■ 21.最後の試練
「おめでとうございます、青藍様。これが、我らが与える最後の試練でした。この先、霊王宮が貴方に試練を与えることはございません。どんな苦境にあろうとも、貴方は道標を見失わず、歩みを止めなかった。白哉様の背中を追うことを、忘れなかった。だからこそ、青藍様は、朽木家当主として今この場に居るのです。」
『そんなの、当たり前だよ・・・。父上が僕を助けに来てくれたあの日から、ずっと、僕の目標は父上だもん。どんなに疲れていても、心が痛くても、闇の中に沈んでしまいそうになっても、父上の背中を思い出すと、追いかけなきゃって。僕は朽木家当主だ、って。』
「辛い思いを、させてしまいましたね。」
慈しむように頬を撫でられて、青藍は泣きそうになる。
『辛く、なんか・・・。』
「青藍様。もう強がる必要はないのですよ。涙を流してもいいんです。」
『だ、だからって、ここで泣けるわけないでしょ・・・。ぼ、僕は、朽木家、当主なんだから。こんなところで泣いたら、父上に怒られる!』
青藍の言葉に、響鬼はくすくすと笑った。
「そういうことならば、無理にとは言いません。・・・それから、もう一つお話ししておきましょう。」
『まだ何かあるの・・・。』
「青藍様と深冬様のことです。先ほど、青藍様は深冬様を迷いなく見つけ出した。それは、青藍様一人の愛では成し得ませんでした。青藍様が深冬様を想うように、深冬様が青藍様を想っていなければ、本物を見分けることは出来ないようになっていたのです。」
その言葉を聞いた青藍と深冬は、互いの顔を見る。
「白哉様がおっしゃっていたでしょう?各々試された、と。深冬様への試練は、二つありました。一つは、強い怒りを抑える術を身に着けること。もう一つは・・・青藍様への変わらぬ愛情。青藍様が変わらなかったように、深冬様も変わりませんでした。空を見上げて涙が込み上げても、心無い言葉を投げかけられても。」
『・・・何それ。深冬ったら、僕のこと、好きすぎ。』
「青藍には言われたくない。」
『でも、君ならば、待っていてくれると信じていたよ。』
「私だって、帰って来ると信じていた。」
『それなら仕方ないか。』
「そうだな。」
二人はそんなことを言って、くすくすと笑う。
重ねられた掌が、羨ましい。
響鬼はそんなことを思って、内心苦笑する。
ただの「右腕」が愛を羨むなんて、可笑しな話だ。
この二人、いや、彼等と彼らの周りに居る者たちにそんなことを言えば、それが普通だ、と口を揃えるだろうけれど。
「・・・うわー!!!駄目!斬魄刀は駄目だよ、君たち!!」
情けない叫び声が聞こえてきて、響鬼は面倒そうにそちらに目を向ける。
釣られて青藍と深冬もそちらを見れば、彼の視線の先には今にも首を飛ばされそうな十五夜の姿。
「問答無用。」
「大丈夫ですよ、大叔父様。すぐに終わります。」
「そうそう。僕ら、こう見えて腕には自信があるからね。」
「痛みを感じる時間すらないので、安心してください。」
彼に刃を突きつける白哉、咲夜、京楽、浮竹の目は本気だ。
「だ、駄目だってば!こら!不敬の罪に問うよ!?僕はこう見えて霊王宮筆頭家臣なんだよ!?ねぇ、聞いてる!?」
「・・・・・・止めた方がいいですか、青藍様?」
『早く止めてあげた方がいいと思うよ・・・。僕、血は見たくないなぁ・・・。』
「そうですか。では、仕方ありませんね。・・・皆様。落ち着いてください。こんな公の場で十五夜様を殺められては、皆様を助ける術がありません。」
響鬼に言われて、四人は動きを止める。
「ちょっと、響鬼!?僕の命の心配が先じゃない!?」
「殺されても死なない糞爺の心配など不要でしょう。」
「ひ、酷い!響鬼の人でなし!!死ななくても痛いんだからね!?」
「へぇ。そうですか。」
「それだけ!?ねぇ、それだけなの!?僕が痛い思いをしてもいいの!?」
興味なさげに頷いた響鬼に十五夜が騒ぎ立てるが、響鬼は気にせずに白哉たちを見る。
「どうか、刀をお引きください。青藍様がせっかく帰還なされたというのに、貴方方が牢に入ってしまっては、顔を合わせることも侭なりませんよ。」
「だが、響鬼。この人は・・・!」
「お気持ちは解りますが、落ち着いてください、咲夜様。十五夜様は十五夜様で、それなりの代償をお支払いしています。」
「代償・・・?」
首を傾げた咲夜に、響鬼は頷きを返す。
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