色彩
■ 24.新しき風

「・・・今、四十六室で最も位が高いのは、俺だよ。俺はこれまで傍観してきたが、果たして今後はどうなるかな。君たちが己の身を改めないのならば、俺は、君たちがそうしてきたように、権力で捻じ伏せるが?」
「そ、れは、脅し、にございますか・・・?斎之宮殿まで、朽木家の味方をするということですか?」


「それは違う。俺は、正しい道を選びたいだけだ。そして、君たちにも正しい道を選択して欲しい。俺はまだ解らないことが多いけれど、斎之宮家当主、そして、四十六室の賢者、という立場を引き受けたからには、解らないままでいることはしない。俺には、その責任があるからね。」
そう言い放った穂高を、響鬼は真っ直ぐに見つめる。


また、新しい風が生まれた・・・。
その爽やかな風が四十六室の黒い靄を吹き飛ばしていく様が、響鬼の目に映る。
それと同時に移るのは、十五夜と彼に寄り添う妻の姿で。
彼らの間には、新たな命が宿っている。
・・・何時の時代も、未来を作るのは、我々ではないのですね。
霊妃に向けて呟けば、愉快そうに笑う声が聞こえてくる。


(「我らの役目は、見守ること。世界の未来を切り拓くのは、そこに生きる者たちよ。だからこそ、妾も霊王も、彼の者たちが愛しいのじゃ。いつまでも見守っていたいと思うほどにの。」)
霊妃の言葉に、本当にその通りだと響鬼は内心で頷く。


「時代に変化は付き物だ。四十六室は、今がその時なのだろう。ならば、変わろうじゃないか。すでに腐っているから放って置いても腐り落ちる、などと言われるのは、悔しい。なぁ、ナユラ殿?」
朗らかに言われて面食らったナユラだが、一瞬の後微かな笑みを零して、頷きを返した。


「あぁ。言われっぱなしも、その通りに無力な自分も、酷く悔しい。本当は、私が代わりに遠征に行きたいくらいだった。家の者に止められて叶わなかったが。」
「はは。貴女は剛毅な人だなぁ。俺だったら逃げ出すね。痛いのも苦しいのも死ぬのも嫌だもの。」


「では、その責任を捨てて逃げるか?」
「まさか。こんなに面白そうなことから逃げたりはしないよ。朽木家にも興味があるしね。」
言って穂高は青藍を見る。
悪戯に笑うその表情は、四十六室の者とは思えない、青藍にとって馴染み深い温かさを含んでいる。


『・・・ふふ。興味を持たれてしまいましたか。どうします、父上?また母上が気に入りそうな御仁が現れましたよ?』
楽しげな青藍に、白哉はため息を吐く。
「次から次へと忙しないことだ・・・。」


「何!?私はそんなに信用がないのか、白哉!?」
未だに自覚のない咲夜の様子に、白哉は再びため息を吐いた。
「ある訳ないじゃないですか。斎之宮様と仲良しにでもなられたら、母上のお散歩コースに四十六室の地下議事堂が組み込まれてしまうんですから。」


「あはは。それは大変だねぇ、浮竹?」
「・・・京楽、八番隊で漣を引き受けないか?」
橙晴の言葉を想像したらしい浮竹が、遠い目をしながら京楽に問う。
「遠慮しておくよ。僕じゃ咲ちゃんみたいなじゃじゃ馬の手綱は握れないもの。」
「じゃじゃ馬とは失礼だぞ、京楽!!」


「えー?じゃあ、暴れ馬?」
「もっと違う!!」
抗議をする咲夜とそれを面白がる京楽の間で下らないやり取りが始まって、まぁいいか、と浮竹は苦笑を漏らす。


「・・・斎之宮穂高様。」
笑みを見せる咲夜たちを見つめて、響鬼は彼の隣に立った。
「なんでしょうか?」
「ありがとう、と先にお礼を申し上げておきます。」
「え?」
唐突な言葉に、穂高は首を傾げる。


「その内、解る日が来るでしょう。・・・十五夜様の件は、追ってこちらから契約書をお送りさせて頂きます。その契約書に署名した者の家から、十五夜様の妻となる姫を選ばせて頂くことになりますので、その旨、皆様に良くお伝えください。そこに貴方の署名があることを、期待しておきます。」


「それは、一体、どういう意味ですか・・・?」
「未来は視えないからこそ、面白いのですよ、穂高様。」
首を傾げた穂高にそう言い残して、響鬼は十五夜の傍に戻る。
彼の袖を掴んだかと思えば、彼の袖の中に手を入れた。


「え、何、響鬼?おやつ?おやつが欲しいの?」
「今この状況で何故おやつを強請らなければならないんです?本当に馬鹿なんですから。」
「いつもの如く、辛口だよねぇ・・・。」


「・・・あ、ありました。これです。」
落ち込む十五夜を無視した響鬼は、目的のものを見つけたらしい。
「無視は良くないと思うなぁ、響鬼。」
その言葉もまた無視をして、響鬼は中身を確認する。


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