色彩
■ 4.星と海


『・・・・・・星と、海だ。』
ぽつりと呟いた言葉に、橙晴と雪乃は首を傾げる。
それを見た青藍は小さく微笑んでから、雪乃のお腹に視線を向けた。


『それから、蒼純お爺様から一字頂こう。蒼い星と、蒼い海。・・・君たちの名は、蒼星と蒼海だよ。男の子が蒼星。女の子が蒼海。天高く輝く星と、広く深い海が君たちを見守るだろう。』
「蒼い星と、蒼い海、ですか・・・。」


『どうかな。それから、女の子・・・蒼海の方が先に生まれてくるよ。』
青藍の発言に、二人は目を丸くする。
卯ノ花の検診では、位置的に女の子が先に生まれてくるだろうとのことだったからである。
何も知らせていないはずなのに、と二人は内心で呟いた。


「ど、うして、それを・・・?」
『何となくそう思っただけ。もしかして、もうどっちが先に生まれて来るのか予想は出来ているのかな。烈先生ならすぐに解るだろうし。』


「・・・やっぱり兄様は少々化け物じみていますよね。いや、野生の勘か。野に出た兄様は野生の勘を身に着けたんですね。」
「そうね。新しいスキルを身につけたようで何よりだわ。無駄に時間を過ごしていた訳ではなさそうね。腑抜けた当主なんて、朽木家にはいらないもの。」


『・・・僕は今、自分の信用の無さに泣きそうだよ。いや、自覚はあるけど。でも、あんまり苛めないで欲しいなぁ・・・。』
「自覚があるならこのくらいにしておきましょう。蒼星と蒼海という名前も頂いておきます。」


「ふふ。そうね。何だかしっくりくる名だもの。私も気に入ったわ。」
微笑む二人を見て、青藍は嬉しげに笑う。
『何だか先を越されちゃったなぁ。・・・おめでとう、二人とも。』
祝いの言葉に笑った橙晴と雪乃は、本当に幸せそうで、羨ましいくらいだった。


「・・・青藍。」
深冬が隣にやってきて、静かに青藍の名を呼んだ。
『うん?』
青藍は小さく首を傾げながら深冬を見つめる。
そんな青藍に小さく笑って、深冬はふわりと青藍に抱き着いた。


『わ、深冬?』
目を丸くした青藍の気配に、深冬はまた小さく笑う。
「・・・ふふ。今日も会えたな、青藍。」
『うん。そうだね。』
青藍は頷きを返しながら深冬を抱きしめる。


「あったかいか、青藍。」
『ん。あったかい。すごく。それで、すごく、いい匂い。』
鼻をすんすんとさせた青藍に、深冬は呆れた顔をする。
「嗅ぐのはやめろ。それは変態のやることだ。」
『えぇ・・・。少しぐらい許してよ。君がこんなに近くに居るなんて、夢みたいなんだ。』


「・・・夢じゃないぞ、青藍。」
『ふふ。君がそう言うのならば、これは現実なのだろうね。安心した。』
可笑しげに言った青藍に、深冬はほっとしたように息を吐いた。
「私も、安心した。昨日会った青藍が、夢だったらどうしようかと思っていた。」


『うん。ごめんね、深冬。たくさん待たせてしまって、大変な思いをさせた。心無いことも言われたようだね。でも君は、ずっと僕を信じていてくれた。遠くに居ても、それが解ったよ。この耳飾りが、僕を何度も勇気づけてくれた。』
「私もだ。」
そう言ってくすくすと笑った二人に、近づく影が二つ。


「・・・お前ら、もうちょっと待て。後で時間を作ってやるから、こんな大勢の前でいちゃつくな。青藍の阿呆がばれるだろ。」
「そうだな。ま、俺たちにはバレバレだけどな。」
呆れたような声で話すのは、睦月と師走である。


どうやら結界を張り終えたらしい。
何処からともなく飛んできていた危険物と思われるものが、遥か頭上で何かに吸い込まれるように消えていくのが解る。
呆れた声に苦笑を漏らして、青藍は深冬を解放した。


『はいはい。お疲れ様、二人とも。』
「こんなのは朝飯前だっつーの。」
「ホントだよな。俺たち、お前が居ない間に百年分は成長したわ。」


「そんで精神的に三百年分老けたわ・・・。」
「だよな・・・。見た目まで老けた気がするぜ・・・。」
遠い目をする二人に青藍は笑った。


「笑ってる場合かっつの。・・・で?俺たちに何か言うことは?」
睦月にひたと見つめられて、青藍は居住まいを正す。
『睦月。師走。』


「「はい。」」
呼ばれた二人は青藍の前に片膝をついた。
『・・・世話をかけたね。礼を言う。』
「「勿体ないお言葉です。」」


『ふふ。それから・・・ごめんなさい。』
そう言ってぺこりと頭を下げた青藍に、二人は苦笑を漏らす。
「相変わらずあざといな・・・。」
「俺、危うく許しそうになったわ・・・。」


『え、許してはくれないの・・・。』
頭を上げた青藍の表情は困り顔だ。
「当たり前だろ。」
師走に言い切られて、青藍は小さく落ち込んだ。


『僕、頑張ったのに・・・。』
「大体なぁ、そんな当主の成りしときながら、軽々しく頭を下げるな。減点だ。」
『睦月ったら手厳しい・・・。』
「朝比奈が言ったとおり、腑抜けた当主なんざいらねぇんだよ。」


『はぁい。肝に銘じますよ・・・。』
唇を尖らせた青藍に徐に手を伸ばした睦月は、その頬を思いっきり抓る。
『いひゃい!!』
「つか、ごめんなさいよりも先に言うことがあるだろう。」


『た、ただいま、かえりました・・・。』
「よし。・・・青藍。緊張の糸はもう緩めていい。だが、緊張は切らすな。この後の大仕事が終わったら、存分に休んでいい。それまで緊張を持たせろよ。」
そう耳元で小さく呟いた睦月は青藍の頬から指を離す。


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