色彩
■ 2.父と母


「・・・全て見た。あれ自身が知らないことまで。」
『どう、して・・・。』
「試されたのだ、あの化け物に。私だけではなく、皆が、各々試された。そなたを本当に助けたいのならば、乗り越えて見せろ、と。・・・すまぬ、青藍。そなたはあれをずっと私たちに隠していたのだな。」


父上が、母上の全てを、見た・・・。
霊妃様が全てを見せたんだ・・・。
一体、どれ程の痛みを伴っただろう。
それなのに、どうして、父上の瞳は、こんなにも前を向いているのだろう。


辛い事実であったはずなのに、父上の瞳には、翳りがない。
変わらず、静かな瞳だ。
父上は、母上の闇に引き摺られなかったのだ。


・・・本当に、全部、丸ごと、母上を引き受けている。
だからこそ父上は、こんな瞳が出来るのだ。
やっぱり父上は強い。


「・・・あのような世界は、恐ろしいな、青藍。」
『・・・・・・はい、父上。ずっと、僕の世界から色が失われるのではないかと、痛みすら感じなくなるのではないかと、ずっと、怖かった・・・。』
「今も、恐ろしいか。」
問われて青藍は何とか涙を堪えながら首を横に振る。


『もう、怖くなど、ありません。だって、僕は、帰ってきたから。』
「・・・そうか。長かったな、青藍。」
『本当に、長かった・・・。独りは、怖いですね、父上。』
「あぁ。そうだな。」


『本当に怖くて怖くて仕方なかったんです。・・・父上、後で話を聞いてくださいね。今この場で話すには、長すぎる。話したいことが、次から次へと溢れてくるのです。何度も、父上の背中を見失いそうになりました。そのたびに、皆の顔が浮かんで・・・格好悪いですね、僕は。』
自嘲するように言った青藍に、白哉は首を横に振る。


「そんなことはない。・・・そなたの話ならば、いくらでも聞こう。悲しみも、苦しみも、痛みも、憎しみもあっただろう。」
『はい。たくさん、たくさんありました。』


「・・・私もだ。この三年、色々なことがあった。私もそなたに話したいことが山ほどある。失うかもしれない、という恐怖が、いつも私に付き纏っていた。」
『でも、何時だって、そんな時に光を見せてくれる人が居た。僕も、父上も。』
「あぁ。そうだった。だからこそ、こうして青藍が帰ってきたのだ。」


『はい。僕も、皆が僕のために動いてくれていることを思うと、どんなことだって乗り越えようと思えた。新しい人たちとの出会いもあったんですよ?』
そう言って微笑んだ青藍に、白哉も目で笑う。
「そうか。それも後で聞こう。」
『ふふ。はい。』


「白哉が抜け駆けだ!狡いぞ、白哉!」
二人の様子を暫く見守っていた咲夜だったが、青藍が微笑みを見せたことで、痺れを切らしたらしい。


「青藍の独り占めは駄目なのだ!」
そう言いながら二人の間に割り込むように入って、ぎゅう、と青藍を抱きしめた。
白哉は一瞬不満げな顔をしたが、仕方がない、と言った様子で一歩退く。


『母上・・・苦しい・・・。』
「ふふ。お帰り、青藍。」
腕を緩めた咲夜は、穏やかな微笑みを見せた。
その微笑がいつもと変わらなくて、青藍は安堵する。
母の肩に額をのせて、ほっと一息ついた。


「お?何だ?甘えているのか?・・・よしよし。可愛いな、青藍。こうするのも凄く久しぶりだ。これからはいつだってこうしてやる。君はもっと大人に甘えなさい。私たちが居る間は、いくらでも守ってやる。」
『・・・ふは。母上だ。』


「何だ、青藍。私が偽物だとでも思っているのか?」
『・・・いえ。ただ、夢だったらどうしようかと思っています。』
「そんな訳がないだろう。これが夢だったら、護廷十三隊全員が同じ夢を見ていることになってしまう。そんなことは、有り得ない。つまり、これは現実なのだ、青藍。」


『ふふ。そうですね。』
青藍はそう言って笑みを零すと、咲夜から距離を取る。
横に居る父からの視線が痛いためだ。


『これ以上は父上が怖いのでやめておきます。』
「ははは。そうだな。」
二人はそう言って見つめ合って、くすくすと笑う。


「青藍。」
『なんですか、母上?』
「お帰り。」
『はい。無事に帰って来ることが出来ました。母上のお蔭です。』


「ふふん。私に出来ないことなどないのだ!」
『流石母上です。』
「ほら、皆にもよく顔を見せてやるといい。」
『はい、母上。』


[ prev / next ]
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -