色彩
■ 30.再会


「・・・死にたくなるな。」
『そうだろうね。でも、僕が死ねば世界が失われると聞いたらそれも出来ない。何より辛いのは、目の前で大切なものが失われていくのに、自分の身に代えてそれを守ることが出来ないことだ。自分の身に代えて守っても、そのせいで世界が失われるのならば、守れない。守った意味がない。』
青藍の言葉に皆が沈黙する。


『では、大切なものが失われていくのを、見ていろというのか。世界のために。見殺しにしろと?それで世界を守れと?守った世界には、大切なものが欠けているのに。そんな世界で生きろというのか。』
それを想像したのか、青藍は虚ろな表情になる。


『そんなの、地獄だ・・・。離れるだけでも辛いのに、居ないなんて辛すぎる。そんなことになれば僕は、大切なものを奪った世界を恨んで、憎んで、世界を見捨てるだろう・・・。だから僕は、僕が一番怖いんだ・・・。』
そう言った青藍の瞳は翳っている。


誰一人として、掛ける言葉が見つからない。
これが彼の苦悩なのだと、皆が無力感に陥った。
青藍の苦悩を知っても、俺たちはただそばに居ることしか出来ない・・・。
迅はそう言った侑李の悔しげな表情を思い出す。


あれは、そういうことなのか。
確かに、俺などでは、何もできない。
何もしてはいけない。
だが、このままでは、ランは、闇に呑まれてしまう。
背負うものの大きさに、押し潰されてしまう。


何か、何か出来ることはないのだろうか。
迅は考えるが何一つとして思い浮かばない。
そしてそれは、その場に居た誰もがそう思っているのだった。


皆が何とか考えを巡らしていると、ガラリと店の扉が開けられた。
「ん?開いているぞ・・・?誰か居るか・・・?茶羅?燿さん?」
そう言いながら入ってきた人物を見て、迅たちはその眩しい髪色に目を眇める。


銀色に輝く髪。
紅色の澄んだ瞳。
入ってきた人物は、中に人が居ることに目を丸くして、ある一点で視線を止めた。
見つめられた方も、目が離せないようだった。


「・・・せい、らん?」
小さな声が、静かな店内に響く。
その声を聞いて、先ほどまで翳っていた青藍の瞳に光が差した。
これが、ランの、光・・・。
迅はそう感じて、深冬を見つめる。


「なぜ、そんな、泣きそうな、目を、しているのだ・・・。」
泣きそうな青藍を見て、深冬は泣きそうになりながらそう零す。
『ちょっと、弱音を、吐いて、皆を、困らせて、しまったから・・・。』
「ば、か、じゃ、ない、のか。弱音なんか、吐かなくたって、青藍は、皆を、困らせるだろう。」
二人とも声が震えて、その瞳には涙が浮かんでいる。
青藍は深冬の言葉に泣き笑いの表情を浮かべた。


『そう、だね。・・・久しぶりだね、深冬。』
「青藍!」
泣きそうに言われて、でもそれが、間違いなく青藍で、深冬は迷わず青藍に抱き着く。
青藍はそんな深冬をふわりと抱きしめた。


本当に、青藍だ・・・。
抱きしめられながら、深冬は内心で呟く。
全身の細胞が、今自分を抱きしめている者は、青藍なのだと叫んでいるようだった。
抱きしめる腕を強めて、青藍の胸に擦り寄る。
それに応えるように回された腕がきつくなって、彼の額が肩に乗せられたのが分かった。


「か、かってに、一人で、出て行ったくせに。」
『ごめん。』
泣きそうな声が返ってきて、深冬は涙が溢れるのを感じる。
「なんで、青藍が、ないている、のだ。泣きたいのは、こっちの、方だぞ、馬鹿青藍。」


『まだ、泣いてない、よ。』
「それじゃあ、早く、泣け、ばか。」
『深冬より、さきに、泣けるわけ、ないでしょ。・・・もう、泣いていいよ、深冬。』
そう言われると同時に、深冬の瞳から涙が零れ落ちる。


「ばか、せいらん。」
『ごめんね、深冬。』
「三年以上、待ったのだぞ・・・。」
『うん。』


「いつも、青藍が、居た場所に、青藍が、居なくて・・・。名前を、呼んでも、返事が、なくて・・・。」
『寂しい思いを、させたね。』
「何度、会いに行こうと、思ったか・・・。でも、行ったら、青藍が、苦しむから、行けなかったのだ・・・。」
『うん。解っているよ。』


「嘘でも、青藍が死んだ、なんて、聞きたく、なかった・・・。」
もし、それが、本当だったらと、いつか、それが本当になってしまうのではないかと、ずっと、そんな考えがグルグルと深冬の頭の中を支配していたのだ。
「生きて、いるのが、解っていても、怖かったのだぞ。ばか!」
一度溢れた涙は止まらなくて、三年分泣くのだろう、と、深冬はどこか冷静に思う。


「そばに、居て欲しいと、言ったのは、青藍の、くせに。なぜ、青藍が、そばに居ないのだ!馬鹿青藍!本当に、馬鹿だ・・・。」
嗚咽を漏らしながら悪態をつく深冬を、青藍はただ抱きしめる。


[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -