色彩
■ 26.謝罪

『・・・相変わらずだなぁ。』
青藍が十五夜たちを見送っていると、ナユラが彼の元に歩み寄る。


「青藍殿。」
『何ですか、ナユラ殿。』
「・・・申し訳ない。手間を掛けさせた。この三年、よく、生き延びた・・・。本当にすまない、青藍殿。四十六室を変えると言っておきながら、この様とは・・・。」
泣きそうに言ったナユラに、青藍は笑みを向ける。


『いえ。ナユラ殿こそ、遠征隊帰還の命令とは、流石です。その上、斎之宮家の方を動かすとは。お蔭で、私だけでなく相模迅ら五名も、再び瀞霊廷に戻ってくることが出来ました。私の生存を信じてくださったこと、感謝いたします。』


「そう言って貰えると、少し楽になる。・・・相模迅。」
ナユラは迅を見つめた。
「私は阿万門ナユラ。四十六室の賢者が一人だ。・・・我が父は、皇理桜の殺害に加担した。貴方の主を、奪ったのだ。謝って済むものではないが、私から、謝罪を申し上げる。大変、申し訳なかった。」


頭を下げたナユラに、迅たちは目を丸くする。
そして、この方は本当に自分たちを帰すために尽力をしてくれたのだ、と、直感で理解した。
「・・・あ、たまを、あげて、ください。」
掠れた声が、情けない。
迅はそう思いながら、顔を上げたナユラを見る。
自分よりは年下であろう、若い女。


「この度の、我らの帰還命令は、貴方が?」
「あぁ。もっとも、穂高殿が賛成してくれなければ、それは叶わなかったが。」
「はは。俺は、ナユラ殿が真実を話してくれたからこそ、賛成したんだ。慣れない俺に何かと気を回してくれていることも知っている。」
「そうか。」
苦笑したナユラに少し笑ってから、穂高は迅たちを見る。


「俺からも君たちに謝罪を申し上げる。済まなかった。」
穂高は頭を下げることはしなかったが、その真摯な瞳を見れば、それが心からの言葉だと解る。
迅はそれを感じ取って、彼に軽く頭を下げた。


「・・・一つ、質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
顔を上げた迅は、そう言ってナユラと穂高を見る。
「構わない。」
「ラン・・・朽木家当主を、私の元に送り込んだのは、何故です?」


「四十六室に立ち向かった貴方ならば、青藍殿の力になってくれるのではないかと、思ったのだ。」
「え・・・?それだけの理由ですか・・・?」
「そうだ。賭けだったが。」


「・・・そう、ですか。」
迅は力なく頷く。
「すまない。貴方方を、青藍殿を助けるために利用した。」
ナユラは申し訳なさそうに言う。


「いえ。お蔭で、私たちは、またここに戻ってくることが出来ました。お礼を申し上げます、阿万門様。斎之宮様。」
「「「「感謝いたします。」」」」
そう言って頭を下げた迅に続いて、陵たちも頭を下げる。


「頭を上げてくれ。利用した詫びと言ってはなんだが、鳳歌殿の身柄を我が阿万門家でお預かりしている。」
「鳳歌様・・・?あの方も、ご無事で・・・?」
目を見開いた迅に、ナユラは力強く頷く。


「橙晴殿が四十六室に関わる女性陣を味方につけたのだ。奥方や姫君が協力を申し出てくださった家もある。」
「え・・・?」
「彼女たちの協力を得るために、橙晴殿は、単身で四十六室の邸を訪ねたこともあってな・・・。」
ナユラの言葉に青藍は橙晴を見るが、彼は涼しい顔をしている。


まったく、無茶をする・・・。
そんな橙晴に内心で苦笑して、青藍はナユラと迅の会話に耳を傾ける。
無茶を咎めたところで、兄様よりはましです、と言われることは明白だ。
余計なことを言えば、十倍返しになって自分に返って来る。
無茶をして、心配をかけたのだから。


「もちろん、皇家にも足を運んでいる。その時、ある女中に文を渡されたそうだ。文というよりは、紙切れと言った方が正しいが。これが、その紙だ。」
ナユラが差し出した紙を受け取って、迅は目を丸くする。


閉ざされた桜の楼。
天より降りて来たれ。
鳥籠破りて羽ばたく。


見覚えのある、線の細い字。
紙に何かを押し付けて出来た様な凹凸に気付いて見つめれば、これまた見覚えのある模様が見えてくる。
それはおそらく、指輪の模様。
理桜様と、あの方が愛した妻、鳳歌様しか持ちえない、お二人の、結婚指輪。


これは、間違いなく、鳳歌様からの文だ。
鳳歌様は、あの高楼に囚われていたのだ。
理桜様が鳳歌様のために造らせた、鳳翼の塔に。
その塔の最上階からは流魂街まで見渡すことが出来て、お二人はそこで時間を過ごすことが多かった。


「それを受け取った橙晴殿は、その翌日には茶羅殿と共に鳳歌殿を連れ出してきたのだ。一つ間違えば、首が飛んでいてもおかしくはない。並大抵の者では、成し得ぬことだ。橙晴殿はそれを即断即決で成し遂げた。共に行った茶羅殿にも感服するが。」
その言葉を聞いて、迅は橙晴を見る。


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