色彩
■ 31.指輪

『・・・なに、それ・・・そんなことを言われたら、僕は・・・そんなの、深冬の方が狡いじゃないか。』
震える体を叱咤して、青藍は何とか立ち上がる。
頬を伝う涙は温かい。


あぁ、もう。
どうして僕は、深冬を前にするとこうも格好悪くなってしまうのだろう。
周りにはたくさんの人が居て、僕らを見ているはずなのに、もう僕は、深冬しか見えない。


朽木家当主が、人前で涙を流していいはずがないのに。
また睦月に減点される・・・。
何処か冷静にそう思う青藍だったが、涙は止まらない。
せめて見えないように、と同じく涙を流す深冬を抱き寄せて、彼女の首筋に額を寄せる。
抱き寄せた深冬の体もまた、震えていた。


『ごめん。ごめんね、深冬。ごめん・・・。』
「な、何を、謝っているのだ。」
『全部。』
「謝っても許してあげないぞ。」


『それでも、ごめん。』
「許さない。・・・罰として、私に縛られろ。」
呟かれた言葉に、青藍は小さく笑う。


『そんな幸せな罰ならば、いくらでも受けるよ。』
「馬鹿な奴だ。」
『あはは。うん。・・・ねぇ、深冬。指輪を、交換しようか。』
「うん。」


深冬の返事を聞いた青藍は、涙を拭ってから腕を緩める。
未だ涙を溢れさせる深冬に少し笑って、自分が用意した指輪の小さな方を手に取った。
深冬の左手を掬い取り、その薬指に指輪を通す。
指輪はピタリと嵌まって、まるでずっとそこにあったかのように光り輝いた。


次に深冬がもう一つの指輪を手に取って、青藍の左手の薬指に嵌める。
次は、青藍が銀の凰を深冬に。
その次は、深冬が金の鳳を彼に。
まるで何かの儀式のようなやり取りに、皆が目を奪われる。


『・・・ぴったり、だね。』
「あぁ。ぴったり、だ。」
青藍と深冬の左手の薬指には、指輪が二つずつ。
螺旋の指輪と鳳凰の指輪が隙間なく重なっているのを見て、二人は十五夜と安曇に内心で礼を述べる。
そのように指輪を調整できるのは、彼等しか居ないのだ。


『粋な計らい、ってやつかな?』
「ふふ。そうだな。後で、指輪をしている姿を、見せなければ。」
『うん。・・・綺麗だ。凄く凄く、綺麗。ありがとう、深冬。』
「私の方こそ、ありがとう、青藍。」


『これからもよろしくね。あ、でも、子どもが出来ても、一番は僕じゃないと嫌だよ?』
「・・・我が儘。」
『だって、深冬は僕の一番だもの。それなら僕だって、深冬の一番じゃないと駄目。』
「相変わらず、呆れた奴だ。」
涙を浮かべながら額を寄せ合って、二人はくすくすと笑う。


そんな二人に、大人たちは安堵のため息を、青藍の友人や橙晴たちは呆れたようなため息を吐いた。
それでも、そんな二人の微笑みにこの三年の苦労が報われた気がして、皆が清々しい気分になる。


晴れやかな笑みがあちらこちらから広がって、二人を祝福した。
祝福の言葉を掛けられた二人は、そう言えば人前だった、と顔を赤らめる。
しかし、幸せが恥ずかしさを上回って、結局笑みを零すのだった。


それから数刻ほど後。
夜も更けているのだが朽木邸は未だ騒がしい。
そして、白哉は大変困っていた。
『父上だー!』
「あはは!白哉だー!」
理由は目の前に居る酔っ払い二人組にある。


「・・・そう引っ付くな。」
あちらこちらで呑まされたようで、酔いが回ったらしい。
白哉の所に来た時は既に酔っている様子で、楽しげに白哉の前に座り、二人で白哉に引っ付いて離れないのである。


・・・咲夜も青藍もそれほど酒に弱くはないはず。
咲夜は良いとしても、青藍は一体どうしたものか。
泣いたり酔ったり忙しない奴だ・・・。
座る白哉の羽織をしっかりと掴んで離れない青藍を見て、白哉はため息を吐く。
その溜め息が聞こえたのか、青藍は不思議そうに白哉を見た。


『父上?』
「いい加減離れろ、青藍。」
『母上も?』
「・・・咲夜は良い。」
『どうしてですかぁ?僕は、だめ?』
潤んだ瞳で小首を傾げられて、白哉は言葉に詰まる。
この状況に気付いているくせに楽しげに見ている浮竹と京楽が憎い。


『父上、僕のこと、嫌い?』
「嫌いではない。」
子どもの様に問われて、白哉は言いながら思わず青藍の頭を撫でる。
それを見て笑った浮竹と京楽を白哉は睨みつけた。


『ふは。父上の手だ。大好きー。』
青藍は嬉しげに撫でられた。
「白哉!私も!」
それを見た咲夜は嬉々として白哉に擦り寄る。
仕方がないので白哉は咲夜の頭も撫で始めた。


「ふふふ。私も大好きー。」
あぁ、これで両手が塞がってしまった・・・。
白哉は内心で呟く。


[ prev / next ]
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -