色彩
■ 29.世界の中心


『・・・勝手に研究するのやめてよ。』
「兄様はともかく、何で私の血まで勝手に研究しているのよ・・・。」
『え、兄様はともかくって酷くない?』
「兄様はやたらと怪我をするのだから、流れ出る血があるじゃない。」


『えぇ!?そうなの!?睦月、怪我した僕から血を抜いたの!?酷い!』
青藍は泣きそうになりながら言う。
「・・・そんなこともあったかもしれないな。」
『酷い!そのくせ、僕に不味い鉄分入りの液体飲ませたの!?あれ、死ぬほど不味いんだからね!?怖くて未だに何を入れているのか聞けないんだから!!』


「知りたいか?えーとだな・・・。」
『いや!言わなくていい!!なんか僕は大事なものを失う気がする!!』
「そうか?・・・まぁ、俺なら飲まないけどな。」
『何それ!?そんなものを飲ませないでー!!』


「怪我するお前が悪い。この間の加護だって、左胸に虚の爪が刺さったらしいじゃねぇか・・・。」
睦月に唸るように言われて、青藍は動きを止める。
『いや、あれは、だね・・・。ちょっと、間に合わないかなぁ、みたいな・・・。』


「ほう?間に合わないから心臓に刺さるように動いたって訳か。」
『別に、心臓に刺さるように動いたわけでは・・・。』
「だが、お前は、そうなることを覚悟して動いたんだろ?後先考えずに。弱ったお前を見て、すかさず次の虚を呼ばれたんだってな?響鬼が来なかったらどうするつもりだった?」
問われて青藍は沈黙する。


「場所が場所だし、状況が状況だから、無茶するなとは言わないけどな。自分を犠牲にするのだけはやめろ。」
『うん。ごめん。』
「お前はまだまだ自覚が足りない。何故、お前が生き残ると未来が拓けるのかを考えろ。遠征に行ったお前が死んで悲しむのは、一番責任を感じるのは、誰だ?」


『それは、たぶん、母上だ・・・。それじゃあ・・・。』
青藍は何かに気付いたように睦月を見る。
「恐らく、そういうことだ。箍の外れたあの人を止めることが出来るのは、現時点でお前だけなんだぞ。そのお前がああいう理由で遠征に行って死んだりしたら、あの人はまた闇に呑まれる。そうなれば、世界が消えることが想像できるだろう。お前はそうなることを知っているだろう。」


『うん・・・。そうか。そういうことなのか・・・。だから愛し子は、僕なのか・・・。』
青藍は納得したように呟く。
「まぁ、これは俺の仮説だがな。適用できるのは今回の件だけだし。今回お前が遠征隊に送られたのは、間違いなく、あの時の咲夜さんの姿が影響している。そしてそれをお前は止めてしまった。だから四十六室はお前を恐れる。お前を咲夜さん以上の化け物だと思う。あの時の事情を知らないのならば当然だ。」


「確かにそうだわ。兄様はあの時、母上を止めることで世界を守ったけれど、傍から見れば、兄様は母上以上の化け物ってことだもの。だから四十六室は、こんなにしつこく兄様を狙うのね?」
茶羅の問いに睦月は頷く。


「そうだ。彼奴らは、青藍という存在が世界に与える影響を知らない。今回、理が動いたその中心に、青藍が居ることを知らないんだ。だから、あんな真似が出来る。危うく世界が失われるところだったのに、それすら感知できない。」


『どうやら僕は、本当に世界の中心にいるらしいね。理解はしているつもりだったけど、実感したのは初めてだよ。』
青藍はそう言ってため息を吐く。
「でも、それを簡単に語る訳には行かない。」
「それを語らずに、今後も四十六室と付き合って行かなければならないってことかぁ。」


「僕、気が遠くなりそうだよ・・・。」
「僕も・・・。」
「なんだかよく解らないですけど、大変だということは理解しました!」
『あはは。そうか。紫庵は聞いていないのか。では、梨花姫は、今回、誰にも僕のことを聞かなかったんだね?』


「へ?よく解りませんが、梨花ちゃんは、何も知らない、と。」
『なるほど。何も聞かずに協力してくれたわけか。賢明な判断だね。』
「賢明な判断、ですか?」
青藍の言葉に紫庵は首を傾げる。


『世の中には、知らない方がいいこともあるのだよ、紫庵。聞いてしまえば、知ってしまえば、身動きが取れなくなることもあってね。そうすると、僕の様な目に遭う。』
「それは嫌です!」
はっきりと言った紫庵に青藍は苦笑する。


『あはは。まぁ、そうだよね。それでなくても、僕の近くに居るだけで、大変だものねぇ。』
「他人事かっての。」
『他人事だと思っていないとやっていられないこともあるのだよ、師走。もし、君が僕だとして、自分の言動でどれほどのことが動くか考えていたら、どうなると思う?』


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