色彩
■ 38.銀髪翠眼の人

「・・・兄様のそれは健在ね。漸く、朽木家当主のご帰還だわ。お帰りをお待ちしておりました、当主様。無事のご帰還を心よりお喜び申し上げます。」
茶羅はそう言って青藍に恭しく頭を下げる。
それを見て、青藍は雰囲気を和らげた。
その場の空気が一瞬で柔らかいものになる。


『ふふ。そんなことしないでよ、茶羅。』
「体に染みついているのよ。これをやらないと落ち着かないのよねぇ。・・・その変わり身の早さも健在なのね。我が兄ながら化け物じみているわ。」


『父上と橙晴は、頭を下げてくれるだろうか。二人が頭を下げてくれないと、僕が朽木家当主の朽木青藍だとは認めて貰えなさそうだ。』
「下げるわ。当然のように。」
苦笑しながら言った青藍に、茶羅は確信を持っていう。


「朽木家一同、どれほど、当主の帰りを待っていたか。一番待ちわびていたのは、あの二人なんだから。素直じゃないから憎まれ口を叩いて、兄様にあれこれ辛辣なことを言うでしょうけどね。」
『あはは。それは辛いなぁ。』
青藍は困ったように笑う。


「橙晴は、当主業を必死にこなした上で、兄様のために動いていた。それで、父上は、何も言わないけど、ずっと、六番隊の第三席の地位を空白にしていたんだから。何故埋めないのかと、四十六室に嫌味を言われたって、相応しい者が居るからだ、って。席官を指名する権限は隊長にあるのだから口を出すな、と、撥ね退けちゃうんだから。父上ったら、格好いいのよ。」
茶羅は自慢げに言う。


「よく知っているな・・・。」
「父上が呼ばれたとき、四十六室に忍び込んだもの。」
呆れたように言った豪紀に、茶羅は当然とばかりに言う。
「忍び込むなよ・・・。せめてナユラ殿からくる映像を見ろよ・・・。」
「忍び込む隙があるのが悪いのよ。」


『ふふ。父上も橙晴も茶羅も、格好いいね。敵う気がしないなぁ。』
「それはお互い様よ。・・・ほら、兄様。準備をしてください。実花、お願いね。」
「えぇ。青藍様、こちらにおいでになって。全く、青藍様ってどこに行っても青藍様なのね。普段は阿呆なくせに、腹立たしいくらい朽木家当主なのだわ。」
実花はそう言ってため息を吐く。


「狡い人ね。深冬様、絶対に騙されているわよ。そう思いません、豪紀様?」
「そうだな。絶対に深冬はこの男に騙されていると思うぞ。」
『あはは。酷いなぁ。深冬は、騙せないよ。』
「つまり、他の人は騙しているのね。」
「そのようだな。」
言われて青藍は苦笑する。


『まぁ、否定はしないけどね。じゃ、実花姫、頼むよ。』
「えぇ。お任せを。」
『あ、豪紀は暇そうだから、迅さんたちの相手をしているといいよ。リクさんは元五番隊だから君の大先輩だ。昔の真子さんを知っている。』
「そうか。別に暇ではないが、それは面白そうだから聞いておこう。」


その日の正午。
正確にはまだ正午ではないが、青藍たちは蓮たちと合流して瀞霊廷に向かっていた。
瀞霊廷の門の前まで来ると見知った人影がある。


「来たか。」
門に寄りかかっているのは冬獅郎である。
冬獅郎は門から背を離して、彼らの方へ歩み寄った。
羽織を見た迅たちは冬獅郎に礼を取る。
冬獅郎はそんな彼らを一瞥してから、青藍に視線を向けた。


『お久しぶりにございます、日番谷隊長。この度は大切な席官をお貸しくださり、誠に感謝いたします。その上、貴殿自ら出迎えて頂けるとは、恐悦至極にございます。』
「・・・それ、やめろ。」
貴族然として言った青藍に、冬獅郎は冷たい視線を向ける。


『あはは。どうも。お久しぶりです、冬獅郎さん。』
「良く戻ったな。」
『はい。』
頷いた青藍を冬獅郎はじっと見つめる。


『何ですか?』
「いや、幽霊ではなさそうだな、と。」
『何で皆して僕を幽霊扱い・・・。昨日、燿にも言われました・・・。』
「だってお前、今、死んでんだぞ?」
当たり前のように言った冬獅郎に青藍は泣きそうになる。


『いや、そうなんですけどね!?書類上は死んでいますが!』
「朽木家の面々は自信ありげにお前は生きている、と言っているが、こちらには確認する術がないからな。彼奴らを疑う訳ではないが、顔を見るまで安心できないだろ。」
『だからって、幽霊扱いは酷いです・・・。』


「まぁ、生きているようで何よりだ。それはいいとして・・・御剣、篠原。」
『えぇ!?よくないですよ!?何か適当じゃないですか?』
騒ぐ青藍を無視して、冬獅郎は京とキリトを見る。
「「ただ今戻りました、日番谷隊長。」」
二人はそう言って冬獅郎に頭を下げた。


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