色彩
■ 15.忠誠の証明

『・・・私の意思は、ただ一つです。』
「一つ?」
『朽木家を未来へ導くこと。』
「・・・そのために、今、四十六室と対立しているのかい?」
『はい。』


「何故、そんなことを?未来へ導くというのならば、君が自分の身を守る方が先決なのでは?四十六室に従って、大人しくしていればいいだろう?」
不思議そうに問われて、青藍は内心苦笑する。


『大人しくすればするほど、四十六室は私に怯えるのです。私が力を隠しているのではないか、と。いつか、自分たちに刃を向けるのではないか、と。四十六室は、これまでの自分たちの行いが多くの者を虐げてきた自覚があるのでしょう。その中には、我が母も含まれている。』
「つまり、彼等は復讐に怯えている・・・?」
『簡単に言えば、そういうことです。』


「うーん・・・。よく解らないなぁ・・・。俺には、君が復讐なんかをするような人には見えない。君の母君だってそうだ。というより、朽木家が、それほど感情に左右されることがあるだろうか。復讐というのは、感情による部分が多いものだが、朽木家は理性的な家だ。当主と家臣が上手い具合に互いの手綱を握りあっているから、感情で動くことはない。面子を守るための形式的な復讐はあっても、感情的な復讐をすることはないと思う。」
言われて、青藍は思わず笑う。


『ふふ。そう、思われますか?』
「えぇ?違うのかい?」
『いえ。その通りです。朽木家当主の何が一番大変か、と質問されたら、私は迷わず、家臣の説得だ、と答えます。感情的な部分の多い判断は、家臣たちが心を鬼にして反対してきます。茶羅の時がそうでした。あの子を送り出すために、何度、家臣たちの元へ足を運んだか。』


「足を運んだ?君が、家臣の元へ?家臣を呼び出すのではなく?」
青藍の言葉が意外だったのか、穂高は目を丸くした。
『はい。私は、当主と家臣は対等でなくてはならないと考えています。最終的な決定を下し、その責任を負うのは当主ですが、家臣たちは、当主の決定が間違ったものである、と判断すれば、正面から反対することが出来る・・・そうでなければ、家というものは存続しません。まぁ、強引に事を進めることも、たまにはありますが。』


「ふむ。確かにそうだね・・・と、話が逸れてしまったかな。それで、つまり、俺が言いたいのは、やはり、君の忠誠を証明することが出来ない、ということだ。いや、方法がないわけでもない。たった一つだけ、その方法がある。」
次の言葉を予想して、青藍は身構える。


「君が、四十六室に連なる姫を、妻に迎えることだ。」
穂高の言葉に、一瞬、その場がざわめいた。
「・・・そ、そうだ!そうすれば、我ら四十六室は、そなたの忠誠を認めるぞ!」
「誰か、年頃の姫があるか?」
「わが娘は、朽木青藍と変わらぬ年ではありますな。」
「そうかそうか。ならば、相手としては申し分ありませぬな。」


やはり彼らは、愛し子の血が欲しいだけなのだ。
愛し子である僕の血を受け継ぐその子が霊王宮を味方につけたならば、彼らの身の安全は保障されると思っているのだ。
・・・先は長そうだなぁ。
好き勝手に話を進めようとする四十六室に、青藍は内心でため息を吐く。


「なんだか、皆さん元気になったみたいだ。・・・まぁ、こちらは乗り気のようだけれど、君は、どうかな?」
蜘蛛の糸を見つけたように元気を取り戻した四十六室とは裏腹に、穂高はあくまで冷静だ。
知らないことは多いようだが、頭は悪くないし、敵対すれば手強い敵になるだろう。


・・・でも、だからこそ、味方に付ければ、心強い。
青藍はそう思って、ちらりとナユラを見る。
彼女も青藍を見ていて、視線が交わった。
一瞬の後、頷きが返されて、青藍は視線を穂高に戻す。


『・・・私も、忠誠を示すにはそうするべきだと、考えていたところです。』
「では・・・。」
『ですが、それは、出来ません。』
はっきりと言った青藍に、四十六室は唖然とする。


「理由は?」
『私の妻となることが出来るのは、深冬だけなのです。』
「どういうことだい?」
『それは・・・。』


青藍は理由を言葉にすることを躊躇った。
僕が女性不信である、というのは、僕の最大の弱点でもある。
それを四十六室が信じるかどうかは別として、女性に触れることが出来ない、というのは、死神として問題だ。
そして、僕が女性不信になった理由を話すには、僕自身のトラウマを、今この場で、皆に話さなければならない。


・・・醜態を晒さない自信がない。
青藍は内心でため息を吐く。
未だに手が震えるのだ。
僕を強姦しようとしたあの女の顔を思い出すと。


顔だけではない。
道端ですれ違う女性が同じ香りを纏っていると、胃から何かが這い上がってくる感じがして、気持ち悪い。
牡丹さんが荒療治と称してその香りを纏ったことがあったが、その時は嘔吐した。
それをこんなに大勢の前で公表しなければならない。
冷静でいられるはずがなかった。


でも、公表しなければ、僕は、深冬以外の女性を娶らなければならなくなる。
四十六室は喜ぶことだろうが、そんなことをすれば、僕らは、嫁がされる姫も含めて、誰も幸せになれない・・・。
言葉を続けない様子の青藍に、睦月が一歩前に出る。


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