色彩
■ 39.開かれた門

「篠原も御剣も無事なようだな。俺は青藍よりお前らの方が心配だったぜ。彼奴は殺しても死なないが、お前らは殺したら死ぬからな。」
「流石日番谷隊長。辛辣ですね。」
「あはは。流石我らが隊長です。」


「良く戻った。ご苦労。だが、明日からみっちりと働いて貰うからな。お前らが居ないといつも以上に松本が役立たずなんだよ。」
「えぇ・・・。僕ら、十日後くらいに帰る予定だったので、休みが欲しいです・・・。」
「そうですよ。帰りは二週間かかるところを八日間で帰って来たんですからね?」


「知るか。昨日琥珀庵に到着したくせに、すぐに俺に連絡しないとはいい度胸だな?」
言われて二人は動きを止める。
「よく御存じで・・・。」
「何故それを・・・。」


「怪しい男たちが琥珀庵に入って行けば、何事かと思うだろ、普通。で、よくよく見たら、見覚えのある外套を着ている奴がいてな。」
「「あはは・・・。」」
二人は苦笑するしかない。


「・・・何か、言うことは?隊長自らお前らを出迎えているわけだが。」
「「ご挨拶が遅れて申し訳ありません!ご心配をおかけいたしました!!隊長自らお出迎えとは恐悦至極にございます!!!」」
「じゃあ、明日から仕事でいいな?」
「「もちろんです!」」


「よし。・・・で、そっちが遠征隊に居た奴らか。・・・ふぅん?」
冬獅郎は彼らを見つめて、小さく頷く。
そして、不敵に笑った。
「青藍。」
『はい?』


「こいつら、十三隊に入れるんだろ?」
『まぁ、僕の希望はそうですね。選択するのは彼等ですが。』
「じゃ、入ると言ったら、十番隊を候補に入れておけ。」
その言葉に目を丸くした青藍は、一瞬の後、何かを理解したように笑う。


『・・・なるほど。冬獅郎さん、本当の目的はこっちですね?』
「俺は自分の隊の隊士を迎えに来ただけだ。」
『他の隊長より先に彼らを見極めに来ましたね?キリトと京はおまけでしょう。』
「「おまけ!?」」
「さぁな。」


『ついでに仕事を押し付ける口実にしましたしね。』
「「押し付けたんですか、隊長!?」」
「押し付けて悪いか?お前らが出かけてから誰がお前らの分の仕事をしたと思ってんだよ?答えてみろ。」


「「・・・松本副隊長?」」
二人は惚けるようにいう。
「お前ら、一番あり得ないと思いながら彼奴の名前を挙げるのやめろよ・・・。悲しくなるだろ、俺が。」
そんな二人に冬獅郎は呆れた顔をする。


「だって、隊長だって、僕らのことおまけって。」
「酷いですよ。僕ら、隊長のこと、優しい隊長だって、迅さんたちに話しておいたのに。」
二人は不満げに冬獅郎を見る。


「そりゃそうだよな。お前ら優しくないもんな。・・・隊舎の冷凍庫に入っている、凍った茶は何だ?それも、俺の湯呑と同じ形の湯呑だったんだが?」
問われて二人は目を逸らす。


「・・・毎回、隊舎が寒いのでどうにかしてくださいと、凍った茶を差し出す奴がいたな?」
睨まれたキリトは冷や汗をかく。
「そ、それは、ですね・・・。」


「可笑しいと思ったんだ。淹れたばかりの熱い茶が凍るほど寒くしてねぇってのに、何で凍ってんだ、と。御剣も共犯らしいな?お前、わざと凍った茶の入った湯呑を机の上に置いてんだもんな?お前の湯呑も冷凍庫に入ってたぞ?」
じろりと睨まれて、二人は小さく震える。


「「も、申し訳ありませんでした!!」」
勢いよく頭を下げた二人に、冬獅郎は呆れた視線を向けた。
「次やったら、松本巻き込んで減給。」
「「はい!!二度とやりません!!」」


「よろしい。・・・で、そこで笑ってる青藍。」
『へ?僕ですか?』
「どうせこいつらに入れ知恵したのお前だろう。」
『そんなことはありませんよ?』
青藍はそう言って微笑む。
そんな青藍を冬獅郎はじとりと見つめた。


「嘘を吐くな。暫くお前は隊主室出入り禁止。昼寝をしているのを見つけたら千年氷牢の刑だからな?」
冬獅郎の目が本気で、青藍は小さく震える。
『はい・・・。ごめんなさい・・・。』


「・・・こいつら、何やってんだよ。」
「えぇと、結局、隊長は優しい隊長なの・・・?」
「いや、どうだろうな・・・。」
「というより、本当に隊舎を凍らせているのか・・・。」
「大丈夫なのか、十番隊・・・。」
迅、陵、リク、暦、ケンの五人はそんな様子を見て小さく呟く。


「あはは。三人とも流石というか、何というか。」
「上司で遊ぶとは、強者っすね・・・。」
蓮と侑李はそう言って苦笑した。
「いや、お二人とも、人のこと言えません、ぞ・・・ひっ!!」
紫庵は小さく呟くが、それを聞いた二人に睨まれると小さく悲鳴を上げて口を閉じる。
その時、遠くから昼の鐘が鳴り響いて、一同は空を見上げる。


「・・・時間になったか。さて、そろそろ入るぞ。準備は良いか、お前ら。特に後ろの五人。」
冬獅郎に問われて、迅たちは不思議そうに首を傾げる。
「青藍を本気で怒らせると、死ぬほど怖いぞ。覚悟しておけ。」


「「「「「はい・・・。」」」」」
五人は何が起こるのか理解したように遠い目をしながら頷く。
「なるほど。何にも知らねぇ、ってわけじゃ、なさそうだな。じゃ、行くぞ、青藍。」
『はい、冬獅郎さん。』


「・・・十番隊隊長日番谷冬獅郎だ。申請していた人物が到着した。門を開け。」
冬獅郎がそう言うと、門が重々しく開かれる。
「さぁ、入れ。」
そう言われて、彼等は久しぶりに瀞霊廷に足を踏み入れたのだった。



2017.01.30 再会編 完
〜帰還編に続く〜

まだまだ青藍が再会を果たしていない人たちが沢山いますが、再会編は完結です。
次回は帰還編。
いよいよ四十六室との直接対決。
帰還編が最終章になるかもしれません。
何はともあれ、ここまでお付き合いくださった皆様には、大変感謝申し上げます。


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