色彩
■ 19.愛の試し

「青藍。そんなに情けない顔しないの。あんまり情けないと、深冬に愛想尽かされるわよ。」
『それは嫌です!』


「じゃあ、たくさん食べて栄養補給しちゃいなさい。それで、たくさん笑いなさい。あんたが笑うだけで幸せになる人がたくさん居るんだから。本心を見せないでふらっとどこかに行くような男になっちゃ駄目よ。」
『・・・。』
乱菊の言葉に銀色の男の後ろ姿が見えた気がして、青藍は少し寂しくなる。


「だから、そんな顔するなって言ってんでしょ!」
寂しげな表情をした青藍の頬を、乱菊は再び抓る。
『い、いひゃい!』
「嫌なら頷きなさい!」
こくこくと頷いた青藍を見て、乱菊は手を離す。


「よし。それじゃ、そのおにぎりをさっさと食べなさい!腹が減っては戦は出来ぬ、よ!」
『う・・・もうお腹いっぱい・・・。』
「何ですって?」
『いや、あの、はい。食べます・・・。』


「・・・彼女たちが嘘をついているように見えますか?」
卯ノ花に問われた穂高は、乱菊、七緒、そして青藍の三人を見て、首を横に振る。
「いや。朽木青藍が自分の周りに居る人たちが苦しむのを嫌がる理由が解った気がするよ。だが、質問は続けさせてもらう。」


「構いません。」
「残りは、朽木深冬だね。」
「青藍が彼女に触れられる理由について、考えられるのは二つです。一つは、出会った時、彼女が幼い少女であったこと。もう一つは・・・。」


「・・・青藍が、彼女に恋をしたこと。つまり、愛、だな。」
「あら。睦月がそんな非科学的なことを言っていいのですか?」
問いながらも、卯ノ花はくすくすと笑う。


「俺には、他に思いつきません。科学者の端くれとしては、愛、なんて言葉で片付けたくはない。でも、青藍を見ていると、そんな答えが出てくるんです。青藍だけじゃない。朽木家の皆さんの愛は、奇跡を起こす。俺は、それをずっと、間近で見て来たんですよ。」
これまでのことを振り返ったのか、睦月は苦笑する。


「まぁ、大変でしたけどね。何度も心臓が止まるかと思いました。朽木家の皆さんのせいで、俺の寿命は確実に短くなっています。」
「えぇ。特に青藍は私たちの寿命を短くしてくれます。困った子です。・・・青藍。一週間以内に、時間を作って私の所に来てくださいね。心身の検査をさせてもらいます。体重が減り過ぎているようならば、入院させて私が直々に食事を摂らせますので。」
卯ノ花に視線を向けられて、青藍の表情はさらに情けなくなった。


「・・・愛、ね。それも愛の鞭ってところかな。」
「斎之宮様の言う通りにございます。我らが当主は己の身を顧みない。まぁ、先代もその傾向がありましたが。」
睦月に視線を向けられた白哉は、素知らぬ顔で視線を逸らす。
それにため息を吐いてから、睦月は穂高に向き直った。


「それで?愛しているから触れられる、ということだとして、君たちはそれをどう証明する?証明する方法があるからこそ、君たちはそんな話をしているのだろう?」
「話が早くて助かります。・・・当然、我らはその用意がございます。」


「一体どうやって・・・。」
穂高が言いかけたとき、誰かが指を鳴らす音が聞こえる。
それと同時にその場に居る青藍と響鬼、十五夜以外の全てが深冬の姿になって、穂高は思わず自分の手を見る。
少女のような手がそこにあって、唖然とした。


「その証明は青藍様が致します。」
そう言って、指を鳴らした張本人、響鬼が穂高の前に出る。
声を出そうにも、声が出ない。
動くことが出来ない。
深冬の姿になっている全員が、その状態らしい。


穂高には、すでに深冬がどれだか解らなくなっている。
先ほどまで青藍に寄り添っていた少女は、いつの間にか居なくなっているのだ。
ちらりと青藍をみると、おにぎりを食べ終えたらしい彼も驚いた様子であたりを見回している。


「青藍様には、この中から本物の深冬様を見つけ出して頂きます。」
響鬼の言葉に穂高は耳を疑う。
今この場に居る者たちは軽く二千を超える。
その中から、本物を見つけ出すなど、出来るのだろうか。
もし、それが出来るのならば。
それは確かに、愛、という他にない。


[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -