色彩
■ 琥珀庵の日常 後編

「・・・俺のことはいいでしょう。」
「えぇ?気になるよ。だって、あの茶羅だよ?僕、未だに何故燿君を選んだのか解らない。」


・・・にこやかだが、言葉が刺々しい。
だからこの人は怖いんだ。
燿は内心で呟く。


「それは俺も聞きたいです。茶羅が、俺を選ぶなんて、思いませんでしたから。その上、茶羅を妻にするなんて、夢のまた夢だった。相手はあの朽木家の姫君なのですから。」
「君だって周防家の血を引いているじゃない。初めて聞いた時、僕、吃驚しちゃった。あと少しすると、君と僕は遠い親戚だ。」


「・・・え?」
楽しげに言われた言葉に、燿は唖然とする。
慌てて思考を巡らせるが、その要素は一つもない。
あの朽木家ですら、京楽家との血縁関係はない。
周防家もまた然り。


・・・どう考えても、京楽さんとの繋がりはないはず。
燿はそう思って、首を傾げる。
「どういうことです?」
不思議そうに言った燿に、京楽は笑う。


「聞いていないみたいだね。蓮君も知っているはずだけど。」
「?」
「・・・うん。ちょっと耳を貸して。」
言われて燿は屈んで耳を寄せる。


「・・・采湧はね、僕の弟、京楽一色なのさ。」
「・・・!?」
ひそひそと内緒話をするように言われて、燿は目を丸くして固まる。
「あはは。」
その様子に、京楽は楽しげに笑う。


「え・・・?だって・・・え・・・?」
燿はまじまじと京楽を見て、記憶の中にある紫庵と見比べる。
・・・紫庵のどこにも京楽さんの要素がない。
からかわれている?
いや、わざわざそんな嘘を吐く必要がない。


「・・・本当、ですか?」
「うん。驚いた?」
「そりゃあ、驚きますけど・・・あぁ、でも、そうか。だから、梨花・・・。」
呟くように言った燿に、京楽は楽しげだ。


「そうそう。だから、梨花ちゃんなのさ。慶一殿も、文句は言えなかったみたいだよ。」
「なるほど。梨花があっさりと婚約者にするわけですね・・・。」
全てを理解した燿は、そう言って苦笑する。


「あはは。ま、僕は良いと思うけどね。結構お似合いでしょ、あの二人。」
「えぇ。梨花が引っ張っていますからね。紫庵も紫庵でめげないし。」
「うん。まぁ、今の所秘密の話ではあるけれど。」
「そうでしょうね。しかし、縁とは異なものですねぇ。」
燿はしみじみという。


「そうだねぇ。」
頷きながら、京楽はほうじ茶を啜る。
「朽木家を中心に、色々な縁があるものです。本当に、朽木家の皆さんは凄いですよねぇ。いや、一番すごいのは咲夜さんですけど。」


「確かに。僕はたまに、世界は咲ちゃんを中心に回っているんじゃないかと思うよ。」
「青藍も大概ですけどね。」
「青藍は咲ちゃんにそっくりだからね。」


そんな時、ガラリ、と扉が開かれて、ある人物が姿を現す。
「・・・どうしてこんなところに居る・・・。」
地を這うような低い声に、京楽はぎくり、とする。


「や、やぁ、晴ちゃん。今日も可愛いね。あ、今日は簪なんだね。そっちも似合ってる、よ・・・へぶ!?」
入ってきた晴は、京楽の言葉を聞いているのかいないのか、真っ直ぐに京楽に歩み寄ってきて、容赦なく拳をその顔面に叩きつける。
燿はその様子を苦笑しながら見つめた。


実を言えば、今日晴が此処に来ることを知っていたのだ。
彼女の友人が誕生日だとかで、ケーキを用意しているのである。


「・・・この、馬鹿隊長!!私が今日非番なのを知っておられますよね!?そして、副隊長は副隊長会議です!その他、席官たちも出払っています!貴方が抜け出して、誰が我が八番隊の指揮を執るのですか!!!!」
「ご、ごめんなひゃい。」
あまりの気迫に、京楽は一も二もなく謝罪を口にする。


「隊長の書類が滞ると、隊士まで仕事が滞るんですよ!?月末の残業率が高いのは、十一番隊と、我が八番隊なのです!隊長は私たちを殺す気ですか!月末と言えばお給料が入って、皆が誘ってくれるのに、仕事があるせいで、行くことが出来ないことだってあるんです!八番隊は付き合いが悪いと思われているんですからね!?その辺、理解しておられます!?」


「あはは・・・。まぁ、落ち着きなよ、晴。他のお客様が驚いているよ。」
「燿君も燿君よ!隊長が来たら私に連絡するって言ったじゃない!」
詰め寄られて、燿は苦笑する。


「今日晴が来ることは知っていたからね。だから、連絡はしなかったのだけれど、駄目だった・・・?だって、晴、友達と遊んでいたのでしょう?いつもお仕事を頑張っているから、そのくらいの息抜きは必要だと思ったんだ。」
眉を下げて言った燿に、晴はぐっと奥歯を噛みしめる。
それを見た燿は、さらに言葉を続ける。


「俺は、晴が疲れないように、気を付けたつもりだったのだけれど・・・ごめん。」
しゅんとしながら言われて、晴は自分を落ち着かせるように一つ息を吐いた。
「燿君が謝る必要はないわ。私の方こそごめんなさい。私のことを気にかけてくれて、ありがとう。」


・・・なんというか、燿君って、青藍と同類なんだねぇ。
あっという間に晴を鎮めた燿に、京楽は内心で呟く。
京楽は彼が演技をしていることに気が付いているのだ。
妹ですら騙されるって、どういうことなの・・・。


少なくとも、青藍のそれは茶羅には通用しないが。
いや、茶羅が鋭いということもあるけれど。
晴ちゃんだって鈍くはないはず。
京楽はこっそりと逃げ出しながら、チラリと燿を見る。


まぁ、助けてくれたようだし、今日のところはこれで勘弁してあげようかな。
京楽はそう考えて、ひらりと羽織を翻しながら外に出る。
帰り道で、日本酒のチョコを食べられなかったことを思い出し、臍を噛む。
しかし、一か月ほど後、バレンタインに七緒から日本酒のチョコを貰って、京楽はご機嫌になるのだった。



2017.01.20
京楽さんはこうして定期的に燿を苛めて楽しんでいます。
しかし、やられっぱなしでは居ないのが、燿という男。
京楽の逃亡の手助けをすることで、先手を打ちます。
お互いに厄介な男だと思っていますが、何だかんだで仲のいい二人です。
ちなみに、甘酒は燿の手によってこの後すぐに浮竹さんに届けられました。



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