色彩
■ むず痒い 後編

「うーん・・・なんというか、こう、同じ気はしたな。」
「同じ?」
「あぁ。俺の体には、霊王の右腕があるからな。そのお蔭で、俺はこうして生きている。霊王の右腕が俺の命を繋いでいるように、消えかけている命を繋ぐものなのだろう、と。」


「なるほど。まぁ、そんな感じではありますけど。」
「何だか曖昧な返事だな。」
苦笑されて、苦笑を返す。
「睦月は、そうかもしれませんが、俺は違うので。」


「違う?」
「はい。俺と睦月は正反対で、隣り合っている。睦月は魂魄を留めます。でも俺は、魂魄を循環させてしまいます。・・・あまり、俺を信頼しない方がいいですよ。隊長格とまともに戦えば全く歯が立ちませんが、魂魄を抜いて現世と尸魂界の間の魂魄の流れに乗せるのは、意外と簡単なんです。治療と称して、俺が貴方の命を奪うかもしれない。」


「はは。それはないな。」
軽やかに言い切られて、目を丸くする。
「何故、そう思うんです?」


「お前も睦月と同じで、気に入った場所でなければ留まらない。それなのに、茶羅の護衛だったり、四番隊の手伝いだったり、十二番隊の研究だったり・・・それだけ俺たちと関わっているのだから、お前は此処を気に入っているのだろう。俺たちのことだって、仲間だと思ってくれているのだろう。だからお前は、そんなことはしないさ。」
浮竹さんの朗らかな声に内心で納得する。


・・・そうか。
この信頼が、むず痒い原因なのだ。
誰しも裏切られた経験があるのに、信頼することを忘れない、その強さと、温かさが。
それが自分に向けられていることが。
それを嬉しいと思っている自分が。


「・・・く、はは。ははは!」
何だかおかしくなって、思わず笑ってしまう。
「何を笑っているんだ?」


不思議そうに首を傾げる浮竹さんは、俺を全く警戒していない様子で。
その警戒のなさが、こちらの警戒心までもほぐしてしまうようで。
まぁ、今この状態で俺が浮竹さんに何かしようとしても負けることは明白なのだけれど。
この人には霊王の右腕と霊妃の加護があるから、俺程度がどうにかできる訳がないのだ。


「師走・・・?」
笑い続けていると、浮竹さんは怪訝な顔をし始める。
「はは・・・。これから先、俺の未来は明るそうだなぁ。」
「暗い未来しか思い浮かんでいなかったのか?」
「そういう訳でもないですけど。なんというか、もう、引き返せないなぁ、なんて。」


「嫌なのか?」
「まさか。楽しみですよ、俺は。」
「そうか?なんとなくだが、お前は一人でどこかへ行ってしまいそうでな。それも、わざわざ暗い道を選ぶ。だが、もう引き返せないというのならば、ここにお前の居場所が出来たのだろう。それならいいんだ。」
苦笑するように言われて、目を丸くした。


「そういう奴に、見えますか?」
「まぁな。お前は少し、昔の漣のようだ。」
「・・・まぁ、幼い頃の境遇は、少し似てますよ。四季婆さんが迎えに来るまで、俺は母方の祖母に蔵に閉じ込められていましたからね。何処の誰とも知れない男との間に生まれてきた子どもがこの髪と瞳の色だったのですから仕方ありませんけど。自分と違う者を嫌悪するのは、人の性ですし。」


「はは。そうだな。俺もこの髪だから、よく難癖をつけられたものだ。子どもの頃は、触れると病気がうつる、なんて言われたこともあった。」
「そりゃ辛いですね・・・。」


「まぁな。だが、こんな髪でも、こんな病弱な体でも、付き合ってくれる友人が居るからな。」
「京楽さんですか?」


「あぁ。他にも色々と居るが、何だかんだ言って、京楽には一番世話になっている。お蔭で今では他人と自分が違うことなんて当たり前だ、とまで思うようになった。人の真価が現れるのは、見た目なんかじゃない。もちろん、体の丈夫さでもない。どうあるか、だ。そこに人の真価があるのだと、俺は思う。」


・・・そう言うことを言われてしまうと、頑張ってみようかな、なんて思ってしまう。
少なくともこの人は、見た目で人を判断するような人ではないのだ。
そんな人の信頼が欲しいと思ってしまうのは、俺が未だに孤独だからだろうか。


いや、違うな。
孤独を抱えながらも独りではないこの人たちを見てしまっているからだ。
それが見えるほど近くに居るからだ。
・・・本当に、もう引き返せないらしい。
俺は、もう、この人とも、他の死神とも、朽木家とも繋がってしまっているのだ・・・。
師走は内心苦笑する。


だが、その繋がりは決して不愉快なものではなく。
むしろ、心地よい。
未だ、むず痒さは消えないけれど。
それでも、今居る場所が自分の居場所だと、それは間違ってはいないと、胸を張ることが出来る気がした。



2017.02.14
本編では殆ど描いていない師走の思考。
居心地の良さに居心地の悪い思いをしている師走でした。


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