色彩
■ 23.驚き

「・・・彼奴ら、仲良いな。」
「えぇ。付き合い長いですから。蓮さんは、青藍の最初の友人だそうです。」
迅と侑李は寝っころがりながら、小さな声で会話をする。


「ランには、大切な者があるのか。深冬、という様だが。」
「はい。青藍が自分から欲しいと言ったのは深冬だけです。それが青藍のたった一つの我が儘ですけど。」


「たった一つの我が儘?」
「朽木家当主で、愛し子である青藍は、色々なものに絡め取られて、自由にはなれません。それを引き受ける代わりに、一つだけ、我が儘を言おうと、彼奴は決めていたそうです。大切な者は自分で選ぶ、と。それだけで、自分は前を見て歩いて行けるのだと。もっと、我が儘でもいいのに、とよく思います。でも、彼奴は、それだけでいいと笑うんです。」


「・・・彼奴は、そんなに縛られているのか?」
「はい。驚くほどに、彼奴の身は重い。彼奴の苦悩は誰にも解らない。俺たちにできるのは、そばに居ることだけです。彼奴が何者であるのか、彼奴の周りには何があるのか、何を守っているのか。それを知ったところで、俺たちは無力でしかありません。苦しむ青藍を、傍で見守るしか、出来ないんです。」
侑李は悔しげに言う。


「どうして、青藍ばかりが苦しむのだろう、と思います。彼奴のそばに居る人たちは、皆、そう思っています。それで、彼奴が苦しむと、皆が苦しみます。俺だって苦しい。そばに居るのが辛いときもある。・・・迅さんは、それでも青藍のそばに居てくれますか?苦しさに負けて、青藍から離れていったりしませんか?もし、離れていくというなら、これ以上青藍に近付くのはやめてください。これ以上、彼奴に苦しみを与えないでください。」
懇願するように言われて、迅は沈黙する。


「・・・俺は、俺たちは、離れません。」
侑李はポツリと呟く。
「何故だ?」


「青藍が、笑うからです。・・・俺も京もキリトも、流魂街出身なんです。霊術院に入学したとき、俺たちは敬遠されました。特進クラスは、貴族が多くて。でも、青藍はそんなの関係ないって、笑って、俺たちを受け入れてくれました。それが、嬉しかったんです。流魂街では、霊力があると虚に襲われます。だから、流魂街に居ても、俺たちは、居場所がなかった。青藍は俺たちに居場所をくれました。だから、俺たちは、苦しくても青藍から離れようとは思わないのです。少しでも青藍の力になりたくて。」


「そうか。お前らは、ランが大切なんだな。ただの朽木青藍が大切なのか。」
「はい。青藍が朽木家当主とか、愛し子とか、そういうのは関係ないんです。俺たちは、青藍だからそばに居るし、こんなところまで迎えに来てしまう。この三年、咲夜さんと稽古をしながら、青藍のために、あちこちを駆け回りました。俺たちだけでなく、皆が彼奴のために睡眠時間を削って、必死で駆け回ったんです。四十六室を敵に回すことを解っていながら。馬鹿みたいでしょう?」
侑李はそう言って苦笑する。


「いや。・・・凄いな。ランも、お前も、仲間たちも。俺たちはもう帰ることはないと諦めていた。帰ることが出来るわけがないと。だから、ランが此処へ来て、自分は瀞霊廷に必ず帰る、と聞いた時、そんなことが出来るわけがないと、彼奴に言ったんだ。でも、彼奴は、ひたすらお前らを信じて、お前らのために、生き残って帰るんだ、と、いつも、前を向いていた。それで本当に迎えが来るのだから、驚きだが。」


「はは。迎えに来た俺だって驚いてますよ。五年計画だったのに、三年と数か月で迎えに来ちゃったんですから。」
「凄いな、本当に。・・・朽木家は、どういう人たちだ?」
「化け物揃いです。」
即答した侑李に、迅は吹き出す。


「化け物か。」
「はい。全員が全員、容赦がなくて、霊力も高くて、仕事も出来て、馬鹿みたいに綺麗で。それで、全員が、誇り高い。気高く、凛と前を見つめて、多くの者を導いてくれます。」


「皆、ランのような方なのか?」
「根っこは同じです。それぞれに個性がありますけど。咲夜さんは規格外ですが。迅さん、驚くと思います。きっと、副隊長時代の咲夜さんとは全く違う。朽木隊長が大好きで、家族が大好きで、浮竹隊長や京楽隊長が大好きで、仕方のない人なんです。」


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