色彩
■ 37.早朝の来訪者


翌朝。
「お早う、茶羅!あ、燿さんもおはようございます。」
そんな元気な声とともに、茶羅と燿の邸に来客がある。
朝餉を摂っていた面々は、何事だと、その声のする方を見た。


「荷物は中に入れて頂戴。」
「「「畏まりました。」」」
そういうと、後ろに居た三人の男が荷物を持って入ってきた。
「茶羅、部屋を借りるわね。」
「そっちの部屋を使っていいわ。」


「ありがとう。・・・ほら、豪紀様?何をしているの?早くお入りになって?」
「何故俺まで連れてこられたんだ・・・。」
「いいから!」
そう言いながら彼らも邸に足を踏み入れた。


『・・・実花姫?豪紀?』
目を丸くして、青藍は呟く。
「あら、青藍様、本当にお帰りになったのね。ご無事で何よりだわ。お帰りなさい。」
『うん。ただいま・・・。』


「ほら、豪紀様もお帰りくらい言ったらどうですの?」
「青藍・・・。本当に、帰ったのか・・・。」
『うん。泣くほど嬉しいのなら泣いてもいいよ?』
「阿呆。誰が泣くか。鬱陶しさは健在だな。」
悪戯に言った青藍に、豪紀は呆れたように言う。


『鬱陶しいとは失礼な。』
青藍は唇を尖らせる。
「事実だろ。・・・深冬には?」
『昨日会った。』


「そうか。彼奴、泣いたか?」
『うん。』
「ならいい。」
頷いた青藍を見て、豪紀は安堵の表情を浮かべる。


『ふは。豪紀も相変わらずだねぇ。流石、豪紀お義兄さんだ。』
「喧しい。・・・もう一度こちらから言うぞ。」
面倒そうに言って、豪紀は青藍をひたと見つめる。


『なに?』
「深冬を頼む。」
真っ直ぐに言われて、青藍は頷く。


『頼まれた。僕も、彼等も、次はない。二度と離れないし、離れさせない。「僕」としても「私」としても深冬を守ろう。一人には、しない。その代り、彼女をどんな場所にだって連れて行く。たとえその場所が、地獄の底でも。』


「それでいい。深冬もその覚悟はしているだろう。・・・もし次彼奴を一人にしたら、お前から深冬を取り上げる。覚悟しておけ。」
『そんなことをしたら、加賀美家存亡の危機に陥るよ?』
「この三年でお前なんか恐れることもなくなったからな。お前を敵に回しても、加賀美家は潰れないぞ。俺が潰させない。」


『そっか。・・・ありがとう、豪紀。』
「礼などいらん。・・・礼はいらんから、実花をどうにかしてくれ。」
豪紀は疲れたように実花を見る。
『いや、それは・・・ねぇ?』


「何故俺はこんなに早起きをしてここに居るんだよ・・・。」
豪紀はそう言ってため息を吐く。
『実花姫に起こされたの?』
「そうだ。」


『何で?』
「俺が聞きたい・・・。聞き出す暇もなく引き摺られてここに・・・。」
『と、言うことだけれど、実花姫。』
疲れた様子の豪紀から視線を外して、実花に視線を送る。


「何でって、決まっているじゃない。青藍様を飾り立てに来たのよ!」
当然とばかりに言われて、青藍は目をぱちくりとさせる。
『・・・何で?』
首を傾げた青藍に、実花は呆れたようにため息を吐いた。


「ボロボロの死覇装姿で帰って、その姿を四十六室に見せたって、偽物だと言われるかもしれないじゃない。だから、一目見ただけで、朽木青藍だと解らせてやるのよ。何処に行っても、青藍様が朽木家の当主であることを忘れていないと、見せつけてやりなさい!当主引き継ぎの儀の時のように、全員に頭を下げさせてやるんだから!」


『・・・ふ、はは・・・。そのために、豪紀は、起こされたの・・・。』
笑いを堪えながら青藍は言う。
「それ、俺は必要か・・・?」
「必要よ!」
「どこがだよ・・・。」
豪紀は思わずしゃがみこむ。


「だって、豪紀様、飾らせてくれないのだもの!詰まらないわ!私が!だから腹いせに目の前で青藍様を飾り付けてやろうと。」
「私情すぎるぞ、お前・・・。」


「当たり前じゃない!いいものを持っているくせに使わないなんて、勿体ないわ。牽星箝すらサボるのよ、この人。青藍様からも言ってやって貰えないかしら。」
実花は不満げに言って青藍を見る。


『あはは。牽星箝は邪魔だよねぇ。』
「邪魔だな。」
『貴族です、っていう自己主張激しいし。いつも付けている人もいるけど、そういうのに限って、偉いのは見た目だけだったりするし。』


「貴族だからって偉い訳あるかっつーの。まぁ、朽木隊長は例外だがな。あの人は公私ともに偉大だ。」
『あはは。そうだね。ほんと、敵う気がしないよ。・・・と、いうわけで、つまり、問題なのは中身だよ、実花姫。』


「何で青藍様までサボろうとしているのよ!朽木家当主でしょ!」
実花に叫ぶように言われて、青藍は苦笑する。
『別に飾り立てるのは構わないよ。実花姫の言うことも一理あるから、今日は好きにしていい。』


「何か含みのある言い方ね。」
『そう?』
「何か言いたそうよ?」
『ふふ。言ってもいいなら言うけれど。』
「えぇ。どうぞ。」


『・・・飾らずとも、私は朽木家の当主だ。』
その静かな声に、ぞくり、と皆が背筋を震わせて、一瞬で雰囲気が変わった青藍に息を呑んだ。


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