色彩
■ 7.本人確認

「青藍様。お待ちを。」
『・・・響鬼?』
いつの間にか隣に移動している響鬼に、青藍は首を傾げる。
「お力をお貸しいたします。霊圧が溢れては、この場に居るほとんどの者たちが辛いでしょうから。」


『結界を張るつもりではいたよ?』
「結界を張ろうが張らまいが、瀞霊廷全域が射程圏内になることを知らない僕ではありません。それでは話し合いにはならないでしょう。四十六室の議場と彼らのお邸が射程圏内に入っているのですから。」


『確かに。それじゃあ、響鬼。お願い。』
「屈んでください。手が届きません。」
『うん。』


響鬼は屈んだ青藍の前に手をかざした。
その手から光が溢れて、青藍の頭を撫でると、髪と瞳が金色に染まっていく。
四十六室の者たちはそれを唖然と見つめた。
迅たちもまた、それを呆然と見つめる。


「・・・これでいいでしょう。」
『ありがとう、響鬼。』
「お安いご用です。・・・今日の所は、すぐにお姿を戻して差し上げます。いつものお姿の方が、お話が良く進むでしょうから。もっとも、彼らに口を挟む余地があるかどうかは謎ですが。」


『あはは。ちゃんと話し合いになることを祈っていてよ。』
「青藍様次第ですね。」
『信用ないなぁ。』
「信用がないのではなく、心配が尽きないのです。」
溜め息を吐いた響鬼に、青藍はくすくすと笑って立ち上がる。


『・・・さて、前の姿とは少々違うが、この姿で納得して頂けるだろうか。周りへの配慮から、響鬼が私の力を引き出してこの姿にしてくれました。これで納得して頂けるのならば、私も有難いのですが。』
青藍の言葉を聞いて、ナユラは頷きを返す。


「・・・あぁ。本物であるということは、認めよう。本物でなければ、彼が手を貸す必要はない。」
『その通りです。・・・さて、次はこちらから確認したいことがございます。よろしいですか?』


「いいだろう。だが、その前にその姿を戻して欲しい。その姿を見ていると、冷静な判断が出来ない者もいるだろう。」
『・・・響鬼。』
「はい、青藍様。」
ぱん、と響鬼が軽く手を叩くと青藍の色が元に戻った。


「何とも不思議な光景だな。・・・それで、確認したいこととは?」
『私が死んだ、とは、一体どういうことなのでしょうか。』
静かな声が響いて、あたりは水を打ったように静かになる。
ナユラはあえてその問いに答えなかった。


青藍の怒りを四十六室に伝えるには、その静けさが効果的だからだ。
それを解っている青藍は、小さく彼女に目礼してから、彼女以外の四十六室の面々に視線を走らせる。


『四十六室の皆様に、何故、私が死んだということになっているのか、ご説明頂きたい。ここへ来るまで、私たちに多くの刺客を放った理由を含めて。』
刺客、という言葉に、周囲から小さなざわめきが起こった。


「確か、朽木青藍死亡の一報を我らに報告してきたのは、皇殿であったな。」
ナユラがそう言うと、四十六室の者たちは頷いて梅園を見る。
『そうですか。では、皇梅園様。ご説明をお願いいたします。』
射抜くように見つめられて、梅園は息を呑む。
青藍から目を逸らして周りを見るも、誰もが梅園を見つめるだけで、動こうとはしない。


「・・・ぶ、部隊長、相模迅が、そのように、報告を、してきたのだ。」
『部隊長相模迅。貴方は、私が死んだと、報告いたしましたか?』
「いえ。先ほど彼が言ったとおり、そのような報告をした覚えはありません。」
そう言った迅を見て、梅園は目を見開いた。


『と、言うことですが。では、誰が、私が死んだ、などという虚偽の報告を四十六室にしたのでしょうねぇ。それに・・・。』
そこまで言って青藍は間をとる。


『それに、何故、死んでいるはずの私に、刺客が送られてきたのでしょうか。私が死んでいるのならば、そのようなことをする必要はないはず。ということは、私が生きていることを知っていた者があるということです。』
青藍は言いながら、梅園の方へ足を進める。


『捕まえた刺客を調べたところ、私を殺せ、と、命じられたとか。つまり、四十六室は、最初から、この朽木青藍を殺すつもりだった、ということになります。貴方方は、私に忠誠を示せと言って、遠征隊への異動を命じた。私は貴方方からの信頼を得るために、わざわざ遠征に向かったのです。それなのに、貴方方は、私を殺そうとしている。』


そう言って青藍は四十六室の者たちを真っ直ぐに見つめた。
彼等はその視線の強さと、青藍の纏う雰囲気に息を呑む。
彼らの本能が、青藍が本当に朽木青藍であることを理解したのだった。


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