色彩
■ 35.未来の変化


「まぁまぁ、安曇様。その甘味を存分に味わって頂いて結構ですから、落ち着いてお座りください。今日も各種取り揃えておりますよ、安曇様。」
奥から出て来た燿はそう言って、次々とテーブルに甘味を並べる。


ホールケーキ、ロールケーキ、プリン、パフェ、餡蜜、練切り、落雁、きんつば・・・。
あっという間にテーブルは甘味で埋め尽くされた。
安曇は嬉しげに椅子に座る。


「お茶も入りましたわ、安曇様。」
「うむ。頂こう。」
安曇は茶羅がテーブルに湯呑を置くや否や、嬉々としてそれらに手を伸ばし始める。


『あはは。安曇様、相変わらずの様ですねぇ。』
「見ているこっちが胃もたれしそうだよ・・・。」
「これ、一人で食べちゃうもんね・・・。」
「本当にお菓子で出来てるよな、安曇様・・・。」


『さて、安曇様。食べながらでよろしいので、今回の件、ご説明をして頂けますか?・・・あ、迅さんたちに紹介が先ですね。こちらは安曇様。深冬のお父上です。何者かどうかというのは、まぁ、その内解りますので説明は省略します。』
「そなたらの話は聞いている。青藍を守ってくれたこと、感謝するぞ。」
もぐもぐと咀嚼しながら、安曇は適当に言う。


『あはは・・・。安曇様、適当ですねぇ・・・。』
「甘味の方が重要なのだ!」
『なるほど。それで、説明をお願いしたいのですが。』
「うむ。」


『まず、僕が行く前に見えていた未来とは何だったのです?』
「青藍は、遠征に出てから四年と九か月ほどで死ぬ、と。」
『四年と九か月という所が、悪意を感じますね・・・。』
青藍はぞっとしたように言う。


『それで、未来が変わったのはいつです?』
「変わり始めたのは、いつかは解らぬ。九か月ほど前に未来に光が差し始め、未来が完全に変わったのは、三か月ほど前だ。」
『それは、その時期に何かあったということですか・・・?』
青藍は首を傾げる。


「そうだな。九か月ほど前、青藍は遠征隊が二つに分かれていることに気が付いた。それで、そこに居る迅という男と話をしたな?」
『えぇ。確かに、それは九か月ほど前ですが。』
「その時、その男は、そなたを信じると、ついていくと言った。その時、光が差した。」


『では、迅さんの言葉で・・・?』
「そうだな。本来ならば、迅という男は、死んだ主しか、主とは認めないはずだった。それ故、あんな言葉が出るはずではなかったのだ。迅がそなたを信じなければ、そなたは迅の協力を得られず、生き残ることが出来なかったのだろう。」
『では、未来が変わり始めたのは、その前・・・。』


「そういうことになるな。その前の何かが、影響を与えたことは間違いない。それが何だったのかは、我らにも解らぬ。我らはその未来が変わることなどないと考えていた故、そなたらを観察することはしていなかったのだ。そなたが死んで、咲夜の箍が外れ、霊王の世は崩れる。つまり、尸魂界の終焉だ。我らには、それしか視えていなかった。」
安曇はそう言ってきんつばを口の中に放り投げる。


『世界の均衡は崩れ、死神も、人間も、虚も死に絶えるはずだったということですか?』
「あぁ。咲夜も我らも。あの霊王でさえなす術なく。・・・ただ一人、次の王を除いて。それ故、我らは次の王のための準備に取り掛かっていた。それが我らの使命である故に。」


『なるほど。それほどまでに、未来は確定していたはずだったわけですね。・・・それで、三か月前というのは?』
「そなたの判断だ。」


『僕の判断?』
「橙晴に聞かれただろう。二年後まで待つか、危険を冒して半年で帰るか。」
『えぇ。僕は、半年で迎えに来いといいました。』


「それだ。当初は、そちらの選択肢はなかったのだ。そして、そなたは半年で帰るという選択をした。その時、完全に未来が拓けたのだ。・・・あの時、そなたは即答したな。」
安曇はおかしそうに言う。


『橙晴なら、やってくれると思いましたから。』
「私は、あの時、そなたが即答したことに、思わず笑った。」
『だって、早く帰りたいじゃないですか・・・。』


「ふふ。・・・そなたらの信じる心が、未来を動かしたのだ。緩やかに動いた未来は、歪みなく、万年先まで未来を見せるとのことだ。そなたらは、全員が、互いに互いを信じ、前を見て、挫けず、投げず、未来を掴んだ。我らには、出来ぬことだ。我らには、未来を受け入れることは出来ても、未来を変えることは出来ぬのだから。我らが手出しをすれば、世界は歪み、歪で、不安定なものになってしまうからな。」



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