色彩
■ 17.最大の弱点

「まぁ、それはそれとして。・・・本題に入りましょう。」
「そうだった。・・・それで、朽木青藍が彼女以外の妻を娶ることが出来ない理由だったね。」
彼女、の部分で穂高は深冬をちらと見た。
その視線を追った睦月もまた、深冬をちらと見つめる。


「えぇ。・・・斎之宮様は、住之江、という名前をご存知ですか?」
「朽木青藍を誘拐した男だろう?彼の奥方もそれに加担したらしいね。」
「その通りです。その主犯は住之江主税。誘拐・監禁罪で罪に問われております。では、彼の奥方である住之江多津子の罪状は?」
「誘拐・監禁のほう助。それから・・・強姦未遂。」
少し言い難そうに穂高は目を伏せる。


「残念な事件があるものだ・・・。幼い少年に手を出すなんて・・・。」
「仰る通りです。それを防ぐことが出来なかった自分にも腹が立ちますが。」
本当に、腹が立つ。
何故俺はあの時、青藍のそばに居ることが出来なかったのだろうか。
睦月は内心で呟く。


「しかし、それと、朽木青藍が他の姫を娶ることが出来ない理由に何の繋がりが?」
握りしめられた睦月の拳にチラリと視線を向けて、穂高は問う。
「・・・あの事件以降、青藍様は、自分から女性に触れることが出来ません。」
「え・・・?」
穂高は首を傾げたが、他の四十六室の者の中には、納得がいかない者があるらしい。


「解りやすい嘘を吐くな!」
「百華楼に通っているという話だぞ!」
「真実を言え!」


・・・僕、泣きたい。
こっちはトラウマを曝け出しているのに、相手にしてもらえないとは。
いや、まぁ、それだけ上手く隠してきた、とも言えるのだが。
そうだとしても、泣きたい。


父上や母上を始めとした事情を知る隊長格から向けられる、憐みの視線。
集まっている貴族や隊士からの好奇の目。
友人たちからの、聞いていないぞ、と責めるような視線。
その他、同情の眼差し。


逃げたい。
凄く逃げたい。
今すぐに、この場から姿を消したい。
向けられている視線を無視してせっせとおにぎりを食べながら、青藍は内心で呟く。
そんな心境を読み取ったのか、深冬の掌が背中に当てられたのが解る。
その温かさが、有難かった。


「信じたくないのも解りますが、睦月の言葉は真実ですよ。」
そう言って一歩前に出たのは、卯ノ花だ。
懐から何かを取り出して、穂高に渡す。
開いてみろ、と促された穂高は、渡された帳面のようなものを捲っていく。


「診断書・・・?それも、こんなに・・・。」
「えぇ。あの誘拐・強姦未遂による心的外傷ストレス。そして、それに伴う接触障害。震え、嘔吐、過呼吸。体温の低下や、睡眠障害。・・・青藍のこれまでの治療歴の一部です。護廷隊に入隊してからも、月に一度は必ず私が診察をしております。」


「・・・なるほど。貴女が診断書を改ざんするということは考えられないから、これは真実なのだろうね。君たちも見るかい?」
穂高に問われて、他の者たちが頷く。
青藍の治療歴をまじまじと見る四十六室の者たちは、青藍の闘病の記録とさえ言えるほどの治療歴を見て、徐々に顔を引き攣らせた。


「女性に強姦されかけて、女性が苦手になった、というのは解った。しかし・・・朽木青藍は、妻を得ている。そして、彼の周りには女性が多い。この診断書だけでは、納得することは出来ないな。少なくとも、先ほどの朽木青藍は、朽木咲夜、朽木雪乃、朽木深冬、朽木ルキアに触れていた。貴女の手も平気な様子だった。」
穂高の言葉に卯ノ花は頷きを返す。


「咲夜さんとルキアさんに茶羅、深冬さん。それから私には、青藍は自分から触れることが出来ます。母と姉のような存在と、妹。家族である彼らに触れられることに疑問はないでしょう。」
「朽木雪乃が抜けているが?」


「残念ながら、自分から触れることは出来ないようです。先ほど、青藍は橙晴の手を借りて雪乃に触れました。自分から手を伸ばしてはいなかったはずです。」
「なるほど。言われてみれば確かにそうだ。」
「ついでに言えば、院生時代も朝比奈には触れていない。だろ、朝比奈?」
睦月に問われて雪乃は一瞬考える。


「・・・えぇ。確かに、そうだわ。よく考えたら、私、青藍と白打の組手をしたことがないもの。剣術の相手はしてもらったけれど、白打はいつもキリトや京や侑李を相手にして、青藍はそれを見て指導していたわね。」
雪乃の言葉を聞いて、青藍の同期は院生時代を思い出す。
確かに彼女の言葉の通りで、皆が目を丸くした。


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