色彩
■ 32.酔っ払い

『・・・んー。父上。』
「なんだ。」
『ありがとう、ございます。』
「何の礼だ。」


『んー?何だっけ?』
青藍は不思議そうに首を傾げる。
『・・・あ、わかった!』
「なんだ?」


『母上が大好き!』
楽しげに言い放った青藍に、白哉は沈黙する。
・・・脈絡がなさすぎるだろう。
何がどうしてその発言に至るのだ・・・。


「ふふー。私も青藍が大好きだぞー。」
咲夜はそう言って側頭部を青藍の側頭部にぶつける。
『あはは。痛いですよー、母上。』
「痛かったかー?」


『父上が撫でたら治ります!』
青藍はそう言って期待の籠った瞳で白哉を見上げる。
仕方がないので側頭部に手を滑らせてやった。
『ふふふ。治りましたー!』


「狡いぞー、青藍!」
再び咲夜が頭をぶつけてきて、白哉の手は鈍い音を立てて彼らの頭に挟まれる。
・・・地味に痛いではないか。
白哉は内心で呟きつつも、楽しげな二人を見つめる。


『んー。父上、もう、羽織になっちゃ駄目ですよー。』
「「ぶはっ!!」」
青藍の言葉に、浮竹と京楽はついに吹き出す。
慌てて口元を手で覆い、どうにか声を抑えているが、体が震えていた。


「二度とならぬ。」
彼等を睨みつけながら、白哉は青藍に応える。
『本当ですかー?』
「本当だ。」


『父上は、羽織じゃ、ないですからねー。』
「あはは!白哉は、羽織だったのかぁ。」
『もう羽織じゃありません!』
・・・どうにかならぬのか、これは。
白哉は半ば諦めつつ、膝に頭を載せ始めた二人を撫で続けるのだった。


「・・・あの二人、酔い方まで似ているんですね。」
「あの朽木隊長が、パパをやっている・・・。」
その様子を見ていた七緒と乱菊は彼らを凝視しながら呟く。


「ははは・・・。白哉兄様は、咲夜姉さまに甘いので。姉さまに似ている青藍にも弱いのです。」
その呟きを聞いたルキアは苦笑しながら言う。


「青藍って酔うとああなるのね・・・。蓮さんが青藍は酔っぱらうと可愛いと言っていたけど・・・。」
「私も初めて見ました・・・。それにしても、相当呑まされたようですね・・・。」
雪乃と深冬はそう言って苦笑する。


「深冬さんは、あれでいいのですか?」
あれ、と未だ白哉にべったりの青藍を目で差しながら、七緒は深冬に問う。
「あれは・・・困りますが、青藍は、白哉様のことが大好きなので。」
「なぁに?ファザコン?」


「・・・まぁ、そうとも言えます。白哉様は、青藍の目標なのです。」
青藍の様子に呆れながら、深冬は静かに言う。
「それ、ずっと言っているわよねぇ。何で?」


「咲夜様を引き受けた白哉様だからです。青藍は、咲夜様が不安定であることを知っています。その咲夜様を受け入れて、その結果、咲夜様はああして笑っています。そうさせたのは、白哉様で、白哉様の支えがあるから、今の咲夜様があるのだと、青藍は言っていました。だから、自分も、他人を支えることが出来るほど、強く、大きくなりたいと。」


「なるほど。それで、いつも朽木隊長を目標にしている訳ですか。」
「はい。白哉様も白哉様で、必死に自分を追いかけて来る青藍が、可愛くて仕方がないのです。だから、あんなことをしても、白哉様は困ったように頭を撫でるだけなのです。」
深冬は可笑しそうに言う。


「ふふふ。白哉兄様、相当困っているな。」
「はい。先ほどから浮竹隊長と京楽隊長が睨まれていますが。」
「あら、本当だわ。・・・笑っているからね。」
雪乃は呆れたように言う。


「確かにあれは面白いわよねぇ。」
「朽木隊長に膝枕をさせるのは咲夜さんと青藍君くらいでしょうね。」
「そうですね。橙晴は絶対にあんなことしないもの。茶羅には、甘えるかもしれないけど。」


「ふふ。雪乃様にも、甘える。」
「「そうなの?」」
「そ、れは、まぁ、いいじゃないですか。」
七緒と乱菊に詰め寄られて、雪乃は目を泳がせる。


「へぇ。そうみたいね。」
「あの橙晴君が甘えるのですか。それは面白そうです。」
「面白がらないでくださると・・・。」
にっこりと微笑まれて、雪乃は懇願するように言う。


「だって、橙晴って隙がないんだもの。青藍ほど愛想を振りまくこともしないし。素直じゃないし。」
「そうなんですよね。青藍君は、無駄に愛想を振りまく上に、基本的に隙だらけなんですけど。」
七緒の言葉に雪乃、深冬、ルキアは笑う。


「青藍は、隙だらけなどではありませんよ、伊勢副隊長。」
「そうなのですか?」
ルキアに言われて七緒は首を傾げる。
「えぇ。朽木家で一番隙がないのは青藍です。無駄に愛想が良いのは否定しませんが。」


「そうなんですよねぇ。青藍、隙があるように見せているだけなのですよ。だから質が悪い。何度騙されたか解らないのですもの。」
「ふふ。そうですね。私はいつも、青藍に騙されている気がします。」
深冬はそう言って笑った。


「あたしもそう思うことはあるけど、青藍、深冬まで騙している訳?」
「本人は騙していないと言い張っていますが。」
深冬は苦笑する。


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