色彩
■ 14.新しき賢者

「・・・朽木青藍。質問をしてもいいだろうか。」
静かな声でそう言った男は、青藍の見覚えのない男だった。
四十六室の中では、若手に入るであろう男だ。
『失礼ですが、お名前を伺っても?』
「あぁ、そうだった。俺は、斎之宮。斎之宮穂高という。」


斎之宮家。
それは、四十六室の賢者の中でも最も位の高い賢者である。
半年前に前任が病死して、三か月前に新しく賢者に就任した男というのは、この男か。
ナユラ殿によれば、彼の言葉がなければ遠征隊の帰還は果たせなかったらしいが、どんな男なのやら。
青藍は内心で呟いて、名乗った男を見つめる。


「・・・想像以上に、綺麗だなぁ、君の瞳は。」
『はい・・・?』
暢気な調子で言われた言葉に、青藍はポカンとする。


「あ、いや、全然、そういう趣味はないよ?ただ、君をこんなに間近に直接見るとは思っていなくて。何しろ、俺は次男で、兄さんの次の当主は兄さんの子どもが継ぐはずで。でも、兄さんは子どもが出来る前に死んでしまって・・・。それで、突然当主になれと言われて、どうしたものかと・・・。」
困ったように頭をかく男は、どうやら今のこの状況を理解しきれていないらしい。


『つまり・・・この騒ぎの理由がよく解らない?』
「あぁ、うん。そう。いや、その、うーん・・・。この三か月の嘆願書と、君の弟や隊長格からの話、それから、先ほどからの話を聞いて、大筋の流れは掴んだのだけれど・・・。」


『何か、納得のいかないことがあるのですか?』
「・・・そうだね。質問したいことがある。」
『何です?』


「朽木家の情報収集能力も、調査能力も、機動力も、全てが凄いと思う。きっと、これまでの四十六室の動きは、ほとんど朽木家に把握されていて、俺なんかよりずっと詳しいだろう。それで君は、霊王様すら君の味方になって、皇殿を賢者の地位から追い出す。皇家も制裁を加えられる。」
確認するような視線を向けられて、青藍は頷きを返す。


『概ねそれで合っています。』
「話を聞く限りでは、皇殿の味方をすることは出来ない。だけれど、この怯えようを見ると、君のそれは、脅し、というのではないだろうか、とも思う。君の背後に居る霊王宮の力は、俺などでは計り知れないものだから。」
『なるほど。』


「君は、わざわざ遠征に出た。四十六室の信頼を得るために。そして、戻ってきた。だが、この様子を見ると、君はさらに四十六室に恐怖を植え付けただけで、信頼は得られていない。けれど、霊王宮は君に絶大な信頼を置いているらしい。俺は、そこが気になる。」


『つまり、どういうことですか・・・?』
「えぇと・・・つまり、君は、四十六室と対等以上に渡り合える。もっと言えば、霊王宮を動かすことすら出来る。それだけの力を持っているということだ。俺が気になるのは・・・君が、この先、その力の使い方を誤ることがない、という確証がないことだ。君が尸魂界に敵意を持っていないということを、どうやって証明する?」
彼はこれまでの会話を客観的に見ていたのだろう。
当然、僕自身、その問いに辿り着いていたけれども。


『先に断っておきますが、霊王宮は私が過ちを犯せば私を罰します。十五夜様や安曇様、響鬼も含めて、情だけでは動きません。世の理を逸脱するのならば、彼等の本心がどうであろうと、私を消すでしょう。もし、彼らが情に流されてそれが出来なかったならば、その時は、霊王様が私を消します。あの方は、世の理そのものだから。』


「なるほど。君が間違いを犯せば、霊王宮が始末をつけるという訳か。しかし・・・四十六室としては、それでは困る。これまでの歴史を見る限り、霊王宮が動く前に、多くの死神や魂魄が失われる。それをただ見ているわけにはいかない。先ほど君が言ったとおり、四十六室には大きな権力があって、その権力があるのは、その分の責任があるからだ。」


そう言い放つ穂高の瞳に嘘はない。
彼は己の責務を解った上で、こちらの話を聞きたいのだ。
青藍はそう思って、口を開く。


『・・・正直に言えば、この先、私が力の使い方を誤る可能性はあります。世界を敵に回すことだってあるかもしれません。』
「では、君の尸魂界への忠誠は、揺れ動くものだ、ということだね?」
『貴方方の対応次第、と言い換えることも出来ますが。』


「・・・四十六室を敵とみなす可能性もある?」
『尸魂界と四十六室はイコールではありません。ですから、尸魂界の安寧のために貴方方と敵対することもあるでしょう。一応言っておきますと、私自身がどう思っているか、は、そこには関係ありません。』


「俺が聞きたいのは、君自身の意思なのだけれど・・・どうも、上手く質問できないなぁ。」
困ったように言って、穂高は苦笑する。


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