色彩
■ 9.追及

『ナユラ殿。』
「何だ?」
『一応お聞きいたしますが、梅園殿が一月ほどお姿をお隠しになったことはありましたでしょうか?』


「ないな。彼は毎週の定例会に必ず出席していた。少なくとも、青藍殿が遠征に向かってからは、そのようなことはない。まぁ、影武者でも立てていた可能性は否定できないが。」
青藍に問われて、ナユラははっきりと答える。
影武者、という言葉に、梅園は目を見開いた。


『確かにそうですねぇ。ですが、もし、梅園様がご自分でご確認に行かれたのならば、私が生存しているということを知っているはずです。誰かから報告を受けたのならば、その誰かが私の生存を知っているはず。そして、それを貴方に報告したはずです。この通り、私は生きているのですから。』


「どちらにしろ、梅園様は朽木青藍の生存を知っていた、ということですね。」
『そういうことになるね。それでは何故、私は、梅園様に、絶対死亡した、などと言われたのでしょう?』
「そ、れは・・・。」
口籠った梅園に、青藍は冷笑を向ける。


『自信があったのでしょう?貴方の放った刺客が必ず私を殺す自信が。その上、私が死んだと言っておけば、朽木家は動かないと思った。だから、貴方は私の死亡を朽木家に知らせたのです。私が生きていると知っていながら。』


「わ、私は、刺客など、放ってはいない!」
『嘘はいけませんよ、梅園様。』
「う、嘘などではない!本当だ!」
声を震わせながら、梅園は喚くように言う。


「こちらには、その証拠がございます。」
「何・・・?」
はっきりとそう言った橙晴に、梅園は目を見開く。


「今、朽木家には、貴方が放った刺客が捕えられているのですよ。捜索隊が瀞霊廷を出てから、彼等と我が朽木家の当主、それから相模迅ら五名を狙った刺客たちの全てを、朽木家が特定しております。」
「!!!」


「信じられませんか?・・・総勢七十九名。うち、五名は相模迅遠征部隊に所属しており、さらにそのうち三名はかの地で死亡しておりますが。そして、捕えた刺客たちをお調べしたところ、その全てが、皇家と繋がりを持つ者にございました。」
「あり得ない。そんなことが、可能な、はずが、ない。」


「いいえ。可能です。我が朽木家を見縊られては困ります。当主が帰るまでに、彼等を捕らえ、尚且つ彼らの素性を調べ尽くすことなど、造作もありません。」
橙晴は当然とばかりに言い放つ。


「そして、当然のことながら、貴方自身のことも、調べ尽くしております。今、ここにいる、相模迅ら五名もまた、皇家と繋がりを持ち、我らが当主を殺せと命じられていた者であることもこちらは承知しております。」
『今ここに居る彼等は貴方の命令を無視いたしましたが。』


「えぇ。お蔭で我らが当主は無事に帰還することが出来ました。我らが当主を信じてくださったこと、大変感謝いたします。朽木家を代表して、お礼申し上げます。」
橙晴はそう言って迅たちに頭を下げる。
「いや、俺たちは・・・。」
何か言おうとした迅を橙晴は目で制する。


「何も、おっしゃる必要はございません。我々は、貴方の、貴方方の罪は、すでに償われたと考えております故。・・・何より、我が母が貴方をお許しになって居られます。」
橙晴がそう言うと迅は咲夜に目を向けた。
その視線を受けて、咲夜は微笑む。


「五人とも、よく帰られた。我が息子を信じ、守ってくださったこと、お礼申し上げる。・・・相模迅。」
「はい。」
「よく皆を率いたな。数百年の長きにわたる遠征、大儀であった。・・・懐かしい顔だ。」


笑みを見せた咲夜が、数百年前に見た彼女など比ではないくらい光り輝いていることを見て、迅は泣きそうになる。
この方のあの深い闇は打ち払われているのだ、と。
それ程長い間、自分はこの瀞霊廷から離れていたのだ、と。
「はい・・・。お久しぶりに、ございます・・・。」


「漣、副隊長・・・。」
ケンの呟きに、咲夜は彼を見る。
「ふふ。君は松井健吾。覚えているぞ。かつての私の部下だ。」
「本当に、戻られて・・・。生きて、おられたのですね・・・。」
「あぁ。私も、皆が、私をこの場所に戻してくれたのだ。君もよく帰った。」


「はい。本当に、良かった・・・。」
ケンはそう言って涙を流す。
「こら、そう泣くな。男前が台無しだぞ、松井健吾。いつもの騒がしい君はどうした。」


「ふ、はは。本当に、そんな認識だったの、ですね・・・。」
「君の周りが騒がしかったのは本当だろう。君の周りに居た彼らも、何人か生き残っている。顔を見せてやれ。」
「はい!」


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