色彩
■ 8.お月見様の正体

『どういうことか説明して頂きたい!!』
雷が落ちたように、空気が震える。
隊長格までが、その覇気に息を呑んだ。


「なるほど。確かに、それは説明してもらいたいね。」
「えぇ。我らが愛し子を殺そうなどと考える輩がまだ居たとは。我らが愛し子に遠征隊への派遣を命じただけでも許されないことだというのに。」
「十五夜様、響鬼様・・・。」
二人に言われて、梅園は小さく震える。


「今回、我々が君たちの決定に口を出さなかったのは、そこに居る朽木青藍が願い出たからだ。自分が遠征に行くことで、尸魂界に敵意などないと示すことが出来るのならば、と、彼は我々を止めたのだよ。」
「この霊王宮筆頭家臣、つまり、霊王様の右腕であらせられる漣十五夜様を始めとした我々を止めることが出来るのは、青藍様ぐらいでしょうねぇ。」


霊王宮筆頭家臣、だと・・・?
響鬼の言葉を聞いて、迅たちは言葉をなくす。
本当なのか、と、青藍を見ると、頷きが返ってきて、唖然とした。
その様子を見ていたのか、十五夜は彼らに目だけで微笑む。
そして、軽く首を横に振った。
そんな十五夜に、彼ら五人は軽く頭を下げて、何も言わないことにしたのだった。


しかし、なるほど。
確かにお月見様でお月様だな・・・。
十五夜の正体を聞いて、迅は内心で苦笑する。
名前もそうだが、霊王宮の者では、全てを見ていてもおかしくはない。
どうやってあそこに現れたのかは解らないが、突然現れることに何の疑問もない。
あの響鬼という少年が只者ではないことにも納得がいく。


そして、あの安曇様もあちら側の方だ・・・。
昨日の未来が変わったという信じがたい話の中で、あの方は全てを見ていたかのように、俺たちとランがどう過ごしていたか詳しく知っていた。
霊王宮の方ならば、未来が視えることも、未来が変わったことが解るのにも、納得がいく。
昨日の話の中に霊王の名前が出てくるのも頷ける。


そして、あの深冬という娘は、そんな安曇様の娘だと言っていた。
世界について語ることが出来るのも、道理か・・・。
そう思いながらチラリと見た深冬は、未だ少女というに相応しい。
そんな方が妻で、ラン自身が愛し子と呼ばれているのでは、彼らが恐れるのも無理はあるまい。
迅は内心で呟きながら、様子を見守ることにしたのだった。


「我が朽木家も説明を求めます。我らもまた、四十六室より朽木青藍死亡の一報を書状にて知らされました。その後、四十六室に赴き、話を聞いたところによると、虚の大群が押し寄せ、遠征部隊が分断されたのち、朽木青藍の霊圧が消えた、とのことでしたが。」
橙晴の冷ややかな声に、その場の温度が数度下がる。


「私もそのように説明を受けた。」
「私たちもそのように説明を受けました。」
白哉に同意するように深冬がいうと、咲夜、ルキア、雪乃も同意を示す。


「俺と京楽で確認に行ったときもそのように説明された。」
「そうだね。朽木青藍は死んだ、と、聞かされたよ。」
「私もそのようにお聞きいたしましたが。」
続いて浮竹、京楽、卯ノ花がそれに同意する。
彼らに冷ややかな視線を向けられて、四十六室の者たちは息を呑んだ。


「ですが、我々はそれを信じることが出来ませんでした。それ故、朽木青藍捜索のため、数人を派遣することを願い出たのです。その際も、貴方方は、朽木青藍はかの地で死亡した、の一点張りでした。朽木青藍は絶対に死亡した、とまでおっしゃる方も居られましたかね。」
橙晴は冷ややかさの中に小さな怒りを滲ませる。


『へぇ?それは面白いですねぇ。遠征場所はここから走って二週間ほど先の場所にあります。伝令神機も役には立ちません。そして、遠征隊は常に移動している。つまり、四十六室であろうと、絶対、などと言いきれるはずがないのです。誰かが遠征部隊とわざわざ連絡を取ることがなければ、という話ですが。』
青藍の冷ややかさに、一部の者を除いて、その場は凍りついた。


「あぁ、そういえば、絶対、とおっしゃったのは、梅園様にございましたねぇ。」
橙晴は今思い出したとばかりに周りに聞こえるように呟く。
『では、梅園様にお聞きいたしましょうか。何故、貴方は、私が絶対に死んだ、などと言い切ることが出来たのでしょう?』


「そ、れは、そのように、報告があったからだ・・・。」
『誰からです?』
絞り出すように言った梅園に、青藍は鋭く問う。
「・・・。」


『言えませんか?まさか、ご自分で確認したわけではありませんよね?貴方ではあの地に一刻いるだけで命を落とします。いや、そもそも辿り着くことなどできないでしょう。それに、普通に行けば往復で一か月。四十六室の賢者たる梅園様がそれほど席を空けることも出来ますまい。』
「つまり、梅園様に報告をした誰かが居る、若しくは、元々そのような報告は存在していない、ということになります。」


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