色彩
■ 30.言えなかったこと


・・・私は、やっぱり、青藍の瞳が大好きだ。
深冬は改めて思う。


此方を真っ直ぐに見つめる真剣な瞳は、想いが通じ合ったあの日を思い出させた。
青藍は本当にここに帰ってきたのだ、と実感すると同時に、深冬はおかしくなる。
一体これまで、何度、同じような問いをされただろう。
何度、同じ答えを返しただろう。


「・・・当たり前だ。その覚悟があるからこそ、この三年を乗り越えたのだ。」
深冬は真っ直ぐに青藍の瞳を見つめて、はっきりと言い放った。
そんな深冬に、青藍は安心したように笑みを零す。


『良かった。・・・それでは、もう一つ。』
「何だ?」
何でも来い、とでもいうような深冬の瞳に、苦笑してから、青藍は彼女の前に出て片膝をつく。


「青藍?」
目を丸くした深冬に笑って、懐から箱を取り出した。
青藍が蓋を開けると、出て来たのは二つの指輪。
金と銀が螺旋状に絡み合っただけの、シンプルなものだ。
その輝きに、深冬の目が引きつけられる。


『形のある物は残ってしまうから、君を縛るようでこれまで渡せなかったのだけれど・・・。』
「せい、らん・・・?」


『何処に居ても、何をしていても、君を想う気持ちは変わらなかった。君が居ない未来なんて、考えられなかった。でも、僕が一番君を傷付けるだろう。これまでも、これからも。だから、覚悟が出来なくて、ずっと、言えなかったことがある。』
「言えなかった、こと・・・?」


『・・・僕は、朽木家当主として、そして何より、朽木青藍というただの男として、君を愛すると誓います。その証として、君にこの指輪を贈ります。だから・・・だから、僕の子どもを産んでください。君だけじゃなく、その子どもにも、大変な思いをさせるだろう。でも、それでも、僕は、君との未来が欲しい。・・・受け取って、くれますか?』


指輪を差し出す青藍の手は、小さく震えている。
一体、この言葉を口にするために、どれ程の勇気が必要だっただろうか。
どれ程の覚悟が、必要だったのだろうか。
今までに何度、この言葉を呑み込んできたのだろうか。
それを考えるだけで、深冬は泣きそうになる。


緊張で震える手が、愛おしい。
此方を見上げる真っ直ぐな瞳が、愛おしい。
次から次へと溢れる彼への愛情は、尽きることがない。
この指輪を受け取らない理由など、何一つない。
青藍の望みは、私の望みだ。


私だって、青藍との未来が欲しい。
名前を呼んでも返事がないなんて、嫌だ。
何処にも青藍の気配がないなんて、もう嫌だ。
その顔を見たいし、声を聞きたいし、触れ合って居たい。
何時でも手の届く場所に居て欲しい。


「・・・そんなの、当たり前、だ。ばか。」
絞り出すような声は小さく震えている。
指輪なんかなくたって、私はもう、青藍に縛られているのに。
これほど私の心を縛り付けているくせに、何故その自覚がないのだ。
本当に馬鹿で、狡い奴だ。


「ば、馬鹿青藍。縛り付けたいのは、私の方だ、馬鹿!」
深冬は言いながら懐から箱を取り出して、青藍に投げつける。
その衝撃で、ぽろり、と涙がその瞳から零れ落ちた。
至近距離で投げつけられたにも関わらず、青藍はそれを片手で受け止めて、不思議そうに見つめる。


『え、何、これ・・・?』
投げつけられた箱は、青藍が持っている箱と同じような箱で。
箱の中から発せられる気配が、己の差し出したそれとよく似ていて、青藍は目を丸くする。


「・・・青藍と、同じだ、馬鹿!」
『お、なじ・・・?』
「開けろ、馬鹿!」
『え、あ、はい。開けます。』
泣きながら言われて、青藍はそっと深冬の投げた箱の蓋を開ける。


出て来たのは、二つの指輪だった。
金色の鳳。
銀色の凰。
その二羽は、何かを守るように体を丸めている。


酷く穏やかな表情。
その瞳に嵌めこまれているのは、青い宝石。
優しく、それでいて気高く。
慈愛に満ちたその姿は、ただただ美しい。
青藍はそんな指輪に思わず見惚れる。


『これ、は、一体・・・。』
「青藍が、もう何処にも行かないように作ったのに!何故青藍が先に渡すのだ!それも、こんなに大勢の前で・・・狡い・・・。狡いぞ、青藍・・・。」
涙が次から次へとその紅い瞳から零れ落ちた。


『これを、君が、作ったの・・・?僕のために・・・?』
目を丸くした青藍は、そう言って深冬を見上げる。
「そうだ。青藍が拾った石が、変彩金緑石で、守りの石だと、聞いて。父様に、教わりながら、私が、全部・・・。」
涙を零しながら何とか言葉にする深冬に、青藍の胸が震える。


・・・僕は、どうして、深冬と三年以上も離れていたのだろう。
どうして、三年も離れていられたのだろう。
どうして、彼女は、これほどまでに僕を想ってくれるのだろう。


また、彼女を好きになってしまう。
また、彼女に恋に落ちてしまう。
これでは、二度と、彼女を手放せなくなってしまう。
湧き上がる愛情と共に涙が込み上げて、青藍の瞳から零れ落ちる。


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