じゃあ、何が良い?眼鏡?でも最近眼鏡してないよね?あ、睦月も指輪欲しい?安曇様に頼む?』


「いや、待て。俺は別に何も要らないぞ?」
『何でぇ?』
不満げな顔をされて、睦月は小さく焦る。
その瞳が、泣きそうだったからだ。


「お前がちゃんと帰ってきたからな。それだけで十分だ。昼間も、最後まで頑張ったら許す、って言っただろ?」
『それじゃ、駄目なの!』
「何でだよ?」
『睦月は、一人じゃないから!』
「話が繋がってないぞ、酔っ払い。」


『・・・だって、僕、睦月には、幸せに、なって、ほしいもの。睦月は、僕の、そばに居るって、言ったけど、僕のせいで、睦月が苦しいのは、いやだもん。』
青藍は泣きそうに言う。


『やだよ・・・。僕は、皆に、笑って欲しいのに、僕がそばに居ると、皆、苦しくて、僕も苦しい。突然、遠くに行っちゃうかもしれないんだよ。一人は、怖くて、寂しいよ。睦月は、僕より強いけど、でも一人になっちゃ駄目だよ。』
そう言って再び抱き着いてきた青藍は泣いているのかも知れなかった。


これは、思ったよりも、今回のことがトラウマになっているのかもしれない。
だからさっきまで白哉さんにべったりだったのだ。
そして恐らく、咲夜さんが青藍と一緒になってべったりだったのは無意識にそれを感じ取っているから。
そりゃあ、こんなになるまで呑むわけだ・・・。
睦月はそう思って、青藍の背中を擦る。


「・・・怖くて、寂しかったのは、お前だろう。」
『ちがう、もん。』
「馬鹿な奴だな。平気な振りをするなと、いつも言ってんだろうが。」
『僕は、平気だもん。』


「お前がそういう時は、大体において、平気じゃないんだよ。」
『へいき、だもん。』
青藍は震える声で言う。


「そう思わなきゃ、駄目だったんだろ。一人で平気だと思わなきゃ、一人で、戦えなかったんだよな。寂しくて、怖くて、眠れなかったんだろ。・・・もう、お前は、帰ってきたんだ。だから、寂しいなら寂しいと、怖いなら怖いと、言っていい。」
『もう、いいの?』
「あぁ。聞いてやるから、言ってみろ。」


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