色彩
■ 20.愛の証明

『・・・駄目だよ、響鬼。』
ぽつりと声を漏らしたのは青藍で、彼は真っ直ぐに響鬼を見つめている。
「駄目、とは?」


『・・・簡単すぎる。』
呟かれた言葉は、さらに耳を疑うもので、穂高は唖然とするしかなかった。


「簡単、ですか?」
『うん。・・・響鬼の姿をした君が、本物の深冬だ。』
青藍は迷いなくその手を取って微笑む。
その手の甲に青藍が口付けを落とした瞬間、響鬼の術が一斉に解けた。


煙が上がって咳き込んでいると、穂高は自分の手が元に戻っていることに気付く。
辺りを見回すと、周りの者たちも元の姿に戻っているらしかった。
そして、煙が晴れて見えてきたのは、互いに微笑みを見せている青藍と深冬。
一瞬で、見抜いてしまった・・・。
唖然としていると、青藍が楽しげに笑う。


『響鬼も出ておいで。この辺に居るでしょう?』
青藍が空いた手を伸ばして空中を撫でると、響鬼の姿が現れる。
「・・・流石、青藍様です。」


『僕が響鬼を解らないはずがないよ。あとね、響鬼。父上と十五夜様も戻してあげて。父上、十五夜様の姿のままで、凄く不満げだよ。』
楽しげに見抜かれて、響鬼は目を丸くする。
一瞬の後、笑みを零すと、入れ替わっている二人の姿を元に戻した。
煙と共に姿を現した白哉の表情が、何故私は十五夜なのだ、と不満を語っている。


「すべて見抜かれるとは流石です。普通の方ならば、十五夜様と白哉様が入れ替わっているいることに気付けないというのに・・・。」
『十五夜様は糞爺だからね。一筋縄でいかないことぐらい、僕だって解るよ。』
「十五夜様のお考えであることもお見通しですか。・・・お月見様、糞爺が見抜かれていますよ。」


「二人して酷いよね。僕は霊王様の言いつけを守っただけなのに。愛し子に試練を与えろ、なんて言うんだよ?そんな嫌な役目、やりたくなかったさ・・・。」
十五夜は拗ねたように唇を尖らせる。
「あの方は世界一の糞爺ですからね。」
ちらと十五夜を見て、響鬼はあっさりと言い放った。
その言葉に、青藍は苦笑するしかない。


「だがこれで、青藍を霊王宮に連れて行く、なんて事態にならなくて済みそうだ。」
『え・・・?』
十五夜の言葉に、青藍は動きを止める。
一瞬の後、青藍の背後に居る数名が、剣呑な雰囲気を醸し出した。


「・・・十五夜。正気とは思えぬ発言が聞こえたのだが。」
「大叔父様。冗談にしては質が悪すぎますよ・・・?」
「あぁ、よかった。信じがたい言葉が聞こえたのは、僕だけじゃなかったみたいだ。」
「俺も空耳かと思ったが、どうやら違うらしいな・・・。」
白哉、咲夜、京楽、浮竹。
絶対零度の冷たい瞳をした四人に、十五夜は顔を引き攣らせる。


「いや、あの、僕の提案じゃ、ないからね・・・?ていうか、むしろ、僕、霊王様を説得したんだからね・・・?試練に合格したら青藍はこちらに残れる、という約束を、必死に、取り付けて・・・。」
後ろに下がりそうになる足を必死に抑えて、十五夜は言う。
「・・・この状況で口を滑らせるとは、流石十五夜様です。」
響鬼は呆れ顔で、彼を助ける気はないらしい。


「まぁでも、ご本人への説明は必要ですね。・・・青藍様。」
『え、あ、はい・・・?』
唖然としていた青藍は、声を掛けられて響鬼に顔を向ける。
「青藍様に隠していたことが、もう一つございます。」
『うん・・・?』


「霊王様は、青藍様を霊王宮に召し上げようとお考えでした。これ以上、青藍様が苦しむことの無いように、と。霊王宮に行かれる方が、青藍様にとって幸福だろう、と。ただ・・・。」
響鬼は言葉を切って深冬を見つめる。
その視線を追った青藍は、何かに気付いたように目を見開いて、恐る恐る口を開く。


『深冬は、一緒には行けないの・・・?』
「えぇ。霊王様は、王宮に迎えるのは青藍様だけだ、と。それに、もし一緒に行くことが出来たとしても、深冬様のお体は、護廷隊でも強い部類ではない。加えて、日の光に酷く弱い。あちらに連れて行けば、お命が極端に短くなる。」
言いながら、響鬼は目を伏せる。
まるで、そうなった時の様子が見えているように、悲しげな瞳だ。


「ですが、それは残酷すぎます。深冬様が一緒に行くにしろ、行かないにしろ、別れが目に見えているのですから。しかし、霊王様は、長く生きているせいか、そのあたりの感情の機微に疎くなっておられて・・・。」
『だから、十五夜様が、それを何とか止めてくださった・・・?』


「青藍様への試練が条件でしたが。青藍様が試練に不合格だった場合、青藍様は霊王宮に一人で向かわなければならなかった。そして、八割方そうなるであろうという先見もありました。・・・ですが、青藍様は残りの二割を勝ち取りました。」
響鬼は微笑む。
その微笑は、酷く柔らかい。


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