色彩
■ 18.触れ合えなかった日々


「・・・ほんとだ。全然気づかなかったけど、青藍と雪乃が白打で向き合っている姿って見たことない。」
「そういえば、白打の時だけ呼ばれたな、俺ら。」
唖然としながら呟きを漏らしたのはキリトと侑李だ。


「青藍って、本当に馬鹿。そういうことは早く言いなよ。そこまで重症なら、青藍の女性が苦手なんだ、って言葉を僕らだってもう少し真面目に信じたのに。」
そう言って盛大に溜め息を吐いた京に、青藍は苦笑する。
『ごめん。でも、院生時代は、まだ、何も、話せなかった。その上、鬼狼先生が現れて・・・。』


「鬼狼先生?」
「あの、三日ぐらいで居なくなった?」
「咲夜さんや朽木隊長や浮竹隊長、京楽隊長が総動員だった件だっけ。」


『・・・うん。まぁ、それは後で話すよ。あまり、聞きたい話でもないと思うけど。雪乃は、子どもが生まれてからね。妊娠中のストレスは子どもに良くないから。もちろん、君自身にも良くないし。』
「・・・解ったわ。それほどのことだということね。覚悟はしておくわよ。」
『うん。』


「彼らの様子を見ると、嘘は吐いていないらしい。これで、朽木雪乃には触れられない、ということは解った。では、卯ノ花烈、貴女は?朽木青藍は何故貴女に触れることが出来る?」
穂高に問われて、卯ノ花は笑みを浮かべる。


「私は青藍の主治医を自負しております。それこそ、彼が生まれる前からずっとそばに居るのです。青藍は、私を第二の母と慕ってくれていますから、私も、彼の言う「家族」に数えられているのでしょう。」
卯ノ花の言葉に、食べかけのおにぎりを片手にした青藍は大きく頷く。
しかし、次の一口を深冬に押し込まれて、再びおにぎりの咀嚼を始めた。


「一応断っておきますが、青藍は自分から触れることが出来ないだけで、相手が青藍に触れることは問題ありません。そこに色恋の情が混ざっていない場合、という条件付きですが。そして、隊長、副隊長クラスの女性死神に限れば、自分から手を伸ばすことが出来るようになっています。」
卯ノ花に視線を送られた乱菊、七緒が頷きを返す。


「卯ノ花隊長のおっしゃる通りよ。青藍、昔はあたしたちが近づくのさえ嫌がったんだから。・・・でも、見て。今は平気なの。」
青藍に近付いた乱菊は、するりと青藍の両頬を包み込む。
それからきゅ、と青藍の頬を抓んで、そのまま引っ張った。


『らんぎくひゃん。いひゃいれす。』
「そ。痛みを感じられるなら、問題ないわね。心配かけた分、後で良いお酒奢ってもらうわよ!」
『ひゃい。』


「よし!それじゃ、これで許してあげるわ。」
悪戯に笑って、乱菊は青藍の頬から手を離す。
『痛いなぁ、もう・・・。』
痛そうに頬を撫でる青藍に、七緒も手を伸ばす。


『え、七緒さんまで、ほっぺた抓る気ですか!?』
警戒する青藍だったが、七緒の手が触れたのは、彼の髪で。
「本当に髪が長いのね・・・。」
『七緒さん・・・?』
感慨深げに呟かれた言葉に、青藍は首を傾げる。


「凄く心配しました。突然いなくなるのは、もう止めてください。青藍君は、もっと年長者に頼るべきだわ。」
『はい。ごめんなさい、七緒さん。』
「無事に帰ってきたことを鑑みて、今回は許します。次があれば覚悟してくださいね。」
黒い笑みで言われて、青藍は固まる。


『も、もうしません!』
「当然です。」
七緒はそう言うと青藍の頭を一撫でして手を離した。


「・・・しかし、あの日々を思うと、こんな風に触れられるのは、奇跡ですよね。」
「そうね。昨日まで抱き着いて来てくれた子が、自分の姿を見ただけで怯えるなんて、涙が出るわよね・・・。」
遠い目をした二人に、青藍は申し訳なさそうな顔をする。
未だ食べきれていないおにぎりを片手にしているため、緊張感が感じられないのだが。


「暫く顔を見ることが出来ない日々が続いて、もう二度と笑顔を見ることはないのかもしれないと、寂しくなりました。」
「半年くらい経って、青藍が自分から近付いてきたときは、本当に涙が出たわ。」


「松本さんが泣くせいで、青藍君まで泣き始めて大変だったんですから。咲夜さんと朽木隊長が飛んできたお蔭でその場の収拾がつきましたが・・・。」
七緒の言葉に咲夜と白哉はチラリと視線を交わして目だけで笑いあう。


「だって嬉しかったんだもの。七緒だって、こっそり泣いてたの、知ってるわよ。」
「う、五月蝿いですね。・・・嬉しかったんですから、いいんですよ。」
恥ずかしげに眼鏡を押し上げる七緒に皆が笑みを零した。
二人の会話を聞いていた青藍の表情は、さらに情けなくなっている。


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