色彩
■ 36.明日の約束


『・・・なるほど。では、少なくとも万年先まで、尸魂界は存続するということですか。』
「そうだろうな。そなたらの信じる心以上に強く大きな心があれば、また短くも長くもなるだろうが。」


『あの方々にも、それは見えていなかったのでしょうか?』
問われて安曇は逡巡する。
「・・・解らぬ。あれらが見ているものは、我らには、理解することは出来まい。一つの道しか見えておらぬのか、それとも複数の道が見えているのか・・・。それすら、解らぬ。」


『そうですか。では、後で聞いてみましょう。』
軽く言った青藍を安曇は呆れたように見る。
「程々にした方が良いと思うぞ。余計なものを見せられるかもしれぬ。余計なものを見せられて、そなたが苦しむ姿など見たくはないぞ。」
『あはは。気を付けます。』


「・・・ふぅ。満足だ。今日も美味であったぞ、燿、茶羅。」
話ながら手を進めていた安曇の目の前からは、いつの間にか甘味が消えていた。
それに目を丸くしつつも、迅たちは何も突っ込まないことにしたらしい。
話の内容と青藍の対応から、高貴な方なのだ、と、感じたようだ。
迅においては、多少の恐怖も感じているのだが。


「さて、私は帰る。明日の正午に、あの糞爺が阿呆を迎えに来るからな。」
『安曇様は来られないのですか?』
「私は後始末の準備があるのだ。「消す」のは骨が折れるのだがなぁ。」


『なるほど。お手数をおかけいたします。』
「構わぬ。ではの。他の者も、明日に備えて今日はゆるりと休まれよ。今宵は何も起こらない。」
安曇はそう言い残して、空間を開いてその中に入って行ったのだった。


「と、いう訳ですが、俺と睦月はどうしますかね、ご当主?」
『何も起こらないのだから、一度邸に帰りなさい。明日の準備があるのだろう?』
「はい。・・・深冬御嬢さんはどうします?」
師走はそう言って深冬を見る。
青藍はつられたように深冬に視線を向けた。
深冬もまた問うように青藍に視線を向ける。


『深冬も一度お帰り。君のその姿を父上たちに見せてやりなさい。きっと、ずっと君を心配していただろうから。』
「はい、青藍様。青藍様は明日お帰りですか?」


『そうだね。明日は大騒ぎだろうけど、邸に帰るよ。父上たちには明日会おうと言っておいてくれ。私が五体満足で帰ってきたことは、睦月と師走が証明してくれるから。』
「解りました。」


『では、睦月、師走。邸まで深冬の護衛を頼むよ。』
「「畏まりました。」」
睦月と師走はそう言って軽く一礼する。


『よろしく。・・・それで、キリトたちは、帰らなくても平気なの?』
青藍は首を傾げる。
「あはは。いいんじゃないかな。隊長も許してくれるよ。」
「一応、予定では往復で一か月いないことになっているからなぁ。」
「今日くらい行かなくてもいいでしょ。」


「蓮さん!おれは、休んでもいいです!?」
「いいよ。僕も休むし。仕事したいなら帰ってもいいけど?」
「いえ!遠慮なく休ませていただきます!!」
即答した紫庵に皆が笑う。


「それじゃ、私たちは移動しましょうか。我が家へ招待いたします。あまり広くはないのだけれど。侑李さんたちは、ここに泊まってくださいね。」
「その内父さんと母さんが帰って来るから、それまでよろしく、蓮。」
「うん。兄さんは青藍の見張りをよろしく。」
「あはは。解ったよ。」
蓮の言葉に燿は苦笑して頷く。


『え、酷い。見張りって何。』
「青藍が深冬に会いたくなっちゃって朽木邸に忍び込もうとするのを止める役。」
『そ、んなこと、しない、よ・・・?』
青藍はそう言って目を逸らす。


「目が泳いでるよ、青藍。まぁ、どっちにしろ、青藍、今日は眠れなさそうだから、兄さんが付き合ってあげてよ。」
「そうだね。俺は青藍の見張りで起きていなくちゃならないし、眠れない青藍に付き合ってあげるよ。」


『何故ばれているのか・・・。』
楽しげな蓮と燿に、青藍は小さく呟く。
「青藍。今、邸に忍び込むと、青藍でも取り押さえられるぞ。」
そんな青藍に、深冬は呟きを返す。


『何で僕が忍び込むこと前提なの・・・。帰るなら堂々と帰るよ・・・。』
「そうか。それなら、明日、堂々と帰って来い。皆が出迎えてくれる。」
『うん。また明日会おう。・・・ふふ。明日の約束が出来るというのは、いいねぇ。』
「そうだな。・・・また明日、青藍。」
『うん。・・・それじゃ、皆さん行きましょうか。』


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